表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/48

#11 さぞかし美味しいのだろうな

「え? 僕とエミリーの関係?」


「ああ、ちょっと気になって、な。もしかして、お前がエミリーとバイトしていることと、何か関係があると思って」


「ははっ――まあ、周りから見れば、疑問も抱きたくなるよね」



 放課後。バイト先の古座駅前店に向かう途中、俺は昼休みの出来事を思い出しながら、素朴な疑問をマドカに投げかけた。イラストレーターがコンビニの社長令嬢と仲が良いのは、なんとなく不思議だなと、そう思ったからである。接点がわからなかったのだ。



「幼馴染だよ。ただの――ただの、ね」


「ほほぉ? 詳しく聞かせてもらおうか!」


「通っていた保育所が同じだったのさ。そこで僕が絵を描いていたら、寄ってきたのが――エミリーだったわけ。別に珍しい話でもないと思うけど」


「本当に、ただの幼馴染なのか? 幼馴染って、簡単にチュウするもんなのか? 俺にも幼馴染がいたけど、そういうこと、嘘でもさせないお姉さんだったからさ――」



 そこでマドカが俺の方をキッと一瞬強く睨みつけた。すぐに元の顔へ戻る。


 どうやら、俺は――とんでもない地雷を踏んでしまったようだ。



「やっぱりエミリー、僕に――昔からさ。油断していると、いつも彼女は」


「ははっ! 好かれているじゃないか! 良かったな、マドカ」


「良くないよ。相手は社長令嬢だよ? 僕が釣り合うはずないよ。彼女に迷惑が掛かる。それに――」



 マドカは一瞬、考えたような素振りを見せた後、俺に言った。



「彼女は恋愛をよくわかっていない。それなのに、僕にキスをするのは――彼女が家族を欲しがっているからだ」


「家族? 少なくとも父親はいるのだろう、エミリー」


「エミリーのお母さん、彼女が物心抱く前に亡くなっていてね」


「そう、か」


「エミリーは間違った知識を持っている。キスをすれば家族が増えると、今でもそう思っている。だから――僕にキスをする理由は、その延長線上でしかない」


「ああ――そういうこと」



 きっとエミリーの父親が、正しい生命の成り立ちをきちんと教えなかったのだろう。だから御伽噺みたいな家族の作り方しか、エミリーは知らないのだ。


 あれ? でも――生命の誕生って、中学生くらいで学習するはずだ。エミリーは高校生だから、父親が教えなくても、学校で習っているはず。


 まさか――エミリー、本当はヒトの子どもがどのように誕生するか知っているうえで、マドカにキスをしているのではないだろうか。ええっと、それってつまり――



「なあ、マドカ。やっぱりエミリーって、お前のこと好――」



 いや、やめておこう。


 このように他者の感情を、憶測で語ることは許されないことだ。本人同士で話し合ってもらうしかない。カプ厨の俺からすれば、二人には末永く幸せになってほしいのだが――



「なにブツブツ言っているのさ? バイト、遅刻しちゃうよ?」


「おっと、またモノローグが漏れてしまっていたようだな」


「なんか珍しく、よく聞き取れなかったけど――危ない人だと思われても知らないからね」


「そうだな。仕事中の独り言は、お客様のご迷惑だもんな」



 俺とマドカは歩く速度を上げ、古座駅前店へ急ぐ。あまり仕事前、汗まみれにはなりたくなかったのだが、遅刻してしまっては店長たちに失礼だ。急げ、急げ。



「おはようございます! 瀬分重壱、ただいまシフトに入ります!」


「うるさっ」



 他の業種についてはわからないが、コンビニエンスストアの場合、出勤前の挨拶は『おはようございます』であると店長から教わった。早速実践したわけだが――



「マドカ、挨拶は基本だぞ? 大きな挨拶は、防犯対策にも役に立つし」


「そうかもしれないけど――ジューイチ!」



 突然、マドカが右手で俺の頭を下に向かって押し込んでくる。痛いじゃないか。そんなことをしたら、俺の頭はカメのように収納ができるようになってしまう。



「いいから、屈んで!」


「お、おう」



 マドカの指示に従い、慌ててマルチコピー機の物陰に隠れる。すぐに、見知らぬ男がレジカウンターを乗り越えて、出入り口の辺りを警戒した後、またレジカウンターへ戻った。


 あの男は一体――



「ほぉ、コンビニ強盗ではないか」



 ああ、そういうこと――確かに関係者でもないのに、レジカウンターに入れるはずがない。強盗か、窃盗犯か、そんなところだろう。挨拶が防犯対策になるとか、言っている場合ではなかったようだ。


 というか、何当たり前のように会話に混ざっているんだエミリー。一瞬、恐怖で震えそうになっただろう。俺が小説家ではなかったら、びっくりして、心臓麻痺であの世へゴーだったぞ。命拾いした。



「エミリー、わかっていると思うけど――」


「もちろんだ。あの男を――捕まえれば良いのだろう?」



 そう言ってエミリーは商品棚に隠れつつ、レジカウンターへ接近し始める。



「違うって! 何もわかっていない! 君はさっさと逃げて警察に通報しろって!」


「誰かそこにいるのか!」


「あ」



 さっきの見知らぬ男が、コピー機に近づいてくる。不味いな、マドカの声が聞こえてしまったみたいだ。このままでは、マドカが――仕方がない。



「よぉ、久しぶりだなぁ? 俺だよ、俺」



 俺はマルチコピー機の物陰から出ると、堂々と男に近づいて行った。



「ああん? てめえ、どこかで会ったことあんのか?」


「ううん! あなた、どこかで会ったことあります!」



 こういうことは堂々としていた方が、被害に遭わないと思う。嘘です、本当は危険なので、皆様は絶対に真似をしないでください。ジューイチお兄さんとの、約束だぞ?


 俺は何を、言っているのだろう。



「なるほど、同業者か」



 何がなるほど、だ。知ったかぶりすぎるだろ、この男。実はお馬鹿な人か?



「俺の名はフェルナンド曙。【ファンタスティック・ドーン】の首領ってわけ」


「へえ、ファンタスティック丼とな? さぞかし美味しいのだろうな」


「ちげーよ! ファンタスティック・ドーン! 秘密結社だっての!」



 ああ、コンビニ強盗娘のロコが所属している秘密結社のことか。



「そのファンタジスタ・ドン・キホーテが何の御用で?」


「てめえ、ふざけているのか!」


「すみません。小説家ですから、許してください」


「おぉ、なら仕方ねえか」



 どういうことだよ! さすがにこの俺も、よくわからなかったぞ!



「あなたを不法侵入とコンビニ強盗で訴えます! 理由はもちろん――」


「はぁ? 何を言っている? てめえ、この街のルールを知らないのか?」


「覚悟の準備を――って、この街の、ルール?」


「秘密結社は、その活動範囲を逸脱しなければ、警察に介入されないっていうルール、知らないわけないよな?」



 すみません、知らなかったです。も、申し訳なかったり、あったり。



「だからてめえは、俺を訴訟できないってわけ。秘密結社活動尊重条例に書いてあるし」


「随分とまあ、この街の条例に詳しいですなあ」


「元弁護士の八百屋だからな、詳しいのは当たり前――って、そんなことを言っている場合じゃねえ! トーリはどこへ行った?」


「店長? 奥の事務所じゃないんですかね」


「留守みたいだったからよ。このチラシ、置いといたから伝えておいてくれ」



 フェルナンドのおっちゃんが、俺に一枚紙を渡してくる。それを受け取り、中身を一瞥する。へえ、駅前商店街対抗、春の大運動会のお知らせか。ふーん。



「じゃあ俺は夕方に向けて、叩き売りの準備があるからよ」



 おっちゃんが、店を出ていく。


 あれ? じゃあこのおっちゃん、強盗とかじゃないってこと?



「誰だよ! 強盗とか言い始めたヤツ!」


「我なのだ……てへ」


「マドカ」


「エミリー、ちょっと――ちょっと、いいかな?」


「な、なにをする! マドカ待て――ジューイチ、助――」



 これ以上、ここにいる必要はないだろう。


 下手にマドカを刺激して、俺まで巻き添えを食らう必要はない。そう思った俺は、更衣室へ向かい、コンビニの制服に着替えつつ、今日の出来事をメモにまとめた。


 何か遠くから悲鳴のような声が聞こえたが、まあ、ギャグ補正でどうにかなるだろう。


 そんなフィクションを楽しむ読者のような感想を、俺は抱くのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ