引き出しの深淵より現れし冒涜的なもの
(似たようなネタは見た記憶があるけど、気にしない!)
その日、のび太の部屋は異様な静寂に包まれていた。薄暗い夕暮れの光がカーテンの隙間から漏れ、埃の舞う空気を淡く照らし出す。机の上に散らばった宿題の紙は、まるで古代の呪文が記された羊皮紙のように、意味不明な模様を浮かび上がらせていた。のび太は、何か得体の知れない不安に駆られ、机の引き出しに手を伸ばした。普段は何気なく開けるその木製の箱が、今日はやけに重く、冷たく感じられた。
引き出しを引く瞬間、空気が歪んだ。かすかな軋み音が響き、それはまるで深海の底で何かが蠢くような、不協和音の調べだった。のび太の指先が震え、心臓が不規則に鼓動を刻む。そして、引き出しが完全に開いたとき——そこに広がったのは、ただの収納スペースではなかった。暗闇だ。底の見えない、果てしない暗闇。光を吸い込むような漆黒の深淵が、のび太の視界を侵食した。
その深淵の中から、何かが動いた。最初はかすかな波紋のように見えたが、次第にそれは形を成し始めた。丸みを帯びた異形の頭部、青く輝く異様な色彩、そして二つの目——いや、目と呼ぶにはあまりに非人間的で、まるで星々の死を映す無底の穴のようだった。それが「ドラえもん」と名乗るものだった。だが、その声はのび太の耳に届く前に脳髄を直接震わせ、理解を超えた言語で彼の精神を抉った。
「ニャア……のび太くん、この世界はもう終わりだよ……」
その言葉は、風の唸りと共に響き、部屋の壁が脈打つようにうねり始めた。ドラえもんの体は、柔らかく見えて実は触れることすら許されない異次元の物質でできているかのようだった。のび太は叫ぼうとしたが、喉は凍りつき、ただ茫然とその存在を見つめるしかなかった。引き出しの縁から這い出るその姿は、時間と空間の法則を嘲笑うかのように歪み、膨張し、部屋全体を飲み込もうとしていた。
彼が持つ「四次元ポケット」と呼ばれるものは、ただの袋ではなかった。それは宇宙の裂け目、禁断の深淵への門であり、そこから漏れ出す異臭と冷気は、のび太の魂を凍てつかせた。ドラえもんは笑った——いや、それは笑いではなく、人間には理解不能な感情の断片が音として漏れ出しただけだった。そして、その存在が完全にこの現実へ顕現したとき、のび太は悟った。自分が見ているものは、未来から来た猫型ロボットなどではなく、名状しがたいもの、人の理性では計り知れない古の恐怖そのものだと。