第4話 銃撃されそうになった
放課後。フユのファンクラブからどうにか逃げ切った後。
俺はフユに案内されて喫茶店を訪れていた。
喫茶店の名前は『休憩処秋月』。
もしかしなくても―――
「……ここってまさか――」
「……はい、私のお家です」
つ、遂に自分のテリトリーで始末しに来やがった⁉
確かに自分の家なら外に漏れず、死体の処理も簡単。
……可愛い顔してよく考えたものだ。
どうにかして、店に入るのは避けなければ……確実にヤられる。
「実は私のお家。自家製のケーキとかも出しているんですが――」
「よし。早く行こう」
俺はフユの手を引いて店のドアを潜る。
雰囲気のあるレトロな木のドアを。
それを潜ると中には――
「らっしゃい‼」
なんか頭に白いハチマキを巻いた女性がいた。
どちらかというと、ラーメン屋に居そうな感じの。
まさか、ケーキが出るというのは嘘?
甘いもの好きの俺を誘い出すための?
いや、ラーメンも同じぐらい好きだが。
残念だったな、フユ。ハイカロリー食品で俺は殺せない。
……もちろん、日常的に食べ続けたら死ぬけどさ。
「お、お母さん! ホールに出る時はちゃんと着替えてください‼」
秋月が頬を膨らませ、両手を上げた状態で子供っぽく怒る。
それにハチマキ姿の女性は動じることなく、お帰りと言う。
「お帰りじゃありません‼ もう~私がいないとすぐそういう格好を――」
隣でフユが母親? に怒る。
俺はその様子を視界の端に捉えたまま、店の内装を確認する。
内装もやはり外装同様にレトロなデザイン。
木の椅子とテーブルが並べられ、落ち着いた雰囲気とコーヒーの匂いが充満していた。
……まあフユでなくても怒るよな。
流石にハチマキは店の雰囲気ぶち壊しだ。
「兎に角、着替えてきてください」
「ちぇ~。あの服着るの嫌い――」
言い掛けた若い茶髪の女性。
その女性と目が合った。
すると女性は――
「おいおい、フユちゃ~ん。アンタ、家に男を連れ込むなんて、流石アタシの娘だね~」
「へ、変なこと言わないでください‼ そ、そのハル君とは確かにお付き合いして……」
もにょもにょと真っ赤な顔で話を濁すフユ。
それを聞いて、女性が俺をグッと凝視してくる。
「なるほど。なるほど。アンタが娘の話にいつも出てくる夏陽ハル君だね?」
いつも話に出てくる?
それはもしかしなくても、『夏陽ハル君っていう男の子がすごく騙しやすそうなんです』みたいな話か⁉ それできっと今日の話題は、『お母さんが夏陽君を始末してくれたおかげで、無事に別れることができました‼』みたいな話になるはずだ。まさか身内をヒットマンとして擁立するとは……フユ、恐ろしい子。
「もうお母さん‼ どうしていつも余計なことばかり言うんですか‼」
赤い顔をしたフユに背中を押され、店の奥へと下がっていく母親。
間違いない。店の奥で俺を消す算段を考えるつもりだ。
俺に日常会話が露見した以上、今日やらなければいけないはずだ。
「色々とすみません。それとできれば、母の言ったことは忘れて欲しいんですが……」
母親を店の奥に追いやり、しばらくして戻ってきたフユ。
彼女は俺の元へ近づいてきたものの、視線は常に下を向いていた。
恐らく、俺に後ろめたい気持ちがあるのだろう。
……そんな残酷な抹殺方法を用意するとは。
だから俺は明確に自分の意志を示す。
「無理だ。あんな話、忘れられるはずがない」
自分から宣戦布告することにした。
これは一つの賭けだ。強硬手段に出られる場合もある。
俺がジッとフユの顔をみつめていると、フユが両手で顔を隠した。
そして慌てて床にしゃがみ込む。
「み、見ないでください‼ も~う……ハル君はどうしていつもそうなんですか……」
一見すると恥ずかしそうにしているようにも見えるが、これは何かの合図だ。
恐らくしゃがむことにより、奥へ消えた母親に何かを伝えようとしている。
実際、従業員通用口からフユの母親がこちらを隠れて見ていた。
手には何かを持っている様子。……きっとピストル的何かだ。
娘の邪魔な存在を消すために、そんなものまで用意するとは。
仮に今、あそこから打たれても俺に直撃しない場所。そんな場所、一つしかない。
「…………」
俺は黙ってしゃがみ込んだ。フユがしゃがみ込んでいる目の前に。彼女と重なることにより、母親に躊躇いを生む。俺を消すのは恐らく娘であるフユのため。その娘を犠牲にする場合、銃撃など絶対にしない。だから今、ここが最も安全な場所だ。
「……な、なんでハル君までしゃがむんですか⁉」
「……お前がしゃがむから」
フユが立っていたなら、当然立ったまま彼女を遮蔽物としていたはずだ。
それにしてもいつまで、恥ずかしがる演技を続けるつもりだ?
「べ、別に変なお話はしてないんですよ」
「わかってる」
ここは肯定して、俺が作戦に気づいたのを気取らせないようにしなければ。
俺が気づいたことに気づかれれば、フユは即座に体を傾けて銃撃を指示するだろう。
どうにか話を続けて、時間稼ぎをするしかない。
「それで一体、どんな話をしてるんだ?」
「あ、当たり障りのないことですよ。今日もハル君が誰かを助けてたとか。今日もハル君が皆を楽しませてたとか。今日もハル君がいっぱい笑ってたとか。今日もハル君と目が合ったとか。そ、そういうお話をしてるだけです……本当にそれ以外は何も……」
顔をさっきよりも赤くして、遂にフユが黙り込んでしまう。
だけどその視線は確実に俺を見ていて。
俺は思わず、その表情に心を奪われた。
演技だとわかっていても奪われたんだ。
潤んだ瞳。普段、学校では見せない恥ずかしそうな顔。
俺よりも小さいはずの体が更に小さく見えて。
何となく……可愛いいと思えた。
でもこれはあくまでも演技。もしかしたら、もう俺の策がバレているのかもしれない。
何としてもこのピンチを回避しなけれ――
「お客様。ウチの娘に絡むのはやめて頂きたい」
俺が状況の打破を考えていた時、後ろから声が聞こえた。
それも明らかに怖そうな野太い声が。