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第27話 少女が見た夢物語


「……ハル君のバカ」


 ハル君が私のお部屋を出た後。

 私はしばらく動けませんでした。

 ベッドへ横になったまま、何度もハル君の言葉を思い出していたんです。


『俺と結婚を前提に付き合い続けてくれ』

『それでも俺のこの気持ちは、ずっと変わらない』


 頭の中に浮かぶ二つの言葉。

 本当にハル君は卑怯です。

 人が熱を出している時に、あんなことを言うなんて。

 しかもハル君の言葉にビックリし過ぎて、熱が下がってますし。


 もう‼ どうしてハル君はいつも唐突なんですか‼

 私は寝返りを打ちつつ、枕の下にそっと手を忍ばせます。

 ゴソゴソと漁った枕の下。そこには堅いものが入っていました。

 それを引き抜いた私は、思わず安堵の声を漏らします。


「偶然とはいえ、机の上に置いてなくて助かりました」


 私が枕の下に置いていたもの。

 それは青い写真立てです。

 そしてその中には――


「相変わらず、ぶっきらぼうな顔ですね」


 中学の文化祭。その後夜祭。

 皆が校庭でフォークダンスを踊る中、一人で校庭の隅に立つ男の子。

 その男の子はフェンスに背中を預けて、ぶっきらぼうに校庭の真ん中を眺めていました。

 竜虎ちゃんから聞いた話によると、師子王君に無理矢理誘われたらしいです。

 でも踊る相手も居なくて、結局隅に立ち続けていたとか。


 もしもあの頃、私がハル君に声を掛けていたら、彼は私の手を取ってくれたでしょうか?

 ……きっと、何も言わずに立ち去りましたよね。

 当時も今もそういうところがハル君にはあります。

 でも今日のハル君は違いました。


 いつもは大切なことほど、口にすることを躊躇うのに。

 いつもなら人に対して、つかず離れずいるはずなのに。

 今日のハル君は、自分から歩み寄ってきてくれたんです。

 それも自分から――


「あ、あれって告白ですよね? 私、ハル君から告白されたんですよね」


 私は手にした写真立てをギュッと、胸に押し当てます。

 心臓の鼓動はずっと早くて、顔は熱いまま。

 でも明らかにもう熱は下がってて。

 これは全部、ハル君の所為なんです。


「……ちゃんと責任、取ってくださいね」



   ***


 夢を見ました。

 それも私とハル君の夢を。

 出てくるのは子供の頃の私と、子供の頃のハル君。

 現実の私たちは小学校に入る前。そこで一時的に縁が切れてしまいましたが、夢の中の私とハル君の縁はずっと繋がっていて。その縁は高校生を卒業した後も、切れることがありませんでした。それどころか大学卒業後、ハル君はウチのお店でお仕事をしていて。


「いいんですか。折角大学を卒業したのに、ウチみたいな喫茶店に就職して」

「最初からそのつもりだったからな」


 パソコンにお店の売り上げや経営状態を打ち込みながら、私の質問に応じてくれるハル君。今よりも少し背が伸びて、クセ毛もやや落ち着いた感じです。相変わらずの仏頂面ですが。


「お前はケーキやドリンク、俺は経営戦略でこの店を支える。それが効率的だろ?」

「でもその……ハル君だっていつまでもウチの店で――」

「何言ってるんだよ。結婚するんだから、ずっといるに決まってるだろ?」

「わ、私‼ そのお話、初耳なんですが‼」

「今、言ったからな。ちなみに俺はガキの頃から決めてた」


 大事なことをお店の休憩室で伝えて、ハル君がカタカタとまたキーボードを叩きます。

 夢の中だろうと、やっぱりハル君はハル君なんですね。

 嬉しいような。少しだけ残念なような複雑な気持ちです。


「というかお前のためじゃなかったら、誰が好き好んで苦手な理系に進むかよ」

「そういえばハル君、数学はいつも赤点でしたね」


 そこは現実のハル君と変わらないんですね。

 文系の成績はいつもいいのに、理系はいつも悪くて。

 それなのに、理系の道に進むなんて。

 それも私のためってはっきりと……。


「バカ言うな。高校三年の一学期にはお前を抜いただろうが」

「でもそのおかげで文系は全部、竜虎ちゃんに負けましたよね」

「赤点にならなかったから問題ない。今ならあいつにも勝てる」

「竜虎ちゃんが聞いたら、絶対に怒られちゃいますよ」

「そのバカ社長に、業務計画を出さないといけないんだよ」

「ダメですよ、そんなこと言ったら。無償で援助してくれるんですから」


 休憩室に響く私の笑い声。

 なんて言うか、その空間には幸せが沢山溢れていて。

 見ているだけで、いつか私もハル君とこんな風になりたい。

 そう自然と思えたんです。

 とはいえ、現実のハル君の方が十倍ぐらい素直じゃないですが。


   ***


 写真立てを押し当てたまま、私はいつの間にか眠っていました。

 枕の下に写真を置いていたのは、夢の中でもいいからハル君と仲直りをするため。

 夢の中でハル君と会いたくしてしたことです。

 それなのに、まさか抱きしめた方が効果的だったなんて。


「なんで夢の中だと、あんなに大胆なんですか‼」


 現実のハル君もそうですが、なんで二人とも変なところで素直なんですか。

 確かに嬉しいですが、私にも心の準備というものが……それに単純に恥ずかしいですし。

 もう‼ 夢の中でも私のことを掻き乱して。


「……本当にズルい人です」


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