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第24話 味気ない通学路

 月曜日。俺には一昨日からの記憶がほとんどなかった。

 理由は明白だ。土曜日の朝、獣坂竜虎に襲撃されて丸二日気絶していたから。


「……憂鬱だ」


 いつもの通学路。

 いつもならフユと待ち合わせる場所。

 そこにフユの姿はなかった。

 遅れることもあるので、少しだけ待ってみるもやはり現れない。

 一体どうしたんだ?

 疑問に思い、スマホを確認してみる。


 そういえば、今日スマホを確認するのは初めてだな。

 朝はギリギリに目が覚めて、そこから急いで着替えて登校してきた。

 やはりあいつの攻撃力は殺人級である。飼い主であるレオには躾を頼みたいほどだ。

 丸二日も気絶し続ける俺を、平然と放置できるウチの両親もおかしいが。


「なんだ?」


 スマホを確認すると、朝早くフユからメールが届いていた。

 内容としては『本日は休む』という趣旨のもの。

 少しでもスマホを確認していれば、見れたはずだった。

 でも俺はそれを忘れていた。いや、それ以外のことを考え続けていた。

 その思考の根幹にあるのは、金曜日の夜に行ったフユとの問答である。


 俺は学校に歩きながら考える。

 なぜ、フユが怒ったのか。

 なぜ、竜虎に殴られたのか。

 その理由について考える。

 俺は未だに、自分の考えが間違っているとは思わない。

 あとのことを考えれば、常に他人から無関心が悪役になるべきである。


 俺とフユは彼女だが、それはあくまでも彼女の嘘告白によるもの。

 俺と竜虎は敵であり、中学時代から常に口喧嘩を繰り返している。

 だから二人が俺の行為で、何かを背負うことなどない。

 そのはずなのに――


「ハルの所為だから」


 静かな声の直後。

 俺は前のめりに吹っ飛んだ。

 それも明らかに背中から強い衝撃を受けて。

 何とか踏ん張り倒れなかったが、危うくコンクリート地面にキスするところだった。

 一体誰が俺を吹っ飛ばしたのやら。


「おはよう」


 俺が犯人を一目見ようと振り向くと、そこにはクセ毛の無い茶色い髪の男が立っていた。それも俺よりも背が高くて、顔面偏差値も明らかに俺よりも高い。というか普通にイケメンが立っていた。その名も獅子王レオというイケメンが。


「朝から何してるんだよ?」

「別にムカついたから蹴っただけ」

「お前に嫌われるようなことは何も――」

「竜虎が今日はハルに会いたくないんだって」

「それはこっちのセリフだ。二日も俺を意識不明にさせやがって」


 レオは竜虎の彼氏である。

 それも中学時代、いつの間にか付き合っていた。

 正直、親友相手に隠し事は良くないと思う。

 たまに自分の彼女と俺を二人きりにするし。


「……ところで竜虎に何か言われたのか?」

「別に何も。ただハルがまたバカなことしたって……」

「あいつ、相変わらず俺のことが嫌いだよな」

「それでちょっと悲しそうな顔してたよ」


 それはたぶん、フユを心配してのものだろう。

 俺を殴ったのもフユのため。意外と友達思いなんだよな、あいつ。


「ハルはさ。もう少し、自分の価値を正確に見極めるべきだと思うよ」

「その言葉、そのままそっくり返してやる」


 レオはもう少し自分のイケメン具合を理解するべきだ。

 いつも竜虎にしか興味が無いと公言しているが、それでも未だに告白されている。

 中学最後のバレンタインデーなんて、竜虎と付き合っていたにも関わらず、かなりの量を貰っていた。ちなみに俺は全部で三つ。華からと竜虎からと、毎年貰う謎のチョコの三つだけ。まあ二つは家族チョコみたいなものだが。


「なら僕もさらに返すけどさ。別にいつもハルが犠牲になる必要はないと思うよ」

「犠牲とかじゃない。正しいと思うからそうするだけだ。お前まで俺のやり方を否――」

「否定はしないよ。だけどたまには、自分以外にも背負ってもらうべきだとは思ってる」

「言うことが無茶苦茶だな」

「僕もそう思う。でもハルはもう少し人に寄りかかるべきだ」

「バカ言え。俺以上に、他力本願で生きてるやつはいないだろうが」


 俺は常に他人頼りである。

 自分がしなくても誰かがしてくれる。

 そういう思いが常に、心のどこかにある。

 だけど誰もやってくれないから。最後には結局俺が動くしかない。

 俺が他人を頼っているように見えないのは、たぶんそういう部分なんだろう。

 早い話。俺は他人を見限るタイミングが早すぎるのだ。

 現にフユとの関係が、今のモヤモヤした状態で終るのも、仕方がないと考えている。


「そうだね。ハルは確かに他力本願ではあるね。特に心の問題に関して、いつも周囲に丸投げだよね。自分は痛まないから平気? それを見て、痛む人もいるのに? 僕が親友でありながら、君を友達として誇りに思えないのはそういう部分だよ」


 小学校時代からの親友に罵倒された。

 俺とフユ、レオ、竜虎の四人は同じ小中学校。

 でも俺がフユと交流を持ったのは、小学校に入る前の一時期。

 俺と竜虎が交流を持ったのは、中学二年生の秋頃。

 だけどレオとの関係は、小学一年生の頃からずっと続いてる。


 それだけ長くいれば自然と親友みたいな関係にはなるが、でも人間的には互いを苦手に思っている。少なくても俺はレオのイケメンオーラが嫌いだし、レオも俺によく物申す。その度に何度も、竜虎からは友達関係を疑われている。それでもたぶん、俺もレオも互いのことを唯一無二の友人だと感じている。半分は俺の希望的観測だが。


「お前は昔から一々セリフが周りくどいよな」

「ハルに素直に教えるのは癪だからね。僕はまだキミに負けたままみたいだし」

「俺がお前に何か一つでも勝ってたとは驚きだ」

「うん。でもいつかは僕が絶対に勝つから」


 男二人の味気ない朝の通学路。

 にも拘らず、レオは珍しく口元を綻ばせていた。

 一部の女子の間で、伝説となりつつある笑顔を浮かべるために。


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