第12話 屋上で簀巻きにされて、労力を手に入れて、捨て犬の犯人を知った
昨日の夜、ウチでは犬のことで大騒ぎになり。
今日の朝、華がなかなか学校へ向かわず強引に連れ出した。
学校へ来て、レオに犬の引き取り手の相談をしようとした矢先。
俺は拉致られた。それも一昨日解体された『秋月フユファンクラブ』の面々に。
「これより拷問会を始める。検察側は被告の罪の説明を」
晴天に包まれた朝の爽やかな学校の屋上。
けれど、そこには暑苦しそうな黒ローブ姿の人間が何人もいた。
まるでこれから黒魔術でもしそうな雰囲気だ。
それなのに始まったのは、裁判のような体を模した何かで。
「罪状。一年F組の夏陽ハルは昨日、我らが女神『秋月フユ』とデートに行った罪に囚われております。また前日には女神の自宅である喫茶店を訪れ、彼女の父親にいたく気に入られた模様です。我々は一時間で出禁になったというのに」
「「「「羨ましい‼」」」」
爽やかな空とは対照的に、屋上には黒々とした感情が溢れていた。
もしかしたら俺、今日死ぬかもしれない。
それに――
「なんでいきなり拷問なんだよ‼」
珍しく俺は叫んでいた。
それぐらい命の危機を感じたから。
なぜなら簀巻きにされた俺のすぐ隣。
そこには大量の拷問器具が転がっていたから。
「安心しろ。あの日以来、我々も在り方を変えたのだ」
副会長と書かれたバッジをつけた議長が告げる。
どうやらここに、会長であるドラゴンキャットはいないらしい。
それに関しては一先ず大助かりだ。
「それで? 在り方が変わったってどの辺がだよ?」
一昨日と同じように俺を消そうとしているようにしか見えない。
そもそも消される覚えなんて一切ないぞ。
フユの家に行ったのは、あいつに誘われたからだし、昨日のやつも誘って来たのはフユだ。確かに帰り道は途中まで送ったけど。
「そうだな。具体的にはフユ様の意向を無視して、暴力的制裁を加える感じになった」
「だから俺を平然と始末できると?」
議長が静かに頷く。
……やっぱり俺、死ぬかも。
それなら――
「ところでお前ら」
「なんだ? 命乞いか? それなら無駄――」
「犬とか飼う気ない? まだ子犬なんだけど」
俺の突然の問いに、元ファンクラブメンバーが停止した。
何を言われたのか、理解できない。そんな様子だった。
「別に変なことを言ってるわけじゃない。ただ頼みたいことが――」
「バカな。我々がなぜ貴様の頼みを聞かなければ――」
「この件には一枚。フユも絡んでるんだけど」
「「「「詳しく話を聞かせろ‼」」」」
***
簀巻き状態から解放された俺は、元ファンクラブたちの前で昨日の出来事を説明した。
すると――
「なんと‼ フユ様がそんなことを‼」
「見ず知らずの犬のためになんてお優しい‼」
「しかも夏陽如きとのデート後に遭遇するとは」
流石はフユのファンクラブのやつらだ。
話せばそれなりにわかってくれるらしい。
最後のやつは俺に滅茶苦茶失礼だったけど。
「それで貴様は、我々に飼えないかと聞いているのだな?」
「そういうことだ」
今ここにいるファンクラブメンバーは二〇人ほど。
流石に誰か一人ぐらいは、飼ってもいいと思うやつが――
「すまない。我々は力になれそうもない」
「どうしてだよ。これだけ居たら――」
「フユ様が関わった犬。確かに是非飼いたいが……」
「飼いたいが? なんだよ?」
「その権利を巡って血の雨が降る可能性が――」
「……なら労力を貸してくれ」
心の中で議長のくだらない言い分に呆れながら、俺は次の提案を行う。
そもそも、この中からまともな飼い主を探す方が大変だ。
それならこの豊富な人材を使った方が、まだマシな結果を得られるはずだ。
「これだけ人数が居れば、里親探しは捗るはずだ」
「人海戦術を使うというのだな?」
「他のファンクラブメンバーも招集しろ。確か一〇〇人以上はいたはずだよな?」
「そうだが。でもなんの見返りも無しに――」
「今回の件を解決すれば、フユが喜ぶ。結果としてファンクラブの復活も――」
「うぉ‼ やるぞ、お前ら‼」
「「「「了解です、議長‼」」」」
物凄く単純だったな。
復活するとは言い切ってないのに。
まあ嘘でもこれだけの労力が獲得できたんだ、十分過ぎるだろう。
あとは終わった後に『ごめ~ん。やっぱり無理だった』と言えばいい。
結果的に恨まれるのは俺だけだし、それなら今までとあまり変わらない。
「それで何から始める?」
「とりあえず知り合いに当ってみてくれ。犬の特徴は――」
***
屋上での密かな会談を思えて、俺はなんとか無傷で屋上を後にする。
すると入口の近くに――一人の女子生徒が立っていた。
「流石ね、夏陽。ウチの子たちを簡単に利用するなんて」
「ただあいつらが単純すぎるだけだ。それよりも一体――」
「フユとアンタが貰い手を探してる犬。その元飼い主に心当たりがあるわ」
「……興味ないな。そいつはもう捨てたんだろ?」
俺はギロリと、獣坂竜虎の方へ視線を向ける。
竜虎は俺と同じ高校一年生だが、背は明らかに低く中学生に見られることも少なくない。さらに髪型は黒い髪をツインテールにしているため、さらに幼い風貌をしていた。
「確かにアンタの言う通りね。だけどアタシが知る限り、事情もなく捨てるとは考え難いのよね。だってあの子、子犬が産まれた時、すごく嬉しそうに話してくれたんだもの」
「お前にフユやレオ意外に深い知り合いがいたとは驚きだ。で? 誰だよ、そいつ」
「私の腹違いの妹よ」




