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2-4

 広く静かな空間を暗闇で埋め尽くしている。そんな場所で仰向けに寝そべっているからこそ、時折そこかしこで発せられる息遣いや身じろぎの小さな音が安心感を与えてくれた。

 春陽は首を右に倒す。されど景色は何も変わらず茫洋とした黒だ。それでもすぐそこに他の誰でもない大切な人がいることは、慣れ親しんだ空気感が教えてくれる。

『本日はプラネタリウム〜煌きの綺羅綺羅〜にご来場くださり、誠にありがとうございます。開演に先立ちまして――』

 場内にアナウンスが響き渡る。それが微かな隣人の気配を隔てたように感じられて、手を少しだけ右に動かした。

 コチン。

 手の甲と手の甲がぶつかる。待っていましたと言わんばかりに春陽の手は包みこまれた。

 やはり隣に目を向けても暗いままなのだけれど、そこに奈巳夏の笑顔が浮かび上がる。それは幻想などではなく本当にそういう表情をしているのだと、長年の付き合いと、手から伝わる体温で確信できる。

 こうしているだけで少しずつ、わだかまりが溶けていくような気がした。やがてそれにトドメを刺すように天井は豊かな星々を映し出し、心の靄が晴れ渡っていく。自分がスッキリすると今度は空の靄に自然と目がいった。

 無数に散りばめられた宝石のなかでもひときわ輝く2つの星――織姫のベガと彦星のアルタイルを隔てる淡い光の帯、天の川。

 地上から見れば、ベガとアルタイルは指1本で繋げてしまうが、実際には14光年以上も離れている。一筋の帯に見える天の川は、実際には二千億個もの星で構成されている。

 まったくもって目に見える情報とは信用ならないものだ。

 それならばと目を瞑ると、直前に瞼の裏へと焼き付けられた光の海が映し出され、なんら景色が変化することはなかった。

 だが、そうすることによって脳が眠っているとでも勘違いしたみたいに、春陽の記憶を整理し始めて、声が聞こえた。

『きらりと光る 夜空の星よ♪』

 まぎれもない過去の奈巳夏の歌声だ。その声は当然目に見えないものであり、春陽が信用できるものはすぐそばにあると改めて気付かされる。

 北海道旅行のとき、奈巳夏が楽しそうにこの歌を歌っていたことが嬉しかった。奈巳夏も星が好きなのだと感じられたから。

 どうしようもない孤独に苛まれることが昔は多かった。それでも上を向けば星が瞬きながらこっちを見返してくれてる気がして、それが救いになったのは一度や二度ではない。

 星と星とに人々が星座という繋がりを与えたように、人と人に星々がその不思議な魅力でもって繋げてくれる。それこそ春陽が奈巳夏に対して感じた繋がりのように。

 目を開くと夏空は秋空へと移ろいでいた。それからは巡りゆく1年の夜空を瞬きすらせずに眺めた。


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