6-1
次の日の朝。春陽は石行さんに謝ろうと1組の教室の前で待っていたけれど、彼女が登校してきたのは始業チャイムと同時で、話かける隙もなく2組の教室に戻る。
1~2限目は体育だから、次のチャンスは2限目終わりの10分休みか。
いや、待てよ……体育ということは。
「さくら、今日の水泳って何組だっけ?」
「1組と3組って昨日のホームルームで言ってたよ」
「なるほど。ありがと」
「えっ、ちょっと春陽くん……!?」
春陽は駆け足で教室をでて、つい最近までほとんど行ったことがなかった校舎裏に向かう。
石行さんのクラスが水泳の授業ということは、今日もあの場所に来る可能性が高い。
見慣れなかった場所に思い出が根付き、見慣れた場所に変わっていく感覚に、様々な感情が渦巻ながらも、春陽はその場所にやってきた。
ここに来るときは常に石行さんが先にいた。けれど今日はいつものポジションを、水上から見る鴨のような体勢の鳩がのっそりと占領していた。
「流石に早く来すぎたか……」
それもそのはず、なにせ朝礼が終わった直後に走ってきたのだから。石行さんからしても、別に急いでここに来る必要もないのだから。
春陽のつぶやきにちらりとこちらを見た鳩は、のっそりと立ち上がると、テケテケとどこかに行ってしまった。
一人になった春陽は、なんとなくさっきまで鳩がいた場所に立った。空を眺め、流れる雲のひと塊が飛行機雲と合体したところを見届けると――。
キーン、コーン、カーン、コーン…………。
と、1限目の始業のチャイムが鳴る。まだ、石行さんは現れない。
「直接保健室に行ったのか……?」
チャイムが鳴ってからもしばらく待ってみたが一向に現れないため、春陽は移動する。
「……ここにもいない」
保健室には先生も不在で、何かの気配を感じたかと思えば、白いカーテンが風にたゆたっているだけだった。
もはや春陽には石行さんの居場所の見当はまるでつかなかった。もっと探し回りたい気持ちはもちろんあるけれど、流石に今は授業中。学校中をウロチョロとするわけにもいかない。
仕方なく春陽は保健室の名簿に名前を記入して、ベッドに横たわる。必要以上に勇んでいて身体が疲れていたのか、急激に瞼が重くなる。2時間連続で体育なので、春陽が授業に戻れるのは3限目からだ。ならばそれまでは眠ろうと目を閉じれば、意識は一瞬にして刈り取られていった。




