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1-2

 しゃっくりのごとく連発する欠伸を止めようと、春陽はサンダルをつっかけて玄関の外にでた。庭で萌える草たちは艶やかで、心地よさそうに薫風にたゆたう。

 つま先立ちになり、両腕を真上に伸ばしてから深呼吸をする。湿り気が多く鬱陶しいような空気でも、やはり外の空気と太陽の光は脳を起こしてくれる。じわりじわりと力が沸いてくるこの感覚は、植物が光合成しているときの気持ちを少しだけ理解させてくれた。

 玄関前とはいえパジャマのまま長々と突っ立っているのも決まりが悪いので、郵便受けを開け、バサバサと中身を取り出すと家の中に戻った。

「えーっと取っておくのは……」

 父親宛ての仕事関係っぽい封筒は保持。

『あなたの初恋応援します』

 胡散臭い占い師による初恋のポイントがチラシにつらつらと書かれている。まともに読むこともなく避ける。

「あれ、これって」

 自分宛の封筒が目につき、見てみれば塾の勧誘らしかった。5月に模試を受けたからだろう。

「……俺には必要ない」

 玄関横にあるチラシ入れにまとめてぶち込み、歩き出す。

 するとビジネススーツに身を包んだ父親がやってきた。

「おお、春陽おはよう」

「おはよう」

「父さん、これから仕事に行ってくるから」

「うん。行ってらっしゃい」

 時差出勤というやつの影響で、最近の父親は家を出るのが遅めだ。

「あぁ、そうだ。この前の模試結果みたぞ。悪くなかったじゃないか」

「そうだね」

「その調子で頑張れよ」

 春陽の肩を叩くと、せかせかと家をでていった。

「悪くない、ね」

 そう呟いてからリビングのドアを開けると、味噌汁の香りがふわりと春陽を包んだ。

「あ、ちょうど今できたとこだよっ」

 奈巳夏がテーブルに次々と湯気の柱を立てていく。

 手を洗って席に着くと、点いていたテレビでは、人質となった子供を正義のヒーローが助け出すシーンを放送していた。

 春陽は音量を上げようとリモコンに手を伸ばすと、横から現れた手によってテレビの電源は切られた。

 リモコンを置いた奈巳夏も席に着く。奈巳夏はご飯中にテレビが点いていることを嫌うのだ。

 二人向かい合っていただきますをする頃には、奈巳夏はいつもの調子を取り戻していた。髪型もお気に入りのツーサイドアップだ。

「おにぃちゃん、おにいちゃん! 今日はなにする~?」

 ダイニングテーブルの向かい側で、ひきわり納豆をうりゃうりゃとかき混ぜる奈巳夏にキラキラとした期待の眼差しを向けられる。

「そうだなぁー」

 今日は日曜日だが、母親も仕事にいっており、二人だけのゆったりとした空気が漂う朝の時間。昨日は奈巳夏と外出して、ショッピングしたり公園でバスケしたりと、なんやかんやで慌ただしい一日を過ごしたので、今日はこの空気に身を任せてのんびりと過ごすのが良いだろう。

「はいはいーい! ナミカはゲームがしたーいっ」

 どうやら奈巳夏も同じような考えだったらしく、お家時間を過ごすということはとんとん拍子で決まった。

 春陽が承諾すると奈巳夏は「わーい!」とご機嫌に納豆ご飯をかきこむ。真夏の太陽みたいに、奈巳夏は存在するだけで場を明るくしてくれる。ただでさえ美味しい焼き鮭が奈巳夏と一緒に食べるだけで、より一層舌が躍る。

 外はだんだんと灰色になっていく。もうすぐ雨が降るだろうが、わが家の雰囲気が暗くなることはなかった。


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