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5-1

 鏡に写る自分が自分ではない。そんなホラー体験をしたことはあるだろうか?

 草木も眠る丑三つ時であればまだしも、こんなに朝早くからそのような体験をするというのも珍しい話だろう。

 もっともこれはホラーでもなんでもなく、正しく鏡が機能した結果であるのだけれど。

 しかし鏡がその常識から外れてしまったと思ってしまうくらいには、ピカピカの表面が反射して作り出す像は毎日のように見ているそれと、あまりにもかけ離れていた。

 細く整った眉。パッチリとしたまつ毛。くりりとした大きな瞳。ぷるんとした唇。透き通るような白い肌。

 クルリとその場で一回転すれば、ラクトンの風が吹き、長く艶やかな髪と、ひらりとしたスカートがその香りに吸い寄せられる蝶のように舞う。

 三六〇度どこからみても隙のない美少女だった。

 瞬きする度に、思わず自分の顔を触ってしまう。そのたびに、メイクが落ちるから触ってはダメだったと反省する。

 正直、ここまでの完成度になるとは思っていなかった。土曜日にさくらからメイクの仕方についてレクチャーを受けたし、昨日はネットで片っ端から女装に関するサイトを読み漁ってはトライアルアンドエラーを繰り返した成果がこうして目に見えて現れるというのは良い事ではあるけれど。

 カーテンを開け、窓から差し込む日光に目を細めて、あくびをする。いつもより3時間早く起きた身体に日光の刺激は強すぎたのでカーテンを閉めた。

 春陽は仕上げに頭の後ろで真っ黒な髪を結う。春陽も奈巳夏も母親似で、互いの顔は似ている。だから奈巳夏があまりしない髪型にしないと、完全に色違いの奈巳夏になってしまいそうだったので、ポニーテールを選択した。

 自分の髪ではないけれど、こうして髪を結ぶと気持ちが引き締まるような感じがした。

「よし、行くか」

 どこにか。言うまでもなく、石行さんに会いにだ。

 石行さんが好きなのは女の子。だから女装をしようというのは短絡的かもしれないけれど、春陽は悪くない案だと思っている。

 それは春陽が猫を好きだから猫耳をつけてきたさくらという前例があったからだ。さくらからすれば不本意なことだろうが、やはり彼女の告白は春陽にいろいろなものを与えてくれた。

 深呼吸をしてドアノブに手をかける。なんだかいつもよりも重く感じた。この姿でこの自室から出るのは初めてのことだからだろう。

 でも、重いだけでそれは新しい自分になった春陽を止めるには至らない。

 躊躇なく扉を開け放ち、見慣れない格好で見慣れた学校への道のりをスタートさせた。


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