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「はよー」
「お前遅いぞ」
「今日転校生来るのに遅刻とかないわ」
「ごめんごめん」
僕は教室に入り、1番窓側の後ろから2番目の席に着く。授業中のため、周囲の友達とは小声で話す。
「転校生ってどんな子だろ」
「可愛い子こないかなぁ。なぁ、隼人」
クラス1のムードメーカーと言ってもいい友達の颯太が話を振ってきた。
「興味ねぇ」
今日来る転校生が幼馴染なことは誰にも言っていない。興味のないふりをしているが、本当は楽しみで仕方がなかった。須藤沙也加の席は俺の真後ろ。教室でいうと窓側の1番後ろの角の席。アニメや映画で言う、ヒロインの座る席だ。
「みなさんー、少しいいですか」
担任の先生が教室に入ってきた。
「授業中なのですが、転校生を紹介したいと思います」
その一声でクラスが一気に騒がしくなる。
「みんな静かに」
担任はそう言うと、ドアの方に向かって視線を送った。
「あ……」
まっすぐと前を向いた1人の女子が教室に入ってくる。それは、息をのむほどの美しく、同時にどこか懐かしさを感じた。
「自己紹介お願いします」
担任にそう言われた彼女は、口を開いた。
「須藤沙也加です。よろしくお願いします」
彼女は軽くお辞儀をする。
「ちょ、ばり可愛い」
「うわ俺生きててよかった」
友達が次々と小声で言う。
「そんなに」
僕はぼそっと答えた。
「はぁ?お前あの女子を見て可愛いと思わないのか?理想高すぎだろ」
「そうは思ってないけど」
「じゃあなんだよ」
「何でもない」
小学生のころも可愛いと思っていたが、可愛さに美しさがプラスされている彼女から目を離すことができなかった。
「須藤の席は窓側の1番後ろの席だ。前のやつはよく遅刻をするが、いいやつだから仲良くしてやってくれ」
その担任の言葉でクラスがどっと沸く。
「よく遅刻をするは余計だろ……」
「今日もしてたじゃん」
僕は友達に正論を言われて口を尖らせる。
「はい」
彼女はそう言うと、こちらに向かって歩いてきた。僕の顔を見て何て言うだろうか。久しぶりだねと微笑んでくれるだろうか。
彼女は僕の顔を見ることなく、席に着いた。まぁ、あれから背丈や顔つきがだいぶ変わっているから、気づかないのも無理はない。このとき、僕はそのうち気づいてくれるだろうと思っていた。