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――もし、今日の23時59分60秒、この世界が消えるとしたら、君は何をする?――
――ピピピピピ、ピピピピピ
「んん……もうちょっとだけ……」
スマホを手に取り、爆音で鳴るアラームを止める。
一瞬、思考が停止した。
「寝過ごしたぁぁぁぁぁぁ!」
急いで制服に着替え、階段を下りる。
「あら、隼人、起きたのね」
「なんで起こしてくれなかったんだよ」
支度をしながら妹の弁当を詰める母親に問う。
「何度も起こしたわよ」
ねぇあなた、とお父さんに聞いている。
「漫画みたいなやり取りだなぁ」
はははと笑いながらお父さんは言った。
「そんなこと言ってる場合じゃねぇよ、だって今日は」
小さい頃、よく遊んでいた友達が僕の通う高校に転校してくる日だからだ。
「いってきます」
「はーい。いってらっしゃい」
家を飛び出す。次の電車に間に合わなければ、僕は校門で生徒指導部の先生と戦うことになる。
須藤沙也加。彼女と最後に会ったのは小学2年生の冬の終わり。彼女は両親の仕事の都合で引っ越した。彼女とは家が近く、よく遊ぶ仲で親同士の繋がりも深かった。彼女は1人で家の前の道にチョークで絵を描いていた自分に話しかけてくれた。
「名前、何ていうの?」
友達が初めて出来た瞬間だった。
それから毎日のように一緒に遊んだ。彼女には友達がたくさんいて、自分の友達も増えた。そんな彼女が引っ越すと聞いたときは崖からつき落とされたような感覚がした。
「またね、隼人くん」
「またね」
彼女に手を振った。僕は彼女の名前を一度も呼んだことがない。なんだか恥ずかしくて呼べなかったのだ。
「僕のこと覚えてっかなぁ」
そんなことを考えながら駅まで走る。
そして無事、僕は校門で生徒指導部の先生と戦うことになった。