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アースエンド・リトライバー~仲間に「役立たずだ!」と捨てられましたが、文明崩壊後の世界で最強オッサンに拾われて凄腕【探索者】になりました!~  作者: 羽賀庵こうら
第四話 境界線

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4.過熟の都

 

 

   ◆




 サヤカ女医は無事だろうか。

 ブレックが死んだと言うのは、本当なのだろうか。


 信じられない。

 きっと無事なはず。二人とも無事なはずだ。


 そんな言葉ばかりが浮かび、不安な感情がそれらを打ち消していく。

 自分で予測を付けるのが怖い。だが、そうして考え続けるうちに精神が疲れ果ててしまい、ツカサは次第(しだい)に考える事をやめ(うつ)ろな目でただ荒野を見ているしかなくなった。


(ここ……どこだろう……)


 軍用ジープらしき車の荷台の(ほろ)の中、遠ざかって行く背後の荒野を(なが)めながらぼうっと考える。

 ガタガタと揺れる車内は見張りの男達二人だけで、飴色(あめいろ)の髪の男は運転席にいるが、だからといって逃げ出すことは出来ない。ツカサは今、腕を動かせないほどの(おも)りがついた手枷(てかせ)と首輪を()められており、首輪の鎖は車体にしっかりと固定されているのだ。


 この状態で逃げようとしても、無様な自殺になるだけ。

 無理をしてでも逃げようと考えることさえ出来ない。

 車に殺されるくらいなら、大人しくしていた方がマシだった。


(それに……逃げて、どうなるってんだ……)


 ――――車に乗った直後、男達に言われた言葉がある。


『逃げようなんて考えるなよ?』

『お前が逃げたら、連帯責任でロクナナ村の娼館の女たち全員が罰を受ける』

『特にあのババア。お前のせいで死ぬことになるかもなあ』


 自分が逃げれば、彼女たちが死ぬ。


 そんなことを予告されてしまえば、もうツカサには何も出来なかった。

 もとより、男達とツカサでは移動範囲がまるで違う。仮にツカサが逃げおおせて村に帰り「危険だ」と言う事が出来ても、彼女たちが逃げる前にこの車で追いつかれてしまうだろう。


(……それに……俺のせいで村の人達に迷惑をかけるなんて、できない……)


 新参者の自分一人が捕らわれれば済む話を、自分が逃げたいからと言って逃げて、大勢の人を巻き込む事なんて出来るはずもない。今だって迷惑のかけどおしなのに、これ以上彼らに苦しい思いなんてさせたくはなかった。


(娼婦のお姉さん達だって、サヤカさんだって大変なんだ。俺が大人しくしていれば、彼女たちに迷惑は掛からない……それに……俺はもともと行くあてもなかったし……)


 ロクナナ村に定住しかけたが、それだってたかが一週間の話だ。

 誰かに「いてほしい」と求められた事も無いし、ただ自分は家事を手伝っていただけ。そんな人間を取り戻したいと思う人もいるはずがない。


 それでもあの娼館の人達は優しいから気遣(きづか)ってくれるだろうが……そんな人達を無能な自分が苦しめるなんてことは、絶対にやりたくなかった。


(大丈夫……大丈夫だ……俺は最初から行くあてなんて無かったじゃないか。それなら、どこへ行ったって良い。俺は男なんだから、奴隷になったって肉体労働にも耐えられる。彼女達が奴隷になるよりずっといいはずだ。それに【願望能力】があるんだから、食事さえ摂れたら死ぬことは無い。死ななかったらどうにかなる。だから、頑張れ俺……っ)


 頑張るしか(のう)が無いんだから。

 何の役にも立たないのなら、必死に生きる事しかできないのだから。


 ――そんな、植えつけられた言葉を何度も繰り返し、ツカサは(うつむ)く。

 目も口もぎゅっと閉じて耐えなければ、恐れや悲しさが襲ってきそうな気がした。


「おっ、やっと帰って来たな」

「やれやれ、クサくて仕方のない村はかなわん。早々にシャワーでも浴びたいものだな」


 男達の軽口が聞こえて、頭を上げる。

 前方を見ている男達に倣い、ツカサものぞき窓の向こうにあるフロントガラスを見やると――――その先に、村コロニーとは比べ物にならないほどの大きなドームが見えてきた。


(なに、あのデカいドーム……! あれが【トウショウ】だっていうのか……!?)


 驚くツカサの眼前に近付いて来たのは、途方もない大きさの建物。

 文字通り街を丸ごと覆っているのではないかと言う大きさだったが、周囲を見てみるとその地形は少々おかしなことになっているのが見て取れた。


 三方から禿山(はげやま)(かこ)まれている特殊な地形だが、あのドームはその山々の裾野(すその)を壊し無理矢理にドームを設置しているのだ。かつての日光東照宮は山に(かこ)まれた緑豊かな場所だったというが、不毛の地に変わってしまった世界ではそれも把握(はあく)出来ない。


 あの山が(けず)られたのはいつなのかというのも分からない有様だった。


 だが……――


(あのドームの中……緑がある……)


 上部のわずかな半透明の部分には、内部の色が反射してうっすら見える。

 そこにあったのは、この世界ではあまり見かけない瑞々(みずみず)しい色だった。


(植物があるのか? それってまさか……昔の世界の植物……?)


 自分の境遇も忘れて答えのない疑問を頭の中で繰り返していると、あれほど遠く巨大に見えていたドームがもうすぐそばにあった。最早(もはや)その輪郭(りんかく)すら見えない。

 車の前には、村コロニーよりも巨大な「ゲート」が広がっていた。


「おっと、お前は田舎者だったな。よくみとけよ、これが我らの(あが)める【トウショウサマ】が治める都ってヤツだ。もう街の風景なんて二度と見られねぇんだから目に焼き付けとけ?」

「はははっ、違いない」


 男達がツカサを怖がらせようとするかのような事を言うが、耳が音を遮断(しゃだん)する。勝手にゲートが開く大きな音も、それに一役買ってくれた。


(大きすぎる門……どこかに人が出る出口があったとしても、俺一人じゃ逃げられないだろうな……。いや、逃げたってどうしようもないんだけど……)


 大きなゲートが、ゆっくりと左右へ開いて行く。

 係の人間の声など何も聞こえなかったが、もしかして何かの認証カードを持っていれば開くような作りなのか。もしかしたら顔認証かも知れない。だとしたら、もはや逃げることは不可能だ。


 村コロニーのような(つく)りなら、死角に(ひそ)みどうにかして抜け出す事も出来たかもしれないが、この場所には今自分を監視している男達……神宮警邏(けいら)隊がいる。

 彼らがどのような手を使うのかは分からないが、一筋縄ではいかないだろう。


 などと、考えて――――ツカサは自分の思考に自嘲(じちょう)した。


(逃げる逃げるって、マジでなに考えてんだよ俺は……)


 (あきら)めたはずなのに、何故自分は「逃げるには」と考えているのか。

 そんなことをしても無駄だと思いきったはずだったのに。


(本当に、俺って奴は……)


 (あき)れのような(いきどお)りのような曖昧な感情に(さいな)まれ拳を(にぎ)るが、そんなツカサを余所(よそ)に車は再び動き出し、ついに大都市コロニーの中に入ってしまった。

 ……もう二度と見られない風景と言うが、どんなものだろう。

 そう思って外の方を見やり、ツカサは眉根を寄せた。


(外の世界と変わりない家……? 緑もないし、昔の家やビルもない。でも……よく見ると、家はキチンと並んで建てられてるみたいだし、よくみたらガレキみたいなのも残ってる。庭石みたいなのも……)


 これは、どういうことなのか。

 広い土地で無数に人間が住んでいる事は分かるが、どうもおかしい。

 大都市コロニーとは富める場所で、人々は昔のような生活を送っているのではなかったのだろうか。【トウショウサマ】というモノの下にいるのだから、村コロニーより裕福な生活をしていても良さそうなものだが。なのに、村とあまり変わらない家ばかりなんて……何だか妙だ。


 不可解に思っていると、再び車が止まった。

 今度は、少々荒い造りの壁と大型トラック一台分ほどの鉄扉が()(ふさ)がっている。


 こちらは不思議な事にどこかの建物からムリヤリ鉄扉を()いで持って来たような粗雑さで、一々大扉を開く手間がないようにと下部に人が通り抜けする小さな扉がつけられていた。


「おお、二番隊・隊長アケヒ殿。よくぞお戻りになられましたな」


 上方から声がする。恐らく物見やぐらか壁の上に誰かが居るのだろう。

 その声に、アケヒと呼ばれた者……運転手である飴色(あめいろ)の髪の男が答えた。


「いい献上品がある。すぐに【トウショウサマ】のお(みや)に取り次いでくれ。俺達は献上品を綺麗にしてからお(みや)へ向かう」

「ほほう? まだいたとは……それは【トウショウサマ】もお喜びになられますな。ささ、どうぞ」


 少し間が有って、鉄扉が重苦しい音を立てる。

 「ゲート」に比べて時間が掛かっているが、これは人力(じんりき)なのだろう。

 ということは……この門は、後からつくられた物なのだろうか。


(コロニーの土地を後から分けたってこと……? でも何でこんな……)


 良く分からずに眉を歪めているツカサに、また男達が声を掛けて来た。


「良かったなぁお前。風呂なんて入ったこと無いだろ?」

「最後に良い夢みれるかもな。俺達が処女貰ってやろうか? ん?」


 ニヤつきながら言う、男達。

 軍帽のようなもののせいでどういう目をしているのか、ツカサには分からない。だが、その男達が国を守っていた人々の帽子を()した物を(かぶ)っているのは、(ひど)(しゃく)(さわ)った。


 そう。そうだ。

 今までハッキリ見ていなかったが、この男達は過去の人々の服を真似(まね)ている。

 しかも、清廉潔白な職業だった人々の制服を故意に真似ているのだ。


 こんなことを、言っているのに。

 人を見下した発言をして笑っているというのに……――!


(こんな……っ、こんな、やつら……せめて一発殴って……っ)


 しかし――――怒りが、抑えつけられる。

 何も出来ない無能な自分が怒っても、どうしようもない。

 むしろ口答えできる身分ではないではないか、と。


(俺……俺は…………)


 怒りたいのに、何かが自分の感情を抑え込んでしまう。

 無能な人間は格上の人間に逆らう事は出来ないのだと、()()が頭の中で決めつけて、ツカサの感情を消し去ってしまう。そのことに、(あらが)う事が出来ない。

 自分でもワケが分からなくて、何だか頭がぐちゃぐちゃになりそうだった。


(俺……なんだっけ……なんでこんな、今になってイラッとしたんだ。なんで? 俺、何にもできないんだから従うしかないんだろ、奴隷でも頑張るんだろ。なのに、解らない、こんな……俺は……)


 大都市コロニーなのに、今見た景色はそうではなかった。

 自分は奴隷にされても仕方ない無能なのに、強い相手に(いきどお)ってしまった。

 なにかおかしい。おかしいと思うのに、押さえつけられる。


(従わなきゃ……ダメなんだから、ダメな俺は、従わなきゃいけないのに……)


 脳内で繰り返す言葉は、呪文のように頭に染みこんでいく。

 それが嫌で嫌で仕方ないはずなのに、ツカサ自身そう思う事をやめられなかった。




 




。゜(゜´Д`゜)゜。すみません…!しばらく多忙で

週に一回更新になります…!!

ゆっくりですが続けて行くので、お暇な時にでも

読みに来てやって下さると嬉しいです…!

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