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アースエンド・リトライバー~仲間に「役立たずだ!」と捨てられましたが、文明崩壊後の世界で最強オッサンに拾われて凄腕【探索者】になりました!~  作者: 羽賀庵こうら
第三話 【探索者】のバザール

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  村コロニー【ロクナナ村】2

 

 

「相変わらずババアだな」

「うっせえわ、用があるならさっさと言えし無精髭(ぶしょうひげ)クソオヤジ」


 銀に(うっす)らと桃色を含んだ不可思議な髪の老女は、年齢を感じさせる(しわ)を顔に刻みながらもしっかりと背筋を伸ばし若者と変わらぬ立ち姿でブレックを睨んでいる。

 言葉が若いように思えるが、良く考えればこの女性はツカサより少し上の世代だ。過去に時間を戻せば、彼女は恐らく「お姉さん」と呼べる世代だったのだろう。ならば、口調が若く思えるのもわかる。いや、今となってはこの軽い口調も「老人の喋り言葉」になっているのかも知れないが。


「お前みたいなババアに用なんて一つしかないだろ。頼まれてた薬草見つけて来たんだよ」


 ブレックがそう言うと、老女は勝気そうな目を丸くして無精髭の(ツラ)をまじまじと見やる。


「ウソ……マジで? アンタ嘘言ってんじゃないでしょうね」

「効能はお前が検証しなきゃ正確な所は分からんが、傷の化膿を抑えるのは確かだ。けど、それは僕が発見したんじゃない。ツカサ君……この子が自分で試して見つけたんだ」

「えっ、お、俺?」


 急に話を振られて驚くツカサに、老女がすぐさま詰め寄る。

 圧倒されて(あご)を引くツカサだったが、相手は構わずまくしたてた。


「何ナニなにっ、ボーヤ薬売りか何かなの!? マジ助かるってかホントだよね!? いやつーかなに、この子なんなのさニワトリ! アンタの隠し子か何かなの!?」

「んなワケあるか!! ツカサ君は……森で知り合ったんだよ。この子も【願望(ウィッシュ)能力(スキル)】の使い手で【超回復】ってのが使えるんだ。だから、その持前の力で治験してたんだって」


 そのブレックの言葉を聞いて、老女は増々驚いたように眉を上げてツカサを見る。

 ふとすれば森に棲む魔女……なんて思わなくもない、整った顔に加えられた高い鼻や(しわ)が特徴的でどこか冷たそうな雰囲気も有る老女だったが、興奮している時はまったく普通の女性だ。

 少し緊張が解けて、ツカサはぎこちなく頷いた。


「ち、治験ってホドじゃないんですけど……」

「あーもー充分だよっ! いやマジ助かったんだって、じゃあさじゃあさぁ、早速その薬草のことを説明……」

「待て待て待て! その前に僕への報酬とツカサ君を渡す条件を決めさせろ!」


 つい勢いに押されて話してしまいそうになっていたツカサを(かば)うように、ブレックが間に強引に割り入って来る。条件、と言ったが、そう言えばこの世界では駆け引きが重要なのだった。

 情報は価値のある物で、出来るだけ隠さなければならない。自分が生きて行くために、知っている事はギリギリまで秘匿し交換条件を有利にしなければならないのだ。


 女性となると性欲抜きでも老若問わず甘くなってしまうツカサでは、きっと彼女の良いようにベラベラと喋ってしまっていただろう。


(あ、危ない危ない……これからは気を付けなくちゃな……)


 だが、ブレックがツカサをここで働かせようと連れて来たと言う事は、この見目麗しい老女はブレックにとって一定の信用が置ける人物なのだろうか。

 まだ相手の事が(はか)れず首を(かし)げているツカサを余所に、二人は交渉を始めた。


 色々と喋っていたようだが、ある程度(ていど)の知り合いなのかトントン拍子で話は進み、さほど時間はかからず商談は成立となったようだった。


「……じゃー、これでオッケーね。私がツカサ君を(やしな)う代わりに、私は彼の情報をほんの少し貰う。アンタへの依頼の代金は、六割がこの子にってコトで。前半はともかく後半はちゃんと【協会】に報告して、高評価にしとくわ。あんまりアンタの事を褒めたくはないけど、今回はえらいもん貰ったようなモンだし」

「ああ。素直にそうしてくれるとありがたいね」


 なんだか嫌味な言葉の応酬が聞こえた気がするが、それよりも先にツカサは老女の台詞に驚いてしまい、(あわ)てて会話をしていた二人に確認した。


「あっ、あの! 六割ってなんですか。あと、(やしな)うって……」

「おっと、キミに説明するのを忘れてたね。まあ簡単に言うと、今日から私がアンタの親代わりってヤツよ。カレピなしで子供出来ちゃうなんてビックリだけどね~。それと、依頼達成の理由はキミの協力が大きいみたいだったから、それで報酬は六割キミのモノってワケね。ニワトリと話し合った事だから、気にしないで受け取ってよ」

「で、でも俺……特になにも……」

「何言っちゃってんの。あのキモい野草を食べ比べして知識蓄えてるだけでもスゴいんだよ? キミ、自分で思ってるよりずっとヤバいんだから。……だからさ、良かったら少しだけ私に協力してくれないかな。勿論(もちろん)言える範囲で良いから、野草の事を教えて欲しいんだ。……そしたら、ココの女の子たちも少しは救われると思うから」


 彼女は少し申し訳なさそうに微笑みながらも、ツカサが昔聞いていた同年代の女子と同じような言葉で気安く話しかけてくれる。聞きなれた口調におもわず気が(ゆる)んだのは事実だったが、しかし何故そんな風に高待遇で迎えてくれるのだろうかとツカサは不安に思った。

 なにせツカサは得体のしれないヨソモノだ。彼女からすれば信用ならない存在だろう。


 だというのに、六割の報酬をツカサにくれるというのも驚きだ。

 薬を作っているらしい彼女にとって、ツカサの知識はそれほど有用なのだろうか。女性を救うと言っていたが、ツカサが先程(さきほど)見た露出度が高い女性がその救う対象なのか。考えても良く分からない。そもそも、今まで奇行としか思われていなかった「食べ比べ」をここまで評価してくれる人が出てくるなどとは思っていなかったので、何故かツカサは激しく動揺してしまった。


(な、なんでだろ。ブレックや道具屋のじいちゃんに褒められたり教えてくれって言われた時は、普通に嬉しかっただけなのに……)


 どうしてか、ブレック以外の者に手放しで褒められると心臓が苦しくなる。

 それは間違いなのではないか、また嘲笑(あざわら)われるのではないかという気持ちが大きくなって、自分のやった事は大した物でなく誰でも出来る事だという言葉が脳内を埋め尽くすのだ。 


 …………褒められてはいけない。

 自分がやった事は(あき)れられつつも受け入れられるものであって、他人の利益になる事は何もしていない。滑稽な自分の行動から利益を生み出すのは“彼ら”であり、自分の行動は決して褒められる事のない愚行のはずなのだ。評価されるのは、自分ではなく。自分では、なくて。


「……ニワトリ? どうしちゃったのこの子」

「…………あんまり、褒められ慣れてないんだろう。じゃあ、僕はこれで」


 硬直しているツカサを一瞥し、やけに冷淡にブレックは(きびす)を返そうとする。

 だが、それを見た老女が慌てて声をかけ制止した。


「ちょいちょいちょい、待ちーって! アンタなに勝手に出発しようとしてんの、達成証まだ渡してないだろ!? あと野草まだ足りないかも知んないんだから、勝手に出ようとすんじゃないよ!」

「ハァ? それくらいで充分だろごうつくババア。僕だって用事があるんだからいつまでも旧日光に居る訳にはいかないんだよ」

「…………」


 ブレックの冷たい口調で、ツカサはハッと我に返る。

 そうだ。このオッサンは「探し物」のために旅をしなければいけないと言っていたではないか。とても真剣な様子で、その使命から逃れる事は出来ないとでもいうように。


 なら、引き留める行為はブレックにとって邪魔でしかないだろう。

 笑って別れるためにも無理強いをしてはいけない。


「ぶ、ブレック……あの、大丈夫。それは俺がなんとかするから。……だから、急ぐんなら行ってくれよ。アンタにとって、大事な用事なんだろ?」


 この老女の話を聞く限りでは、どうやら【探索者】は依頼をすれば動いてくれるらしいし、もっと野草が必要なら自分が他の【探索者】に依頼をしてあの森に行けばいいのだ。それなら、ブレックに頼む必要も無い。


 コロニーに住んでいる“ノコサレ”の人々は外に出たがらないらしいが、自分は別だ。今まで旅をしてここに来たのだから、外が怖いだなんて思う事も無いだろう。大ムカデは別だが。


 そんなツカサの気遣(きづか)いからの言葉に、ブレックは何故か少しムッとしたようだったが……片眉を上げ何かを探るように空に目を泳がせ、ふうと溜息を吐いた。


「…………旧北陸地方に行く前に、バイクの部品を調達しようとは思ってた。……だから、僕が廃都に行って帰ってくる一週間後までに済ませられる依頼なら、別にいいよ」

「やった~! 超ラッキーじゃん、丁度私も廃都で手に入れて欲しい器具があったのよ~! じゃあじゃあさっそく新しい依頼を発注するから!」


 老女らしからぬ言葉遣いとはしゃぎようで、銀に薄桃色の髪の女性は早速ブレックに他の依頼を交渉し始める。そんな姿をぼうっと眺めながら、ツカサは何故か胸をなでおろしていた。

 これは、安堵(あんど)だ。だが何に対しての安堵(あんど)なのだろうか。


(……やっぱ、友達みたいに思ってた相手が居てくれて嬉しいんだろうか、俺……。でも、なんかそんなの嫌だな。ブレックは俺の事を別に何とも思ってないのに、俺が勝手に友達だなんて思うとか、相手には迷惑な事だろうし……なにより、ブレックには大事な目的があるんだ。何も考えてなくてただ不安なだけなのに、引き留めて喜ぶなんて……)


 そんな事を喜んでいては、余計にブレックとの距離が離れてしまうような気がする。

 この世界で初めて出会えた「いい人」だからこそ、その縁が自分の愚行で断ち切られてしまうのが怖かった。これからは一人で生きて行かねばならないのだと思えば、尚更(なおさら)


(このお婆さんは俺を保護してくれるみたいだけど、だからって寄りかかって良いわけじゃないだろうし……いつかは俺だって、一人で生きて行かなきゃいけないんだ。だったら、またどこかで会った時に笑顔で近寄ってくれるような縁が一つでも欲しい。例え、もう会えなくなるかもしれない相手でも……)


 そう思うのは、女々(めめ)しく情けない事なのだろうか。

 考えて、ツカサは自分の感情に苦笑した。

 女々しくないなんてとても言えないではないか、と。


(俺、こんなだったっけ……いや、こんな……だったのかな……)


 仲間だと思っていた人達に捨てられた事が、こんなに自分を弱々しい人間にしてしまうとは思わなかった。いや、もしかしたら自分はそういう情けない人間だから、彼らに“施設”を追い出されてしまったのかも知れない。……きっとそうだ。

 そうに違いない。何故か強くそう思った。


(ああ、そうだ。そうだよな……俺、いっつも人に頼ってばっかの情けない奴で……みんなに、頼ってばっかりで……たくさん助けられてたから……)


 ……野草の事だって、そうだ。


 そもそもの話、この世界の野草の知識を得られたのだって己の功績では無かった。

 考えなしに植物を食べて死にかけた自分を助けてくれた仲間達がいたからこそ、自分はこの世界で有用な知識を(たくわ)える事が出来たのだ。ならばそれは、ツカサの功績では無かったのだろう。

 だからいま、ツカサは自分が褒められたことに動揺しているのだ。


 思えば、自分は何も仲間達に還元できていなかったではないか。

 ミスをしたせいで体調不良になったのに、ツカサはそれを反省せず何度も繰り返した。その度にいつも人を頼って寄りかかるような行為をしていたのだ。しかも自分は「外に出なくて良い」という彼らの言葉を聞かなかった。自分勝手に行動して何度も助けて貰ったのに、反省もしなかったではないか。

 だから、(あき)れられて追放されたのだ。


 ――――そうだ。

 自分は、元からそういう人間だった。


 ならばこの「褒められた知識」もツカサの物ではない。

 これは、これは……――――“彼ら”の功績だ。


(ああ、そうだ。そう……だよな……)


 寄生虫のように有能な人達に張り付いていたから、結果的に野草の効能も分かったというだけに過ぎない。彼らが居たからこそ、自分は知識を得られたのだ。全て、全てが“施設”の仲間達のおかげ。自分が得られる称賛(しょうさん)は、全て彼らが得るべき物だったのだ。なのに自分はそれを自覚しなかった。


 バカで愚かで情けなくて、彼らがいないと何も出来ないのに気付いていなかったのだ。

 自分の今までの知識は、全て“彼ら”がもたらしてくれた物だったのだと。

 ……なのに、自分は帰る場所を提供してくれていた仲間達に寄りかかるばかりで、感謝をしなかった。だから(えん)を切られたのだ。


(バカだな……ばかだ、おれは)


 何故早く気が付かなかったのだろう。

 “施設”の仲間達は、ツカサが行うこと全てを「当然」で「何故出来ない?」と言わんばかりの態度だたではないか。料理や洗濯の当番も野草の事も、みんなが出来て当然のことで、褒められる要素ではない。しかも野草の件は彼らのおかげで発見した事だったのだ。


 なら、ツカサ自身に褒められる要素など無い。

 なにより、あの“施設”で暮らしていた数か月の間、ずっと……――――彼らが「凄い」と褒めてくれるような事など、何も出来なかったではないか。


 そんな人間が、何を褒められて「凄い」と称賛されると言うのか。

 自分は、仲間達の功績を貰っていただけ。野草の知識が有っても、何も凄くは無い。

 全ては彼らのもので、自分はそれを借りて生きている嘘つきなのではないだろうか。


(そう……そうだな……)


 ああきっと、そうに違いない。

 ツカサは、他人を頼って生きる事しか出来ない愚鈍な存在でしかなかった。


(……追い出されて……当然だよな……)


 やっと気が付いた。最初からそうだったのだ。

 ブレックに心の拠り所を押し付けようとする矮小(わいしょう)な人間が、誰かの役に立てるはずなど無い。今までのことだって、大人であるブレック達がお世辞で褒めてくれていただけだ。そうに違いない。

 本当に自分が有用で凄い人間であれば、捨てられるはずもないのだから。


 今のツカサには、そうとしか思えない。

 何故そうも自分を追い詰めるような考えをするのかという疑問すら、ツカサには思い浮かべる事も出来なくなっていた。








 

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