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アースエンド・リトライバー~仲間に「役立たずだ!」と捨てられましたが、文明崩壊後の世界で最強オッサンに拾われて凄腕【探索者】になりました!~  作者: 羽賀庵こうら
第三話 【探索者】のバザール

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8.別れが迫る夕暮れに

 

 

 今まで滞在していた【バスターズ・キャンプ】が遠ざかって行く。


 来る時はあれほど遠く感じたのに、去る時はやけに早く過ぎ去っていくものだ。特に、ブレック以外の人間と初めて出会う事が出来たあの場所は、ツカサにとっては強烈な体験となっていた。

 だからこそ、こんなに(さび)しい想いになるのだろうか。

 振り返りながら、不思議な心持ちにツカサは目を細めた。


(もう二度と来れないだろうから、余計にそう思うのかもな……。一日しか滞在しなかったけど、道具屋の爺ちゃんは優しい人だったし、宿屋の(いか)ついおっちゃんも真っ当な感覚の人だったし。それに……あの時、見取る事しか出来なかったボロボロのおじさんも……怖いなんて全然思わなかったな)


 少々豪快と不潔が過ぎる気はしたが、しかしそんなことなど生き馬の目を抜くこの世界では当たり前の事なのだろう。ツカサだって、彼らと同じぐらいには風呂に入っていない。

 世界に対する認識も、徐々に染まって彼らが普通だと思うようになるだろう。

 そして……そんな彼らが「非常」の一点張りではないのがわかった。


(みんながみんな他人に(きび)しいわけじゃないし、優しさだって持ってるんだ。他人が(いた)まれたことに対しての気持ちだって、昔と大違いってワケじゃない。……それが知れただけでも、良かったかな)


 だからこそ、その概念を知った場所から遠ざかるのが(さび)しいのか。

 いつまでもいつまでも、その姿が消えるまでずっと見ていたツカサに、前を向いているはずのブレックがポツリと言葉を放った。


「……ツカサ君、あんなトコが気に入ったの? まあ確かに、キャンプは探索者なら出入り自由だし、色々アリで自由な場所だけどさあ……でも、いつ犯されたって文句言えない場所なんだよ?」

「そりゃコロニーでも一緒だってアンタが言ったんじゃん。……一人で暮らして行かなきゃなんないってんなら、仕事も考えなきゃだし……。それなら、あの場所は居心地良かったなって」


 なにせ、みすぼらしいローブを身に着け顔を隠したツカサですら、普通に歩けたほどだ。

 【過去人(かこびと)】という特異な存在で呼ばれるようになってしまった身からすれば、あのように混沌としている場所は過ごしやすいような気がしていた。


 だが、ブレックは何故か乗り気ではないようで、(うな)るような声を漏らす。


「まあ……色んなヤツがいるし、僕ら“正式な探索者”には(おきて)も有るから……誰かを排除しようなんてヤツは頭のいかれたヤツしかいないけどさあ。だけど【超回復】しか使えない君がキャンプに住むのはやめた方がいいと思うよ? ツカサ君はよわっちいんだから」


 いつもながらツカサの能力を素直に評価して来る相手ではあるが、今日はヤケにズケズケ言う。いや、遠慮したことなど一度も無いのだが、しかし今日のブレックは何だか妙だった。

 まるで、ツカサが【探索者】に必要以上に近付くのを良く思っていないとでも言うように。


 それはブレックなりの「分かりにくいお節介(せっかい)」なのか、それとも本当に危険だから忠告しているのか。今回ばかりはどちらか把握(はあく)しかねた。


(…………コロニーに着いたら、ブレックともお別れなんだよな……)


 ツカサをからかい、おちょくったりもするが、それでもブレックの心根は「善人」に違いない。人の善性を疑ってもいないツカサは、そう思っていた。

 善人でも無ければ、こんな面倒臭い一般人を一々気に掛けることはすまい。

 それどころか、売り飛ばしてもおかしくは無かったのだ。けれど、ブレックはそうしなかった。(ゆえ)に、ツカサはブレックの事を無意識に友人のように思っていたのかも知れない。


 だが、それと同時にツカサはブレックが利己的な人間である事も理解していた。


 けれどそれは悪い事ではない。少なくともこの世界では「是」だ。

 きっとこの男はいざとなれば自分を切り捨てるだろう。根が善人だったとしても、自分が生きるためとなれば足枷(あしかせ)は外さざるを得ない。ツカサとて、それは理解している。

 ブレックは、その勘定(かんじょう)が得意そうに見える。だからこそ、深入りは出来なかった。


(このまま連れて行ってよ! なんてワガママを言って『ハ?』とか言われるのイヤだしな……。そりゃ、出来れば知り合いとずっと一緒に居たいとは思うけど、でもブレックにはブレックの都合があるし……それに、俺には【探索者】は無理って相手がハッキリ言ってるんだもん。何も言えないよ)


 事実上の絶縁宣言のようなものだ。

 そう考えて――――ツカサは、ふと今まで聞いていなかった事が気になった。


「……なあ、ブレック」

「ん? なに?」

「アンタ、依頼を達成して、俺をコロニーに送った後は……どうすんの?」


 考えてみれば、今日までそのことを気にしていなかったような気がする。だが、だからと言って聞いたところで何になるというのだろうか。

 (みずか)(くち)にしておいて何を言っているのだろうとツカサは顔を歪めたが、しかし運転しているブレックはそんなツカサを振り返る事も無く、ただ黙っていた。


(も、もしかして……聞いちゃいけなかったのかな……)


 だとしたら、大失態だ。

 なぜ最後の最後で地雷を踏んでしまったのだろう。また会えるかどうかも分からない相手だと言うのに、気持ち良くサヨナラも出来ないなんて後味が悪いではないか。


 思わず(あせ)ってしまいそうになったが――――

 ブレックは、背中越しに一言だけ答えた。


「…………探し物が、あるんだ」

「……さがしもの……?」


 聞き返したツカサに、ブレックは再び黙り込む。

 剥き出しの大地にバイクが揺れる音や風の轟音が耳を(しば)(さいな)むが、ブレックは何も返してはくれない。その背中は、どこかツカサの言葉を拒否しているようで――何も、声を掛けられなかった。


 やはり、聞いてはいけないことだったのだろうか。


(ああ……駄目だなあ俺……なんでこう、バカなことしちゃうんだろう……)


 自分が追い出された原因だって、元はと言えば「バカなこと」をしていたからだ。

 何も役に立てず愚かな所業を続けていたから追放されたと言うのに、どうしてこの数日でその事を反省できなかったのか。しかもその所業を、再びブレックに行ってしまうとは情けない。


 そもそも、相手が命の恩人だとしても、自分は彼と友達でも仲間でも無いではないか。

 ただの「知り合い」で「取引相手」である人間が、人の事情に土足で踏み入るような事をしたら、そりゃあ相手を不快にさせてしまうのも無理はない。


 しかも、ブレックは見た限りでは……プライベートに踏み込まれるのが好きではないタイプだ。そんな相手にこんなことを聞けば、怒るのも当然だろう。

 今更ながらに自分が何をしてしまったのか気付き、謝ろうと口を開いたツカサに対し――――タイミングを被せるように、ブレックがまた呟いた。


「約束だから、探しつづけなきゃならないんだ。……だから、このまま旅を続ける」

「そっ……か……。なんか、ごめん……話してくれて、ありがとう……」


 もしかして、ツカサがブレックと(はな)(がた)いと思っている事に気付いて、わざわざこんな事を言ったのだろうか。だとしたら、これは事実上の絶縁状ということになる。

 村コロニーへ送ったら、恐らくもう二度と会う事も無いのだろう。


(でも、それでよかったのかも……。アンタには用事があるのに、勝手に友達みたいに思ったり庇護(ひご)してくれる大人みたいに思うなんてそりゃ迷惑だもんな。……一人で生きて行かなきゃって決めた癖に、俺ってば何オッサンに擦り寄ってたんだろ……)


 考えて、ツカサは自分の甘い考えを振り切るように首を振った。

 そう、もう今までのように気楽に考えてはいけない。何かと助けてくれたブレックに感謝を伝えて別れ、一人で生きて行かなければならないのだ。


 この荒野と廃墟ばかりの壊れた世界は、もう昔の甘い世界ではないのだから。


(……助けてくれたからって、いつまでもブレックに頼るんじゃいけないんだ。……俺の姿形は昔のまんまだけど、でも寝ていた年数を合わせたら俺は大人なんだしな……ちゃんと……しっかりしなきゃ。でなきゃ、ブレックが今まで教えてくれた『忠告』も無駄になっちまう)


 ブレックは、ツカサに対してこの世界での生き方を教えてくれた。

 いかなる時も他人を信用せず、一人で生きて行けと散々説明してくれていたのだ。


 だからこそ、ツカサもその忠告に(むく)いるために覚悟を決めなければならない。

 一人で生きて行くための覚悟を。


「…………ブレック」

「なに?」

今更(いまさら)だけどさ、本当にありがとな。……俺のこと、助けてくれて」


 頼れる相手が傍に居たら、また寄りかかってしまうかも知れない。

 そうしたら、迷惑が掛かるし……なにより、相手を不快にさせるだろう。


 …………もう二度と、誰かに追放されたくない。失望など、されたくはないのだ。

 だから。


 「アンタと一緒に旅がしたい」だなんて、口が裂けても言えなかった。


「……うん。……僕も……この世界で目が覚めて……初めて、楽しかったよ」

「そっか。……へへ……そっか。ありがと……」


 静かで、低い声。

 だがその声音には不思議と偽りを感じない。


 それだけでもう、いい。

 相手が自分との時間を同じように楽しんでくれていたのなら、それだけで一人で生きて行けるような気がした。こんな、何もかもが変わってしまった世界でも。


「よーっし……ついにコロニーかぁ。夕暮れまでに到着できればいいな!」


 明るく言い放ったはずの自分の言葉は、何故か少し震えていた。







 

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