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アースエンド・リトライバー~仲間に「役立たずだ!」と捨てられましたが、文明崩壊後の世界で最強オッサンに拾われて凄腕【探索者】になりました!~  作者: 羽賀庵こうら
第二話 バスターズ・キャンプ

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8.何事もおろそかにする事無かれ

 

 

 足りない調味料や水を探して森に引き返したり、大ムカデの肉をモンスターが忌避するニオイの植物と一緒に燃やしていたら、すっかり夕方になってしまった。


 あれほどあった大ムカデの肉はやっとのことで炭になり、ボロボロと崩れて後は風化するのみだ。

 だが、それだけで後片付けは終わらない。まさか炭を喰うモンスターは居ないと思うが、これも離した方が良いかも知れないということで、ブレックとツカサは苦労して炭を砕いて周囲に撒いたのだ。


 それですっかり夕方まで作業するハメになってしまったのだが、ほぼ徹夜状態だというのにブレックは全く疲れた様子を見せていなかった。それどころか、元気そのものだ。


「……アンタ、オッサンなのになんでそんな元気なの……」


 疲れ果てて地面に敷いたシートの上で寝転がっているのは、本来ツカサではなくブレックだろう。そんなありがちな構図を指摘したのだが、当の本人であるブレックは「ナニソレ」と言わんばかりに目を細める。


「体力にオッサンもガキも関係ないと思うけどねえ。ツカサ君は鍛えてないぷにぷにボディで、僕は鍛えているフツーの体型だった。それ以上でもそれ以下でもないでしょ」

「普通の日本人はお前みてえに適度に筋肉ついた長身じゃねえええんだよおおお」


 例外はあるだろうが、基本的にはブレックのような長い足でも広い肩幅でも無いはずだ。お前のような狩猟派タイプと一緒にするなと睨むと、ブレックはハハハと嫌味に笑った。


「僕は良いと思うけどねえ、ツカサ君みたいな性徴期迎えたのか迎えてないのか分かんない体。今のこの世界じゃ貴重かもよ?」

「俺みたいなガキがいねえって言いたいのかチキショウ」

「……そういう意味でもないんだけどね。……まあ……ああそうだ。ツカサ君、コロニーに行く前に帽子でも買っておいた方が良いかもね。……どっかのキャンプにまだ居るかな【行商】は…」

「んん……? どういう意味……?」


 【行商】という単語は魅力的だったが、何故帽子を買わねばならないのだろうか。

 ブレックの言葉の真意が分からず寝転んだまま怪訝な顔をするツカサに、相手は肩を軽く竦めた。どうやら今は説明するのが面倒臭い話題のようだ。


「とにかく、ここから一番近いコロニーまでは距離があるし、少しルートを外れるけど別の【バスターズ・キャンプ】に向かおう。そっちは周辺にコロニーが多いから【探索者】も集まってるはずだよ」

「ふーん……? 俺は連れてってもらう側だし、行き先はアンタに任せるけど……コロニーが近いんなら【行商】の人はそこに滞在してても良いんじゃないの?」


 普通に考えれば、一般人が近寄らない【探索者】だけのキャンプなど商売的に旨味が少ないような気がするのだが。答えを求めるようにブレックをジッと見やると、相手は片眉を上げてみせた。


「色々事情があるのさ。……コロニーだと、地域によっては大都市コロニーが介入してたりするし……不自由なところもあるからね」


 良く分からないが、どうも真っ当な商売ではなさそうだ。

 美少女のえっちな絵だけでなく漫画やアニメも真っ当に好きなオタクのツカサとしては、裏社会的な危うさを感じて少々興味をそそられてしまったのだが、いずれは分かる事なのだろう。

 ともかく、今日は疲れたのでもう眠りたい。


 夕食の用意などまったく考えずうとうとしていたツカサだったが、ブレックは何かに焦れたように近付いて来て頬をぺしぺしと叩いて来た。


「寝ちゃ駄目だってばツカサ君。もーすぐ燻製出来るんでしょ?」

「あ゛ー……俺もう食欲ないからアンタだけ食べてよ……」


 そう言うと、急に頬が引っ張られる。

 何を思ったのか、ブレックがツカサの両頬をつまんで横に伸ばし始めたのだ。

 自分で引っ張るならまだしも、他人に顔を掴まれて引っ張られるなど違和感があり過ぎて、ツカサは思わず抵抗するが有無を言わさずグイグイと伸ばされる。痛いと言うか非常に居た堪れない。


 更にブサイクになってしまっただろう顔で「やめろ」と不格好な声を出すが、ブレックは指を離してくれず、それどころか諌めるような顔をして眉を顰めた。


「あのねえツカサ君。そんなんじゃキミ、明日死ぬよ」

「ふえ゛っ」

「周り見えてる? 君がいるのは、荒野と廃墟だらけの世界なんだよ。疲れたから食べないなんて言ってたら、明日も明後日も食べられなかったとき困るのはツカサ君なんだ。そのせいで飢えても、この世界じゃ誰も助けてくれない。みんな自分の事で精一杯なんだ。誰かに迷惑を掛けながら緩く生きられる世界だと思ってるなら、明日死んでも文句は言えないよ」

「…………」


 つまり、ブレックはこう言いたいのだろう。

 「明日も生きようと思うなら、無理にでも食べておけ」と。


 ……どこかの漫画や小説で見たような台詞だが、しかし考えてみれば尤もな言葉だ。もし明日、昨日の大ムカデのようなモンスターに延々追いかけられるとしたら、今日しっかり食べておかねばいざと言う時に走れないかも知れない。もし明日どこかの地割れに落ちたとしたら、一日死期が早まり次の日に助けが来た事も知れず死んでしまうかも知れないのだ。


 幾千も繰り返され陳腐に感じてしまうようになった「食べることは生きる事」という言葉も、今の世界では金言以上の評価は無い。これ以上ない程に、生きる条件を示していた。


 例え食欲が無くても、体を動かすエネルギーが得られなければ明日を生きられない。

 こんな世界を旅して来たブレックは、それを痛感しているのだろう。


 だからこそ、わざわざ触りたくも無いだろう男の頬を掴んで忠告しているのだ。


(……酷い事を言うオッサンだけど、ほんとなんか、面倒見は良いっていうか……)


 そういう事をするから、憎むに憎めない。

 妙にむず痒い気持ちになって来て、ツカサはつい目を逸らしてしまった。

 ……というのにこのオッサンは。


「うわー、気持ち良いな! 久しぶりにこんなの触ったよ。ストレス解消グッズじゃないか! ねえツカサ君ほっぺ触らせ屋始めたら!?」

「やーーーへーーーーおーーーーっ」


 せっかく先程の忠告を真摯に受け取っていたと言うのに、なんだその気色悪いお店は。女子のほっぺなら触りたくもあるが、男である自分の頬を触って何が楽しいのだろうか。

 いやそもそも、女子のほっぺ触らせ屋があったとしても何か嫌だ。お金を払ってる自分が何か必死な感じがして使いたいが使えない。いや触りたい気持ちはフルスロットルなのだが、何かバレたら恥ずかしいと言うか女の子に内心冷たい目で見られてそうだとか色々……。


「ツカサ君なに考えてんの。ホントにほっぺ触らせ屋始める気?」

「んなワケあるか! 誰が男のほっぺたなんて触りたがるんだよっ」


 つい要らぬ心配をして無駄に焦ってしまっていたが、そもそもこの世界でそんな娯楽みたいな職業を行えるはずもない。というか女子と出会えるかも分からないかも知れない。

 だとしたら、こんな事を考えるだけ時間の無駄だろう。妙な事を妄想してしまった。

 特に自分の事は問題にせずブレックの手を何とか振り払うと――――相手は、至極当然な顔をしてさらっと耳を疑う発言をした。


「え? ツカサ君くらいの抱き心地が良さそうな子なら、女だろうが男だろうが需要はあると思うよ?」

「…………あ゛?」


 今、何か気味の悪い言葉が右から左へ抜けて行ったが幻聴だろうか。

 困惑しながら眉間に皺を寄せると、ブレックは嫌味なほどに爽やかな笑顔で笑った。


「あ、そっか。ツカサ君は知らないんだったね! そっかそっかあ……ま、充分気を付けて」

「え……お、おい待て。なんだ。何だそれは!! どういう意味!?」

「さあ干し肉の味見でもしようか。いやー楽しみだなぁー」

「需要有るって何、なんかこわい! 頼むから説明してくれー!!」


 食欲が無い事も忘れてブレックに掴みかかるが、相手は華麗に躱して薪窯の方へと去ってしまう。明らかに恐ろしい事を言われたと言うのに、相手はもう説明する気も無いようだった。

 だが、当事者であるツカサとしてはそこを喋って貰えないと酷く恐ろしい。


「お……女はいいけど、男に需要があるって……なに……」


 もしかして、バラ色の世界とかそういう意味なのだろうか。

 いや、外国の危険な路地裏で金をカツアゲされてケツも掘られると言う事例のような、弱肉強食の世界の可能性もある。むしろ、この荒廃した世界なら後者の方が強いかも知れない。


 そうなると、自分のようなひ弱な一般人がコロニーに向かうのはむしろ危険なのでは。考えて、ツカサは青ざめながらハハ……と笑った。


「…………ま、まあ……冗談だよな……冗談……」


 ブレックは冗談も言う。むしろ自分をからかってばかりの嫌なオッサンなのだ。

 今回の話もきっと冗談なのだろう。そうに決まっている。


 そうとでも思わないと、今夜は恐怖で眠れそうになかった。






 

(´^ω^`)フフッ

 

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