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アースエンド・リトライバー~仲間に「役立たずだ!」と捨てられましたが、文明崩壊後の世界で最強オッサンに拾われて凄腕【探索者】になりました!~  作者: 羽賀庵こうら
第二話 バスターズ・キャンプ

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7.巨大な蟲も使いよう

 

 

「ツカサ君」

「なに?」

「勘違いしないで欲しいんだけど、アレは僕がこういう状況で戦い慣れてなかったからミスしただけで、ホントは虫程度(ていど)ならサクッと倒せてたんだよ。だから今回は特別だ。慣れてなかっただけなんだからね?」

「お、おう……ってもうそれ何度目だよ……もう分かったから勘弁(かんべん)してくれ……」


 空の光がぼんやりと薄まって、徐々に紫へ変わっていく。

 壁が崩れ風通しが良くなった廃墟からは、綺麗な空がよく見えるようだ。そう思いながら遠くを見やると、地上に近い空は白んでいて、もうすぐ夜明けが来るのかとツカサはぼんやり思った。


(そうか……もう朝……寝ずに作業して、もう朝なのか……)


 ゲンナリしてしまうが、まだ作業は終わっていない。巨大ムカデはぐるりと廃墟を囲めるほどの巨体で、死骸からその外殻を剥ぎ取る作業は一時間ではとても足りないほどだった。

 それでもやっと全て剥ぎ取ったと言うのに、まだ足代わりの触手を切り離す作業と眼球の摘出が残っている。こちらもかなりの数でかなり時間がかかりそうだ。

 その細かい作業を思うと、気が遠くなりそうだった。


「う、うう……もう寝たい……」


 何故自分はこんな作業をやっているのかと(なげ)くが、これが【探索者】の仕事の一つと言われれば、手伝うしかない。コロニーに連れて行ってもらう代わりに「家事をやる」と約束したせいで、このような作業も強制的にやらねばならなくなったのだ。こんな事なら約束などしなかった。


 だが、やってしまったものはもう仕方ない。


 最後の外殻を体から切り離し、ツカサは深い溜息を吐いた。


(はぁあ……。大ムカデの鎧っぽい外側は案外簡単に剥ぎ取れたけど、この眼球を取り出す作業は面倒臭いよな……。外殻と一体化してるのかと思ったら、なんか視神経? みたいなヒモがあるし、よくみたら黒目の部分は外殻の中で浮いてたみたいだし……)


 それに、足代わりの触手も外殻の中の肉に繋がっていて、切り離すのが面倒臭い。

 黒目は手で掴んで取り出すとしても、触手の方は実に苦労しそうだ。

 いやどちらも大変な事に変わりは無いのだが。そう思ってゲンナリしたツカサを見かねてなのか、ブレックはバールを持って近付いてきた。


「ツカサくーん、もうヘバったの? ホントに君ってば体力ないねえ」

「う、うるさいな! 未来世界で目覚めたての一般人に無茶言うなよ!」

「は~、仕方ないなぁ……触手の方は僕が切り離すから、ツカサ君は目玉のほうやってね。その管をまとめて引っ張れば、多分簡単に引き抜けるはずだから」

「な……なるほど……」


 そう言われてみればそうだ。

 一つずつ手で取り出さなくても、視神経のようなものが繋がっているのなら、後は根元を(つか)んで引っ張れば文字通り「(いも)づる式」に目玉が引っ剥がせるではないか。

 寝不足なせいか、言われるまで気が付かなかった、と目を丸くしたツカサに、ブレックは(あき)れたような実に冷めた表情をしながら眉をこれ見よがしに上げた。


「ツカサ君って高校受験落ちまくる方の子だったの?」

「いきなり(ひど)いこと言うのやめてくれません!? ね、眠いからだし! 眠いから気が付かなかっただけだし!」

「滑り止め高校に金で入学か~」

「決めつけるのやめろ! 入ったし、ちゃんと合格したし!! もーやだこのオッサン!!」


 色々酷い事を言い過ぎだと嘆きたくなったが、言い返す気力も無い。

 ツカサは溜息を吐きつつ、暫し「剥ぎ取り作業」に没頭したのだった。




 一時間後。

 思ったよりも早く目玉を引っこ抜けたツカサとブレックは、朝焼けの中で大ムカデの素材が「何に使えるか」の見当を付けていた。


 モンスターとはいうが、基本的な構造は崩壊前の世界にいた生物達のものと同じだ。この大ムカデと同様に、哺乳類は哺乳類、昆虫は昆虫の構造を持ったまま「異常な部分」が付属している。それゆえ、ある程度(ていど)過去の動物に関する知識が有れば、どういう用途が有ってどういう生態かを推測する事が出来る……らしい。無論、これはブレックの説明をそのまま覚えただけの事である。


 ……要するに、大ムカデならば「ムカデ」を使う際の用途に使えるのではないか、ということだった。


「あごの部分には、やっぱり毒液が有ったな。ヒスタミン系なら加熱しても解毒は無理だし、これを利用するのは難しいかもなあ……。でも、食え無さそうなモンスター相手なら矢に塗って毒として使えるかも知れない。一応持って行こうか」

「俺が毒見して腕腫らされましたけどね」

「肉も、鳥のササミみたいだけど一応ムカデか。でもまあ毒は無かったし使えるかも」

「俺が毒見させられたんですけどね」

「いやあその場で毒性が分かるってホントに便利だねえアハハ」


 軽く笑っているが、ヘタしたら死ぬレベルの事を平気でツカサに頼むこのオッサンはかなり鬼畜である。恩義が無かったら蹴り飛ばしている所だと思ったが、ブレックは(さら)にとんでもないことを言い出した。


「じゃあ……肉の部分は、使う分以外今ここで全部焼却処分しちゃおうか」

「えっ!?」


 あれだけ手間がかかって剥ぎ取ったモノを、全部燃やすと言うのか。

 明らかに外殻より肉の方が量が多いと言うのに全て無にしてしまうなんて、一体何を考えているのだろう。勿体(もったい)ないにもほどがあると目を剥くと、ブレックは肩を(すく)めた。


「こんなに量があると腐らせるし、なによりここは【バスターズ・キャンプ】だよ。もしコレを放置して旅立ったら、他のモンスターが食べに来てここを『餌場』だと学習してしまうかも知れない。そうしたら、次の旅人が僕達みたいにモンスターに襲われることになる」


 ツカサ君はそうなっても良いの、と嫌味に言われ、ツカサは首を振った。

 そんなこと、誰も望んでいない。例え見知らぬ誰かでも、死ぬ可能性があると言うのなら放っては置けなかった。勿体ないが、後に来るかも知れない旅人のためにも後腐れなく消し去ってしまおう。


「まあどうせ燃やしている間はヒマだろうし、干し肉でも作ろうか。幸い、ここは燻製(くんせい)を作るのに使えそうな窯もあるからどうにかなるだろう」

「ムカデ肉の干し肉か……」


 食べた時の少々クセがある生肉の味を思い出しゲンナリしてしまったが、これも調理すれば何とかなるのかも知れない。そもそも、こんなモノを食べた事のある人間など滅多にいないだろうし、しっかり熱を通せばなんとか美味しくなるかもしれない。やってみる価値はあるだろう。


 そう思い直したツカサの横で、ブレックはハハハと笑った。


「これでウマかったら、また一つ“売れる情報”が増える。ツカサ君の野草と合わせれば、今回はかなりの(もう)けになりそうだ。いやあ笑いが止まらないよ」

「情報?」

「ああそっか、ツカサ君は知らないんだったね。今の世界じゃ、情報料ってのもバカにならないくらいの金になるんだよ」

「ほう……」


 昔の世界でもそれなりに金になっていたような気もするが、そんなものなど比でも無いほどの金額になるのだろうか。イマイチ理解出来ないツカサに、ブレックは丁寧に説明してくれた。


「この世界には、まだ知られていないモンスターも数多く存在しているんだ。この大ムカデみたいなのがワンサカって感じでね。……で、その新種が毒性も無く食用に出来ると解れば、人はそのモンスターを討伐しようと動くだろ? そうなれば経済も回るし、近辺の村は【探索者】が落とす金で潤う」

「なるほど……だからモンスターの情報は凄く貴重なんだな」

「そういうコト。……この世界はもう昔みたいな世界じゃないけど、それでも今の生き残りは昔の価値観を覚えていて“情報は金になる”と理解している。だから、情報……特に、未確認モンスターの情報は重要な『商材』でもあるのさ」


 昔であれば、一般人がそんなことは思わなかったかも知れない。

 新種の発見は大々的に報道され周知の事実になるし、価値があるとされた“ライフハック”という日常で役立つ技術も動画などで無料で公表されていた。インターネット上のその動画やブログが視聴される事で利益が発生するとは言え、それらは「価値」が存在しても開かれた情報であったのだ。


 無料で情報が取得できて当然だった過去世界の一般人からすれば、このような危険性物の情報が基本的に秘匿され金で売買されるというのは驚くべき事だろう。

 だが、この世界にはネットも情報網も既に存在しない。新聞や雑誌があっても、恐らくは安価で購入することすら出来なくなった世界なのだ。

 それを考えれば、外から来る「精確な情報」に価値が出るのも当然と言える。


「でも……どこに売るの? 情報っつっても、相手がいらないなら意味なくない?」


 火をたく用意をしながらブレックに問うと、欧米人のように軽く肩を竦めた。


「こういう世界でも、情報網を作ろうとする奴らは生まれるみたいでね。主な大都市コロニーには、モンスターに関する情報を高く買ってくれる機関がちゃんとあるのさ。……まあ、普通のコロニーの住民に売っても良いんだけど、こういうのはどうせなら高く買ってくれるヤツに売らないと損だ」

「……周辺に住んでる人にならタダで教えてやればいいんじゃ?」


 そうしたら死ぬ人も少なく済むのではないだろうか。

 真っ当な意見だと思い問いかけたツカサに、ブレックは眉間に皺を作って「信じられない発言だ」と言わんばかりに菫色の目を見開いた。


「バカ言わないでくれよ! そんな事したら奴らは我先にと情報を他へ売って金に換えちまう!」

「そ、そんなことある? 自分達が生きるための情報でしょ!?」


 近辺に潜伏するモンスターの情報なんて、村……コロニーで出回る程度だろうし、それを秘匿するような人間なんていないのではなかろうか。さすがにコロニーに棲んでいる住人同士なら仲間意識も強いだろうし、貴重な情報には感謝もしてくれるはずだ。

 ツカサはそう思っていたのだが、ブレックは「甘い考えだ」と首を振る。


「……あのねえツカサ君。この世界は、もう君が知ってる優しい世界じゃないんだよ。とっくの昔に人間も変質してしまってるんだ。……だから、物は売って良いけど……情報はダメだ。自分の傷一つでも相手には飯のタネになってしまう。偽善者みたいなボランティアばっかりしてたら、いいカモだって思われてすぐに何もかも奪われちゃうよ?」

「そんな……」

「だからね、長生きしたいなら他人なんて信用しない方がいいし情報も教えない方が良いんだよ。……例え、相手がみすぼらしい哀れな老人だろうとね」

「…………うん……」


 とても冷たいようだが、しかしブレックの言う事は尤もだった。

 ツカサは未だに「今生きている人達」の詳細が掴めていない。一緒に目覚めた仲間達以外の人間など、ブレックしか知らないのである。だから、出し抜かれる前に警戒して置くと言うのは大事だった。

 ブレックの言う通り、今は持っている全てを財産だと思い極力慎重になるしかない。


(まあ、このオッサンの言う事を一から十まで全部信じるってのも危ないとは思うんだけど……言ってる事は真っ当だしなぁ……)


 ここが楽園だと言うのならブレックの言う事は疑心暗鬼すぎると笑えたのだが、こんな荒廃した世の中になってしまってはその考えも真摯に受け止めねばならない。

 荒野で巨大な大ムカデが襲って来る世界で優しさを忘れるなと言われても、そんなことは普通の人間には無理だろう。だが、そう思うとツカサはなんだか悲しくなってしまった。


(昔なら、災害が有ってもみんな助け合ったり譲り合ったりしてたのにな……)


 どうして、こんな風に変化してしまったのだろう。

 その原因を知る事が出来れば、少しはこの世界との折り合いを付けられるのだろうか。


「さ、ツカサ君こっからここまでの肉を斬って。君は干し肉作りをよろしくね」

「あ……わ、わかった」


 大ムカデの肉と言われるとなかなか手は出しづらいが、今は作業をしていた方が色々考えなくてすむかもしれない。そう思い、ツカサは素直に頷いた。



 





 

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