表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アースエンド・リトライバー~仲間に「役立たずだ!」と捨てられましたが、文明崩壊後の世界で最強オッサンに拾われて凄腕【探索者】になりました!~  作者: 羽賀庵こうら
第二話 バスターズ・キャンプ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/36

6.素材は大切に

 

 

「バケモンむかで、こっちだ!!」


 短時間で用意した「武器」を手に、ツカサは再び戻る。

 そこには、もう既に首まで触手に巻き付かれて嫌な音を立てているブレックの姿と、その体を今にも飲み込まんとして口を広げる大ムカデの姿があった。


 最早猶予は無い。


(早く助けないと……っ! いくらなんでも、あれじゃ死んじまう!)


 たった二日の付き合いでしかないが、それでも恩人を見捨てて逃げるなんて無理だ。

 相手の危機に瀕した姿を見て、さらにその思いが強くなる。

 ツカサは部屋に入り込むと、そのまま迷わずにムカデの頭へと突進した。


「ばっ……ば、か……っ! なんで逃げない……ッ!!」

「逃げたくないからだよ!!」


 触手が襲い掛かってくるのを間一髪で避け、一気にムカデの頭まで向かおうとする。

 が、そこらじゅうに飛び散っている触手の欠片を思いきり踏んでしまったツカサは、思いっきりその場でこけた。両手を(ふところ)につっこんでいたせいで、足元が散漫になってしまっていたのだ。


「うわバカ!!」


 背後で盛大な罵倒(ばとう)が聞こえるが、すぐに体勢を立て直せない。

 その好機をムカデが逃すはずもなく、すぐさま触手をツカサの方へと向けて来た。


「ッ!!」


 触手の動く音で間一髪かろうじて避け、ツカサは一気に大ムカデの頭に近付く。


「やめろ! 食われる気か!!」


 背後からブレックの声が聞こえるが、最早振り返っている(ひま)は無かった。

 ――――大ムカデの、虫とは思えぬ咆哮。

 鼓膜が破れるかと思うほどの音量を流し込まれたツカサは、耳から「ぷつん」という嫌な音が聞こえたのを感じた。だが、そんなことに構ってはいられない。

 今やらなければ、どのみち二人とも死ぬ。だったらやるしかない。


 逃げてもいずれ死ぬのなら、今戦って死んだ方がマシだった。

 ……少なくとも……男としては、今の自分の方が満足して死んで行ける。


「大口開けてこいよ、害虫……!!」


 音が、聞こえない。

 無音の中でも敵が放つ咆哮に体が震えるのを感じながら、ツカサはずっと片手で守っていた懐から瓶を取り出した。それは、たっぷりと酒が入った酒瓶だ。その口には湿った布が詰められていた。


(頼むから、うまくいってくれよ……!)


 全てが遅く動いているような気がする。

 酒瓶を(つか)んだ手に、もう片方の手が近付く。

 その手には――――今火が着いた、携帯用の小型コンロが(つか)まれていた。


「――――――!!」


 無音の世界で、微かに何かの声が聞こえる。

 だがそれに構わず、ツカサは湿った布の先端に火をつけ――――


 着火した瓶を、大ムカデの開いた口に投げ入れた。


「――――――……ッ!!」


 炎の光に反応したのか、がしん、と、大ムカデの口が反射的に閉じる。

 だが遅い。

 その衝撃で酒瓶……いや火炎瓶は割れ、一気に口から地獄のような炎が噴き出した!


「やった……っ!」


 大ムカデの巨大な頭が一気に空を仰ぎ炎が天井を(あぶ)る。何本もの巨大な足……いや触手が炎を消そうと(うごめ)くが、アルコール度数の高い酒に酔って発した炎は消えない。水も何も無いこの荒野ではどうする事も出来ず、巨体はその場でめちゃくちゃに暴れ回った。


 どん、どすん、と音がしているような気がする。天井からホコリが落ち、大ムカデが入って来た壁は散々に壊れた。ツカサ達を捕食する暇もないようで、大ムカデは触手をでたらめに動かし回す。


 そんな相手をぼうっと見ていたツカサの横を、誰かが素早く横切った。


「よくもやってくれたなあクソ蟲があぁああ!!」


 音が消えた耳でも分かる、敵にも負けないような大声。

 その声が前方から聞こえたと思った、刹那。


 ブレックの武器が、大ムカデの脳天から突き刺さり――――


 その巨大な頭が、引きちぎられたように真っ二つになって青い血を散らした。


「やった……!」


 最後の一あがきを炎に焼かれた頭で見せていた大ムカデだったが、完全に頭を割られた事で徐々に力を失っていき……轟音を立てて、その場に倒れた。

 暗闇の中でも妙な光沢を見せていた巨大な無数の目から、精気が失われていく。

 まるで機械が急に止まるように、相手は「もの」になっていった。


(…………生き物が死ぬ瞬間って……やっぱ慣れないな……)


 慈悲深くなった覚えはないし、虫を殺して心が痛んだ事があるのかと言われたら数えるほどしかないような気もする。しかしここまで圧倒的な迫力を見せつける存在であれば、やはり生々しい物を感じてしまうものだ。まだ名残で痙攣(けいれん)している無数の触手が一層むごたらしかった。


 だが、大ムカデを殺さなければこちらが殺されていたのだ。

 生きる為に仕方のない戦いならば、相手に情けをかける方が失礼なのだろう。

 ブレックもそういう感覚で生きているのか、既にこの大ムカデを生きた敵とはみなしておらず、値踏みするかのようにあちこちを確認していた。


「な、なんちゅーか商魂たくましいと言うかなんというか……」


 まだ耳が聞こえ辛くて耳朶(じだ)を揉みながら、ツカサも恐る恐る近付く。

 すると、ブレックが気付いて大ムカデから降りて来た。


「…………、…………!」


 怒っている。恐らく無茶をするなと言っているのだろうが聞こえない。

 大声でないとツカサの耳にはまだ相手の声は無音と同じだった。

 しかし相手はこちらの異変に気が付かないのか、ひとしきり怒ったかと思ったら……なにやら、少し照れ臭そうに目を逸らして、ポリポリと頬を掻きながら口を少し(とが)らせた。


「…………、…………、…………」

「え、なに? ごめん、俺今なんか耳が聞こえないみたいで……」

「ッ! ……っ、……!! ……がバカだった!」

「うわ急に聞こえた! バカってなに、酷くない!?」


 もしかして【超回復】の力だろうか、急にハッキリと相手の声が聞こえた事に驚きながら返すと、ブレックは少し頬を赤らめながら、()(たま)れなさそうに顔を苦々しく歪めて背を向けた。


「も、もういいっ! ……ゴホン、とにかく……せっかくムカデを手に入れたんだし、素材をあらかた剥ぎ取っておこう。ツカサ君も手伝って」

「えっ、こ、これ素材にするの!?」


 思わずまた驚いてしまうと、不機嫌顔のブレックは少しこちらを向いて眉をしかめる。


「ツカサ君知らないの? ムカデって元々食べられるんだよ。しっかり加熱処理すれば毒も消えるし、クセはあるけど料理すればかなりウマいんだよ」

「ま、マジぃ……?」

「マジマジ。それに薬にもなるし、捨て置くなんてもったいないじゃないか。……とはいえ、この巨大ムカデがそういう類かは謎だけど……触手の部分や眼球の部分は、武器とかの素材として使えるかも知れない。だから剥ぎ取って調べてみよう」

「えぇえ……こ、これを全部解体するの……?」


 ランタンの明かりに照らされた巨大なムカデは、明らかに外まで体が続いている。

 触手をもいで眼球を全部取り外すとなると、かなりの労働になりそうだった。

 だが、ブレックはゲンナリするツカサを見て片眉を上げ笑う。


「こんなの【探索者】になったら普通だよ。さあさあ、早く解体してしまおう」

「うぅう……が、頑張ったのにまたすぐ頑張るハメになるとは……」


 ブレックも先程は骨が折れてもおかしくないほど締め付けられていたと言うのに、よくぞそんなに動けるものだ。やはりそれも【願望能力】や【ナノマシン】の効果なのだろうか。

 そう思って己の手をふと見たツカサは、その手が火傷で(ただ)れている事に気が付いた。


(うわっ……!)


 だが、その傷は早くも修復され始めており、泡のようなしゅわしゅわとした音を立ててカサブタになり、ツカサが触れるまでも無く勝手に剥がれて行く。

 既にカサブタが落ちた部分は、もう新しい皮膚がしっかり張っていた。


(…………これ見てると、マジで俺が普通じゃないんだってわかるな……)


 ブレックがあれほど動けるのも、やはり【願望能力】のおかげなのだろう。

 まあ、そうでなければツカサとて今頃生きてはおるまい。

 そう考えて――――ふと、ツカサは過去の事を思った。


「もしや……この能力でなんとか助かってただけで、俺ってホントはえらく危ない薬草ばっかり口にしてたのか……?」


 寝込んだりトイレにこもったりするだけで済んでいた毒も、もしかしたら猛毒の類だったのかも知れない。そう思ったが……違うだろうとツカサは首を振った。

 何故なら、その毒に対して処置をしてくれた浜鈿(はまでん)アイリという同年代の少女は、そのようなことなど一言も言わなかったからだ。医者の娘であり「毒に精通している」と豪語していた彼女が、そんなことを見逃すはずもない。


 だから、アレは本当に運がいいだけだったのだろう。


「ツカサ君何してるのさ。早くこっちにおいで」

「あ……う、うん……」


 何だか自分の思考に違和感を感じるような気もしたが、それも「気のせい」だろうと思い直し、ツカサはフラフラの体で元気なブレックの手伝いを始めたのだった。

 







 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ