『婚約破棄』及び『廃嫡』『追放』されたい公爵令嬢はほくそ笑む
「傷を隠せと何度言ったら分かるのか!! それでは第一王子との婚約まで破棄されてしまうではないか!!」
「こんな傷がある方が姉だなんて、もう耐えられませんわ!!」
「レアー!! いい加減になさい!! 改めないと言うのならば即刻部屋に戻りなさい!!」
私は席を静かにに立ち上がり、小さくカーテシー。
朝食の部屋を出ましょう。
先日折れた足は、まだ治っておらず、ズリズリと引きずり、部屋を出て自分の部屋に戻ります。
傷? 好きで付けている訳ではございません。
そもそも片眼が無く、見えないのは、父が幼少の時に殴ったため。
おでこの生え際の傷は、母が癇癪をおこし、花瓶で私を殴り付いた物。
首筋にある火傷は妹が、髪の毛が気に入らない、と火属性魔法を私に放ち付いた物。
この足は、婚約者の王子に学院の階段から突き落とされ折れた物です。
この家は狂っているのだと思います、使用人は一月足らずで消えていき、唯一残っている人物は祖父の代からいらっしゃる執事が、ただ一人です。
私は階段下の物置······私の部屋に入ります。
ここは、ここだけは誰にも邪魔されず、平和に過ごせる場所、それも終りを告げる計画を立てています。
『婚約破棄』『廃嫡』『追放』を成し遂げるために。
そして、私は魔の森に棲む、魔法使いのお婆ちゃんに弟子入りしますの、既に何度もお邪魔してそのお話もしています。
今日で学院は長期のお休みに入ります、計画の実行には最適です。
私は、婚約者と、この家の悪事を全て記した物と、その証拠の品を持ち、部屋から執事さんの部屋に向かいます。
この執事さんはハイエルフで、魔法使いのお婆ちゃんの一番弟子です、そう兄弟子、そのお陰もあり色々と相談に乗ってくれます。
コンコンコン
『はい、少々お待ち下さいませ』
カチャ
「お嬢様、御用向きは?」
「中には入れて下さいませんの?」
「はぁぁ、どうぞ」
未婚の女性が男性の部屋で二人きりに等々何度も聴かされましたが、クロノさん、執事のクロノさんは部屋にも入れてくれます、幼い頃には湯浴みもしていただきましたのに、おかしなお方です、こんな傷だらけの私をその様な気遣いをする必要など無いのですから。
質素なソファーに、足を気遣い手を引き案内をして、クロノさんはお茶の用意をしてくれます。
入れてくれた紅茶の香りを楽しみながら、喉を湿らせます。
「クロノさん、この後計画を実行しますわ」
「だと思いました、レアーお嬢様もよくここまで我慢なさいました、このクロノ、先代からの遺言を全ういたします、資料はそちらですね」
「はい、お願いいたします」
「分かりました、こちらがこの家にある脱税を納付出来る金額を除いた全財産の引き落とし出来る商業ギルドのカードです、レアーお嬢様名義にしてありますのでご心配なく」
「うふふ、流石クロノさんですわね、ありがとうございます」
「お飲み終わりましたら学院ヘ御送りいたしましょう、その足では間に合いませんので」
本当に気が利いて、エルフ故か、その美しさは人のそれとは格段の差があります。
私も、男性と言うものに愛想を尽かせていなければ、心を奪われていたかもしれません、昔は『くりょののおよめしゃんになりゅ』と言っていましたから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
馬車を降りればそこは学院、学友達もいくらかは既に登校していることでしょう。
馬車が止まりました、私は髪の毛を結わえ傷痕を初めて学友の前に晒します。
義眼は着けず、眼孔を晒し。
髪を結わえて、額の傷と火傷を晒す。
戸を開いたクロノさんがこんなことを言うのですよ。
「レアーお嬢様、顔が笑顔になっております、整えて下さいませ」
「そうでしたか、分かりました······すぅぅ、はぁぁ」
大きく胸の奥まで息を吸い込み、ゆっくりと吐き出し、気を引き締めます。
ゆっくりと足を引きずり、クロノさんの手を頼りに馬車を降りました。
日の元に晒された私を見つけた学友達が、ザワザワと辺りの空気をざわつかせます。
私は沢山の視線を浴び、休み前の集会が行われる会場へと入りました。
私は生徒会副長の席に座ります、もちろん壇上、隣にはまだ来ておりませんが会長、婚約者の王子が座る頑丈な、それでいて豪奢な椅子が座る者を待っております。
次々と入場してくる者達は壇上の私を目にする。
あるものは、目をそらし。
あるものは、表情を歪め。
あるものは、侮蔑し。
あるものは、蔑み。
あるものは、笑みを浮かべる。
さあ、壇上から見える会場の出入口の外側に、豪奢な馬車が停まりました。
馬車の戸が開かれ、中からは煌びやかな衣装に身を包んだ婚約者、王子様があらわれ、会場入りする。
会場の中に入ったと言うのに、私の事は一瞥もせず、最近のお気に入りである伯爵令嬢、お可哀想な方ですね。
肩を抱かれ顔を歪め涙しています、その苦しみはもうすぐ······。
先生方が揃い、会が始められる時まで伯爵令嬢を慰み、令嬢はドレスに涙で模様を作ってしまっており、王子が壇上に上がるため、その身を解放されると振り向きもせず会場を出て行きました。
壇上に上がり椅子の前までおいでになって初めて私の姿を目にし驚きの表情と共に言葉を発しました。
「何だその顔は」
「おはようございます王子様、ご機嫌麗しゅう御座います」
「その顔は何だと問ておる!」
まあ、大きな声をお出しに。
「元々この様な顔で御座います、いかがなさいましたか?」
「貴様! その様な顔を隠し我の婚約者となっておったのか!」
「いえ、本日は髪を結い上げ、義眼は外しておりますが、私はこの学院で王子様と会った時は既にこの顔でしたが?」
まだある瞳と、光の無い眼孔で見つめ、笑顔が出ないよう下から見上げます。
「ぐぬ、聴け! 今この時をもって婚約を解消する! 目障りだ! 出て行くがよい!!」
第一段階は、思いの外順調に進みました。
「申し訳ありません、では失礼します」
ゆっくりと立ち上がり、足を引きずり壇上を後にする。
時間が掛かりましたが、会場を出て向かう先はクロノさんの待つ馬車置き場です。
クロノさんが、馬のブラッシングしている姿を見て、笑みが我慢出来ませんでしたが、人目もなく無事にクロノさんの元にたどり着きました。
「レアーお嬢様、上手くいったようですね、参りますか」
「ええ、家までゆっくりとお願いできますか」
「はい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
家に着いた私は、執務室に居る父に会いに行きます、婚約破棄を言い渡された事を伝えに。
髪を下ろし、義眼を嵌め、見た目は傷痕一つ見えなくなります。
そのままでは警戒するとクロノさんが言うので、傷が見えないようにしました。
コンコンコン
『誰だ』
「私です、レアーです」
『入れ』
カチャ
「なぜ今頃この家に居る」
息を吸い込みゆっくりと吐き出し気を落ち着かせます。
「本日、婚約破棄を王子様より言い渡されました」
「な! 何だと! なぜだ!!」
「私には何も分かりません」
「ぐぬぬぬ、貴様のお陰で全て水の泡だ!! もうお前には何も望みは無い!! 廃嫡だ!! 今後家名も名乗る事は許さん!! 即刻出て行け!! 二度とこの屋敷の敷地に入ることを禁ずる!!」
「はい、失礼します」
私は執務室を出て、クロノさんの待つ馬車に戻ります。
クロノさんは執事服からローブに着替え、待っていてくれました。
馬車はボロボロですが、見た目とは裏腹に頑丈に出来た馬車です、それにクロノさんに手伝ってもらい乗り込み、窓のある所に座らせてもらいました。
だって、この晴れやかな気持ちで景色を見たかったからです。
屋敷の敷地を出てすぐに一台の馬車とすれ違いました、騎士様が乗る馬車です、屋根の無い馬車ですので、八名の騎士様が乗っておりました。
その馬車は速度を落とし、今出てきた屋敷に入って行きます。
小窓からクロノさんに話しかけます、
「捕まえに来られたのかしら?」
「その様で御座いますね、今朝、学院に行く前に届けておきましたので、ほらレアーお嬢様、学院からも護送用の馬車が出て参りますよ、王子が乗っております」
「まあ、こちらは数日後と思っておりましたのに」
「後ろ手に縛られております」
小窓から見た王子の顔は青ざめ怯えた顔をしておりました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お師匠様、見ていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「なんだい、今度は熊でも友達になったのかい?」
「フリードリヒですか? お師匠様とお会いしていましたかしら?」
「いや、会っちゃいないよ、まったく、冗談のつもりが、······はぁぁ、それで何を見るんだい?」
お師匠様に、クロノがお買い物の時に街で配られていた物を見せる。
「なんだいこれは······。ふはっ! これはこれは」
「うふふ、私の計画の勝利ですわ」
「王子が王位継承権剥奪に辺境に幽閉か!!」
「そうですの、その下の記事も読んでくださいまし」
「バルニヤ公爵家のお取り潰し!! レアーの居た家ではないか!!」
「はい、これで私は完全に自由の身となりました」
「あはははははっ、苦労していたからねぇ、クロノに頼んで今日は少し豪勢な食事にしてもらおうかね」
「はい、クロノ!! 聴いていましたか!!」
駆け出すレアー、首筋の火傷がきれいに無くなり、晒されたおでこに傷は見当たらず、光の宿る二つの瞳に映るのは、やれやれといった顔のクロノであった。
そして、クロノに抱きつくのであった。
読んでくれて本当にありがとうございます。
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