10.隣の君はミステリアスガール
千彩と思わぬ形で仲良くなった(?)稀羅。
そんな彼に聡寧は
生徒会長の情報を仕入れるため
灯織と共に、
サークル視察へ向かえと命令する……
だん、だんとボールが弾む音が響く。
誰もが鎮まり、その音だけが静かにこだましていた。
肩で息をしながら、誰もが彼女の動きを警戒している。
みんなが真剣に向き合う中、彼女は唯一、何かを確信したかのようにぺろりと舌を回して……
「悪いけど、勝ちはもらうよっ!」
次の瞬間、彼女はその場でシュート体勢に入る。
相手の子が止めようと手を伸ばすのも束の間、彼女の手からボールが放れる。
上空に舞うそれは、綺麗な放物線を描きー……
『ピー!!!』
同時に試合終了のホイッスルがなる。
歓声が沸く中、俺は一人出遅れたようにまばらな拍手を送っていた。
まだまだ梅雨真っ盛りではあるものの、珍しく晴れた六月中旬のとある日。
俺は現在、第一体育館に来ていた。
というのも、サークル活動視察に来ると言う会長に会いにくるためである。
会長へ少しでも話すため、彼女と共にバスケやバレーが行われているここにいるのだが……
「はぁ~、楽しかったぁ。ごめん上杉、お待たせ」
「お、おう……お前、すごくね?」
「驚いた? 僕こう見えて、運動神経割といい方なんだよね」
えへんと少し胸を張る彼女に、はあと相槌を打つ。
彼女ー九十九灯織は未だ謎が多い女性だ。
会長を探しているはずが、彼女を見た途端練習に付き合えと他の上級生がよってたかって……結果、急遽プレーをすることになったのである。
そんな事態にも彼女は平然としているし、もはや他のプレイヤーより桁違いにプレーがすごい。
バスケもそうだが、バレー部の方にも顔を出し、見事なサーブで一点もぎ取ってたし……
「そういえば会長、もう来た後だって。他のところ行こう」
「えっ、マジか。早く言えよ」
「仕方ないでしょ、手伝ってくれって言われたんだから。そんな焦らなくてもすぐ会えるから大丈夫だよ」
行くよ~と隣を横切る彼女は息一つ乱れていない。むしろ、涼しい顔さえしている。
先をゆく彼女へついていくように、色々な部活を見て回った。
卓球、テニス、サッカー、野球……どのサークルもきた後らしく、会うことはかなわなかったが。
逆に、色々な情報は得られた。
「会長はねっ、ああみえて洋食好きだよね~この前オムライス頼んでたのみた!」
「わかる~めちゃくちゃ和っぽいのにね!」
スクープその1。会長は和食より洋食派。
「あとね、お酒! 意外と酒弱いよねぇ。すぐ寝ちゃってさぁ、かわいかったなぁ」
スクープその2。会長は酒に弱い。寝ると可愛い。
……ってどれも微妙だな、おい!!
こんな情報、輝夜に言ったところでまぁた怒られるんだろうなぁ……
どのサークルに行っても同じようなことか、根も歯もない噂ばかり。
さっさと帰ろうとする俺をよそに、九十九はこれでもかとサークルに呼び出され……
「ストライク! バッターアウト!!」
卓球・テニスではサーブ勝ち、サッカーではほとんど一人でゴール決め、そして野球ではスリーストライクに加えてホームランを決め……ありとあらゆる競技で好成績を残していた。
運動神経がいいにも程がある、なんて思っていた俺は彼女のことを甘く見ていたようで……
「今の音、半テンポズレてる。隣で見てるから、ゆっくり弾いてみて」
「このお菓子、ちょっと甘すぎないかな? あ、グラニュー糖がいいって聞いたことある」
吹奏楽部、家庭科部……それ以外にも文化系のサークルを回ってる最中も、次から次へ淡々とこなしてゆく。
部員である人々は皆、彼女を知っているように聞いたり慕ったりしていて、何も驚いた様子はない。
俺が一番びっくりしたのは、彼女が得意なのは運動だけではないと言うことで……
「お前……マジすごくね?」
「そう? これくらい普通でしょ。それよりちゃんと聞けてるの? 会長の情報」
「いやぁ……そんなに……ってそれとこれとは話が別だろ! ほとんどのサークルに知り合いいて、頼りにされてるとな普通じゃねえって! 絶対!」
「別に少し器用なだけだよ。これくらいな 大したこと……」
彼女の足と言葉が、急に止まる。
何かあるのかと覗きこむと、そこは何人かの生徒が室内にいた。
漫画研究部、とかいてあることから、多分漫画を描いたり、読んだりしているんだろう。
中にいる人たちはみんな笑い合ってて、みてるだけで楽しそうなのが伝わる。
なぜかは分からない、ただ隣で見ている彼女の顔はどこか切なそうでー……
「おや? 誰かと思えば、九十九さんじゃないか。君も、サークルめぐりかい?」
……ん?? なぁんかこの声聞いたことあるな。
そぉいえば、すんげー大切なことを忘れている気が……
思い出しながらも恐る恐る、呼ばれた方向を振り返ってみると……
「……こんにちは会長、僕のこと知ってるんですね」
「君の名前を聞かないサークルはないからね。おや、そこにいるのは……」
「かっ、かかかかかかか会長!!?」
その姿に思わず声が裏返る。
そこにいたのは小早川三星会長、その人だった。
手にはバインダーを持っており、後ろには湯浅先輩をはじめとした何人かの生徒会らしき人が漫研へ入っていくのが見える。
九十九のことですっかり忘れていたが……サークル回ってたのも、もともと会長を探すためだったじゃねぇか!
や、やばい! えーっと? 何聞けばいいんだったっけな!?
「確か、上杉君だったね。二人で、サークル見学かい?」
「い、いやっ、全然そんなんじゃなくて! てか俺の名前! 覚えててくれたんすか!?」
「一度聞いた人の名はちゃんと覚えてるよ」
「さっすが会長ですね~そんな会長にぃ、上杉が聞きたいことがあるんですって」
ねっ、とわざとらしく俺の顔を覗き込んでくる。
悪戯そうに笑う彼女は、ほらとばかりに背中を押した。
会長の視線が俺に向く。
ここはやっぱ、連絡先を聞くべきか!?
いやいやさすがに早すぎるか……つか会長めちゃ肌綺麗だな、おい。
そうだ! いっそのこと好きなタイプをきくとかどうだ!?
てか髪、すんげーさらさらしてるじゃん! シャンプー何使ってんだろ~な~
……って違う!! ぜんっぜんまともに考えらんねぇ!!!
ええい、こうなったらもう、なんでもいい!
「か、会長って、休みの日って何してるんすか!?」
絞り出した質問に、なぜか九十九が呆れた顔をする。
正直自分も、土壇場になってのチョイスだからか後悔しか残っていないが……
しばらくの沈黙が続く中、会長はふっと笑みをこぼし……
「私はドライブが好きでね。よく色々なところの景色を回って見ているよ。これで、答えになっているかい?」
「お、俺も! 俺もバイク乗ってて、よく色んなとこ行ったりします!」
「そうなんだ。じゃあいつか、オススメの場所でも教えてほしいな」
「ぜぜぜぜぜひ!!」
「三星。次行くわよ」
「ああ、わかった。それじゃあまた」
中にいた湯浅先輩に呼ばれ、会長が中へ入ってゆく。
そんな背中を眺め見ながら、俺はガッツポーズを浮かべる他ない。
会長の趣味がドライブってことはだ、休みの日によくバイクを走らせる俺にとっちゃ共通の趣味としてなるわけで……
「聞いたか九十九! ドライブだってよ! ドライブ! 俺と趣味が一緒なんだぜ!! すごくね?! やばくね!?」
「うんうん、そうだね~それより僕は君のダメダメな姿に失望したよ~めっちゃダサーい」
「うるっせぇ! そんなことどうだっていいんだよ!」
浮かれる俺と、呆れる九十九の声が響く。
俺たちを照らしていた夕日は、いつのまにか西へと沈んでいったー……
‰
陽が、落ちる。
じゃあなと別れる稀羅の背中を眺めながら、彼女ー灯織はふうっとため息をついた。
遠くなっていく背中が、なぜか大きく見える。
男の人というだけで、こんなにも違うことを改めて痛感させられた。
「……聡寧も、難儀な人を好きになったもんだな~」
一人で呟くように、携帯を手にする。
敵に回したくない相手だと思っていた。
生徒会長なんて、悪い噂のわの字もない相手だ。
非の打ち所がない、ともきく。
かたや聡寧はどうだろう。
自分が知る限り、張り合う要素がほとんどない。
そんなことを言ったところで、彼女が諦めることはないのだろうけど。
「あれが、上杉稀羅?」
近づいてくる足音と共に、赤髪のツインテールがゆらりとゆれる。
顔を上げるとそこには、風紀委員である湯浅ありすがいた。
さっきまで一緒にいた三星はすでに姿が見えず、彼女一人だとわかる。
まあね、と適当に返事をしながら、灯織は携帯に視線を戻した。
「彼女、意外と面食いなのね。あたしにはそこら中にいる三星のファンと同じようにしか見えないのだけど」
「それは聡寧に言ってくださいよ〜僕が言ったところで聞かないんですから。さ、先輩? ゴミ拾いも、サークルの手伝いもちゃんとやりましたよ。情報、約束通り教えてくれます?」
そういいながら、ポケットに入れていた紙を灯織が渡す。
中身を確認をすると同時に、ありすははぁっとため息をつきながらも両手を組む。
「……わかったわ。教えるからには、彼にちゃんと伝えなさい。あの子……小早川三星に手を出すのはやめておきなさいってね」
彼女の言葉が、鋭い槍のように突き刺さる。
顔を上げた灯織の顔は、面白いとばかりににやりとわらっていた……
(つづく・・・)
ようやくここで第一部が完結、
といったところでしょうか。
今回のキャラクター達は今までと違い、
メンバーの謎や素性がゆっくぅり明かされていきます
色んなところに伏線があるので
それもみつけながら読んでいただけると嬉しいです
次回は11月4日に更新予定。
次なる作戦はいかに!