第32話 痴話番長
犬猿の仲で有名な2人の高校生番長による、真っ向勝負のタイマンが始まろうとしていた。
「ヤイてめぇ!約束の時間に遅れるとかビビってんじゃねーぞコラァ」
「リーゼント固まるまで長かったんじゃボケェ!」
「調子乗ってんじゃねぇ!デートでもあんのかア~ン?」
「あるわけねーだろ、てめぇこそバイクで女と2ケツ楽しんでんじゃねーよ!」
「ただのダチに決まってんだろ!いちいちイラついてんじゃねーぞコラァ!」
1人がもう片方の襟首を勢いよくつかみ、壁に押し付けた。
2人の距離が急速に縮まる。
「ハア…ハア…」
「フウ…フウ…」
「てめぇ何ちょっといい匂いさせてんだコラァ!」
「そっちこそ俺に黙ってシャンプー変えてんじゃねーぞウラァ!」
「そんな愛くるしい目でこっち見てくんじゃねーよ!」
「メンチ切っとるんじゃボケェ!」
「ああんコラ」
「ああんコラ」
「あ、アンッ」
「てめぇなに変な声出してんだコラァ!」
「風邪で喉の調子が悪いだけじゃボケェ!」
「んだとさっさと病院行けや!ウイルスなめてんじゃねーぞコラァ!」
激しく息をして見つめ合う2人。
「さっきからてめぇの心臓の音がうるせーんだよコラァ!」
「オメェの方こそ鼻息荒すぎんだよウラァ!」
「この流れでキスしたらぶっ殺すからな!」
「てめぇこそ壁ドンで迫ってんじゃねーぞ卑怯者が!」
とそこへ1人の婦警が駆け寄ってくる。
「ちょっとあんたたちー!また喧嘩してるの止めなさーい!」
「あ、やっべサツ来た」
「逃げんのかこの臆病者!」
「ちげーよアイツ俺の母ちゃんなんだって」
「ヤイてめぇ!オレと母ちゃんのどっちが大事なんだよ!」
「今それどころじゃねーだろバカ!」
「ちっ、続きはまた今度だからな!覚えとけよ!」
「オメェこそちゃんと病院行けよバーロ!」
2人が駿足で逃げ去ったのち、彼らのいた場所には各々のスマホが残されていた。
拾った婦警はそれぞれをチェックして、思わず笑みをこぼした。
「あの子たちよっぽどお互いが好きなのねぇ」
2人のスマホの待ち受け画面にあったのは、相手のタイマン時の雄姿だったことは言うまでもない。
(了)
最近、天国に旅立たれたあの芸人様への追悼のつもりで書きました。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。