第3話 トンネルの悲劇
※外見のことで嫌な思いをされた方は、閲覧にご注意願います。
今もひどいトラウマになっている思い出がある。
「夏休みで学校ないのはいいけど、毎日暑いよね~」
「肝試しで涼みません?」
「じゃあ、今夜あそこ行く?」
そんな会話がきっかけで、当時中学2年生だった私は、女友達2人と連れだって、近所にある「出る」と噂のトンネルに行った。
それは廃線の高架下にある、横幅が人2人分くらいの小さなトンネルだった。
夜遅くに家を抜け出した私たちが集合したとき、あたりはもう真っ暗だった。
「出たらどうする?」
「絶対置いてかないでよ!」
どこか弾むような口調で、友達2人は臆することなくトンネルの闇の中に入っていった。
非モテ陰キャな私と違って、「モテる女」を自認する彼女たちは、どこへ行ってもグイグイ進むのだ。
私はそんな2人の後を、気後れしながらついていった。
3人の靴音が、ピチャピチャと暗いトンネル内に響く。
「ひやぁ!」
「どうしたの!? ……イヤァ!」
友達2人が立て続けに悲鳴を上げた。
「首筋にペロッてされた!」
「腕つかまれた!」
彼女たちは悲鳴を上げながら、元来た方へと疾走した。
何にもされなかった私も、つられて一緒に走った。
そのあとは、みんな入り口まで無事に戻ってこられた。
「さっきのヤバかったよね!」と青ざめた顔で手を取り合う2人をよそに、私は黙ってトンネルを振り返った。
「ねえ! 見てあれ!」
私がトンネルの入り口の壁を指さすと、友達2人はまた悲鳴を上げた。
――楽しかった また来てね――
その壁に書かれた文字は、真っ赤な血の色だった。
彼女たちは、大きな叫び声を響かせて一目散に逃げ帰った。
でも、一人残された私は、なんだか納得が出来なかった。
「よし、もう一回入ろう」
私はさっきと同じように、一人でトンネルの中へと歩を進めた。
真っ暗な中、濡れた地面に自分の靴音だけが響いた。
ピチャピチャ
……
ピチャピチャ
……
歩き続けて、とうとうトンネルの一番奥まで来てしまった。
そのまましばらく突っ立っていたけど、やっぱり何も起こらない。
仕方がないので、私は入口へと引き返し始めた。
ピチャピチャ
……
結局、何かされることもなく、無事に入口にたどり着いてしまった。
「さっきのは、2人の芝居だったのかな?」
私は一人でつぶやくと、さっき文字が書かれていた壁の場所に目をやった。
するとそこには、また同じように真っ赤な文字が浮かんでいた。
――ブスは帰れ――
私の心は血まみれになった。
(了)
◎この話はフィクションです。