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第29話 点は人の上に…
「天は人の上に人を造らず」とは言いますが…
『この上に立って、下を覗いてみてください』
とある現代美術展の小部屋の壁に、こんな説明書きが矢印と共に貼ってあった。
「どれどれ」
俺は指示された場所の上に立ってみた。
そこは全面がガラス張りの床で、下をのぞくと、黒くて丸い点がランダムに散らばって見えた。
座標平面上の散布図を、上から見ているようだ。
どの点も狭い範囲で移動するものの、目立って大きく動く気配はない。
「あの黒い点は、いったい何なんだ?」
俺はうつむいたまま顎に手を当てて、しばらく思案していた。
* * *
『この上に立って、下を覗いてみてください』
こんな説明書きが示す矢印の上に、私は立ってみた。
そこはガラス張りの床の上で、下には無数の丸い点が散らばっている。
「あの黒い点たちは、いったい何なのかしら?」
しゃがんで覗きこむと、一瞬、ある黒い点が白くなった。
気のせいだろうか。人の顔のように見えた。
はるか上の方から視線を感じて、私は天井を見上げた。
(了)
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