第28話 永遠の青二才
平和への願いを込めて書きました。よろしくお願いいたします。
小さな湖に隣接する、美しい街の高台にて。
男の子と女の子が、街に伝わる古い歌を歌って遊んでいた。
まだ十歳にも満たない愛らしい声の合唱を、太陽の光が包みこんでいた。
空はこんなに青いのに
どうして大地を走れない?
空はこんなに青いのに
どうして海で泳げない?
空はこんなに青いのに
どうして木登りできないの?
空はこんなに青いのに
どうして花を愛でないの?
空はこんなに青いのに
どうして命を奪えるの?
「OK、デイジー。いま歌った歌をリピートして。
歌い終わったら、右隣りのデイジーに、私が言ったことと同じことを命令して」
高台に連れて来た最新式のAIロボット、「デイジー」に向かって、女の子が言った。
『空はこんなに青いのに……』
白いウサギのように丸いフォルムが特徴的な「デイジー」は、正確な音調で歌い始めた。
やがて歌い終わった「デイジー」は、隣にいるもう1体の「デイジー」に音声を発した。
『OK、デイジー。いま歌った歌をリピートして……』
こうして2体目が指示通りに歌い始めると、二人の子どもたちは手を叩いて喜んだ。
「あ! ボク、もっと面白いことを思いついた!」
男の子はそう言うと、新たに8体の「デイジー」を取り出し、合計10体を時計の文字盤のように等間隔に置いた。
外側を向いて並べられた様子を上から見ると、10個の白い丸石が円を描いているようだった。
「これで1体に命令すれば、輪になった伝言ゲームみたいに、ずっと歌が続くよ!」
「わぁい! やってみよう!」
女の子がさっきと同じように命令してみると、狙い通り、歌は途切れることなく回り続けた。
二人は夕暮れになるまで、飽きずに見守り続けた。
「もうこんな時間だ、家に帰ろう」
「ねえ、このまま置いて帰らない? 明日も歌ってるか、見てみたいの」
女の子が言うと、男の子は笑って答えた。
「うん! 明日が楽しみだな!」
「デイジー」は太陽光発電システムを搭載しているため、放っておいても電池切れになる心配はないと、子どもたちは理解していた。
二人は10体の「デイジー」に手を振って、高台を後にした。
二人の背中に、夕日と「デイジー」たちの歌声が、いつまでも染み渡った。
その日の夜、街を一発のミサイルが襲った。
高台を残して、湖畔も街も、すべてが無残な姿に変わり果てた。
* * *
その翌日、爽やかな朝日に照らされた高台にて。
『空はこんなに青いのに――』
『――どうして大地を走れない?』
白くて丸い石の形をした十体の「デイジー」たちは、延々と歌のバトンリレーを続ける。
『空はこんなに青いのに――』
『――どうして命を奪えるの?』
いつか太陽からのエネルギー源を断たれる、その日まで。
彼らの歌声は止まらない。
(了)
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございます。またマイペースですが、更新させていただく予定です。