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第20話 兵、らっしゃい!

◎コント仕立てです。遅くなりましたが、新年の初笑いに少しでもお口に合えば幸いです。

 一人のサラリーマン(治:20代前半)が寿司屋の前に立っている。


治「昼休みもまだ時間あるし、たまには高級寿司でも味わうか!」

 治、寿司屋の戸を開けて入店。中はカウンター式で、店長らしき男(30代半ば)が立っている。

男「よく来たな、新人!早く入れ!」

治「は?」

 治、驚いて男を見る。

 男は割烹着の下にいかめしい軍服を着て、ミリタリーキャップをかぶっている。

男「グズグズするな!さっさと座れ!」

治「えっと、ここ寿司屋ですよね?」

男「新人が気安く話しかけるな!」

治「あなた、大将?」

男「大将じゃない。俺のことは、『隊長』と呼べ」

治「隊長?」

男「よし!今日もいいネタが入って来たな、バリバリ特訓してやろう」

治「特訓!?」

男「まずは好きなメニューを選べ」

治「よく分からないけど、寿司食えるんだよね?」

男「さっさと選べ!ネタの鮮度が落ちるぞ、バカ!」

治「優しいけど言葉遣いひでーな」


男「今日のメニューはこの二つだ。

カツオのたたき上げか、鉄火の軍艦巻きか。

好きな方を選べ」

治「なにココ、自衛隊の食堂なの?」

男「文句を言う奴に食わせる寿司はない!」

治「じゃあ、軍艦巻きで!」

 隊長がカウンター内で酢飯を握り始める。治、その様子を見守る。


隊長「このシャリの白さ……むかし、ジャングルで散った仲間の骨のようだ」

治「すげえ客を無視した例えだな」

隊長「マイケル……陽気でいい奴だったのに……ちくしょぉ」

 隊長がうつむき、気まずくなる治。

隊長「前線で倒れなきゃ、今ごろは家族と一緒に……ぐすっ」

治「早く寿司握ってほしいんだけどなー」

隊長「ったく、泣かせやがるぜ」

 隊長、鼻水を拭き取った手でシャリを握る。


治「ちょっとぉ!手ぇ洗えよ!!」

隊長「ん?どうかしたか?」

治「汚ねぇだろーが、衛生的に!」

隊長「安心しろ。衛生兵なら、この奥で待機している」

治「そっちの衛生じゃねえ!」


 隊長、手を洗ってシャリを握り直す。治、その様子を不安げに見つめる。

治「なんかやべーとこ来ちゃったなぁ」

隊長「よし、出来たぞ」

治「おっ、美味そう!じゃ早いとこ食っちゃお……って、どこ行くんだよ!?」

 隊長、寿司を乗せた皿を持ってカウンターから出ると、裏口のドアに向かう。

隊長「ついてこい、こっちだ」

治「はあ!?どこで食わせる気だよ!」


 隊長、治を連れて裏口を出る。空き地が二人の前に広がっている。

隊長「大佐!お食事をお持ちしました!大佐!」

治「誰だよ大佐って?」

 空き地の隅からガサガサと音が聞こえる。何かが姿を現す。

猫「にゃあ~ん」

隊長「遅くなって申し訳ございません!おニャンコ大佐!」

治「いや、野良猫にやるのかよ!その寿司!」

隊長「貴様!おニャンコ大佐に向かって失礼だぞ!」

治「お前の呼び方のほうが失礼だわ」


 隊長、猫に寿司をやり、食べる様子を愛おしそうに見つめる。

隊長「(ものすごく野太い声で)

おニャンコ大佐~、美味しいですか~?にゃあ~ん」

治「うわー、引くわー」

隊長「おニャンコ大佐~、可愛いですね~。にゃあ~ん」

 そう言いながら、猫を抱っこする隊長。呆れ顔で眺める治。

隊長「よし、そろそろ戻るぞ」

治「今から握るとか、いつまで待たせんだよ」

 隊長と治、野良猫をあとにして、裏口から店内に戻る。


 隊長、猫の毛まみれの手をシャリに突っ込む。

治「手ぇ洗えや!!隊っ長おぉー!!」

隊長「また文句か」

治「衛生的にダメだって!!」

隊長「だから衛生兵なら、奥で待機してると」

治「繰り返すんじゃねー!!」

 治、息切れで肩を上下させる。隊長、手を洗ってシャリを手に取る。

治「つーか、こんなとこで衛生兵なにやってんだよ」

隊長「それより貴様、腹ごしらえに時間がかかりすぎだ」

治「お前のせいだろ」


 隊長、シャリを握り始めた途端、顔をしかめる。

隊長「うっ、しまったぁ!」

治「どうした!?」

隊長「さっき、おニャンコ大佐を担ぎ上げていたせいで……指に力が入らない!」

治「ネコ抱っこしてただけだろーが!」

隊長「こうなったら仕方がない。俺の兵糧食を分けてやろう」

治「大丈夫かよ」

 隊長、冷蔵庫から寿司の乗った皿を取り出して、治の前に出す。

治「まあ、ネタは美味しそうだな……いただきます」

 治、寿司を口に入れる。

治「うん、これは美味い……って、辛い!」

隊長「迷彩柄と言えば、ワサビだからな。

たっぷり仕込んでおいた。これも訓練だ」


 治、激しくせき込む。

治「水、水をくれ!」

隊長「ダメだ!メニュー完遂まで水分補給は認めん!」

治「ウッ、米が喉に!き、気管に入った!」

隊長「俺のことか?それなら大丈夫だ」

治「その『貴官』じゃねーよ!バカ!」

 治、苦悶の末になんとかやり過ごす。隊長、腕組みをしてうなずく。

隊長「新人にしては、よく頑張ったな」

 治、隊長をにらみつける。

治「くっそぉ!生まれて初めて寿司職人を殴りたくなったぜぇ」


 そのとき、寿司屋の戸が開いて人が入ってくる。

 調理用白衣を着た中年男性が、入るなり隊長に目を留める。

男性「やい、てめえ!俺の許可なくカウンター入るなっつっただろう!」

隊長「いやあの、これはですね、その」

男性「自衛隊3日で辞めたくせに、軍人みたいな格好しやがって。

ちょっとは新人らしく掃除でもしたらどうだ!」


治「お前も新人やったんかい!」


 (了)

◎おニャンコ大佐は特殊な訓練を受けています。

人間の食べ物を猫にあげるのは、猫の健康上良くないので控えましょう。

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