第14話 架空のリアルちゃん(前編)
※この話は、前編と後編があります。各5分ほどです。
【場面1、リアルの始まり】
非モテ女子高生こと「小川りえ」は春から2年生なんだけど、去年からずっとボッチが続いている。クラス替えで友達なんて出来なかったし。
そんな彼女の頭の中に始終流れているのが、架空アニメ『虹色クレッシェンド』。略して『にじクレ』。
私はそのアニメの主人公、名前は小川リアル。りえが辛い現実から逃げるために生み出された、空想上のキャラよ。
彼女の理想像ってとこね。
最初は「りえ」そのまんまだったけど、ボッチの自分が呼び起こされて現実に戻りやすくなっちゃうから、途中で改名したみたい。
それにアニメの中の私は、ドイツ人と日本人のハーフの設定だからさ。
りえはドイツ語どころか、英語も前のテストで赤点だったんですけど。笑
なんたってここは架空のアニメ『にじクレ』なんだから、実際に出来るかどうかなんて関係ないの。
りえの顔が、どこからどう見たって日本人にしか見えない平面顔であってもね。
【場面2:小川リアルの授業中 vs りえの現実】
「この問題を解けたのは、今回も小川リアルさんだけでした! さすがね!」
担任の夢野先生(女)が、クラスで私を名指しして誉めてくれた。
「かっけー!」
「リアルさん神だわー」
男女問わず次々と私を称賛する声があがる。
なんたってここは架空だから。解けない問題なんて私にはないって設定。
「みんな大げさだから! ヒントは問題の中にあったんだよ」
そう言うと私はおもむろに前に出て、物凄く難しい公式とか計算とか黒板に怒涛の勢いで書き始めるんだけど、その様子は音楽とカット絵で適当に流す。
だって五教科の定期テスト平均が40点のりえには、ありえない話だから。
え? 現実のりえ?
ああ、英語の小テストで、肘掛け椅子の“ arm chair ”のこと間違えて「腕枕」って書いたって、先生からみんなに暴露されてたわ。
そのせいで「エロ川」とか呼ばれてるって、可哀そうな話。
先生もデリカシーのない奴ね。しかも担任なんだって。ついてないよね。
りえはこうやって、嫌な思い出をぜんぶ『にじクレ』内で置き換えて生きているみたいね。
【場面3、小川リアルの昼休み vs りえの現実】
「リアルさん! 今日のラーメンは俺におごらせてくれ!」
「いや! 僕が!」
「すっこんでろ貧乏人! 俺様がフカヒレのスープを堪能させてやるぜ!」
学年一、いや高校一の美人の設定だから、私は男の子に不自由しない。
食堂で私との相席を勝ち取るべく、校内有数のモテ男たちが今日も激しいバトルを繰り広げている。
彼らの「中の人」はみんな、りえの推しの声優さんたちね。
中には実年齢が50近い子持ちの声優さんもいるけど、とろけそうなぐらいのイケボだし、なにしろここは『にじクレ』だから。
それにしてもさっきから、トイレの匂いがアニメの世界に入ってくるのよね。
ボッチのりえが、今日も便所飯やってるせいね。
さっさと食べてトイレから出てほしいけど、りえの席には今、彼女の陰口を言うグループが陣取ってるからなァ。
ちなみに、『にじクレ』第1話で交通事故に遭って死ぬモブ女3人は、あのグループの奴らがモデルなんだって。笑
あれ? りえが便座に座ったまま泣いてる。
スマホをタップして見ているのは、「小説家になろう」のサイトだった。
あ~、例のネット小説のコンテストに、今年も一次予選通過しなかったんだね。
も~、トイレで泣かないでよ。見てるこっちも辛くなるわ。
架空アニメのBGMも微妙に暗くなるでしょ!
(続く)
☆第15話(後編)へ続きます。
◎前編をお読みくださり、誠にありがとうございます。
明日、後編を更新いたします。よろしければお付き合いいただけると幸いです。