第13話 進め! デンパくん!
僕の名前はデンパと言います。
18歳のピチピチボーイです。金持ちです。
僕の友達からは、
「会話が通じない」
「今日も電波飛んでるね」
とかよく言われます。
僕自身は極めてマトモに話そうと努力しているのですが、どうも相手にはうまく伝わらないみたいです。
伝わらなければ伝わるまで繰り返せばいいだけです。
圏外だからって気にしていたら、生きていけません。
そんな僕にも好きな人が出来ました。
名前を姫子さんと言います。
僕にとっては、光り輝く姫そのものです。
「姫子さん、あなたが好きです」
「デンパくん、ごめんなさい。あなたのこと、タイプじゃないの」
そんなやりとりをこの2週間で百回以上繰り返してやっと、デートの約束にこぎつけました。
努力の賜物ですね。
姫子さんとのデートはすべて順調に進みました。
姫子さんが早く帰ろうとするたび、僕が万札を渡して引き止めたからです。
湯水が湧くように金に困らない僕には、大した出費ではありません。
「わあ、綺麗なお月さま」
夜空に浮かぶ満月を見て、姫子さんがうっとりと言いました。
その手には僕のあげた万札の束がしっかりと握られています。
『月が綺麗ですね』というのは、昔から恋愛の告白に該当するらしいですね。
これは姫子さんからの愛の告白だと、僕は確信しました。
無論、僕も同じ気持ちです。
そこで僕はこう言いました。
「まるであなたのように美しい満月ですね」
すると姫子さんが、上目遣いに僕を見てきました。
まんざらでもないようです。
そこで僕は、こう続けました。
「僕はいま、
あの満月に向かって、
思いっきり、ロケットを発射したい気分です!」
そう言うと、僕は姫子さんに大きくウインクをしました。
ついでに親指も立てて、下心もアピールしてみました。
すると姫子さんはポッと頬を赤らめました。
うつむいてもじもじとしています。
これはOKと見て良さそうですね。
僕が鼻の下を伸ばして喜んでいると、姫子さんは僕を見上げて言いました。
「わたしは今、
あなたのことを、
果てしなく圏外に感じています」
そう言い終わった瞬間、姫子さんの体がピカーッと光り始めました。
強烈に眩しい光のせいで、僕は目をつぶってしまいました。
ようやく僕が目を開けると、もう姫子さんの姿は見当たりませんでした。
夜空を見やると、天女のような着物姿で夜空へと駆け上がっていく女の子の影が目に飛び込んできました。
ふわふわと可憐に浮かぶその姿は、まぎれもなく姫子さん本人でした。
「姫子さーん! 待ってくださーい!」と僕が声を張り上げると、
「さようなら! 私は月へ帰ります!」と姫子さんの声が聞こえてきました。
だんだんと小さくなっていく姫子さんの影を見送りながら、僕は彼女の本心に思い当たりました。
――地球だと恥ずかしいから、月で愛し合いましょう♡
なるほど! 奥ゆかしい姫子さんらしいですね。
僕のアンテナは圏外に隠れたメッセージをもれなくキャッチしました。
「トランスフォーマー! 起動!」
僕の声に反応して、僕の体は瞬く間に一台のロケットへと姿を変えました。
姫子さんをどこまでも見失わないために、自分の体をロケット人間に改造しておいたのです。
マッハ25の速度で飛べば、彼女よりもうんと早く月に着けるでしょう。
「おかえり! 待ってたよハニー」
そう言って月で微笑む僕を見て、姫子さんはどんな顔をすることでしょう。
想像するだけで顔のニヤニヤが止まりません。
発射態勢に入ったロケットよりも先に、僕の想いは成層圏外を突き抜けて、どこまでも進んでいきそうです。
(了)
◎稚拙でも構わず書き続ける私も、デンパくんと変わりありません。
最後までお読みくださり、誠にありがとうございます。