22
水の中に突然手が入ってきた。
その手はアリスティアラの細い腕を掴んだ。
気づいた時にはあっという間にガバっと引き上げられていた。
「アリスティアラ様、ご無事ですか?」
どなたのお声かしら?
アリスティアラは顔についている水滴を拭う。
「アリスティアラ様、ラミーです」
パーティーで守ってくれたその人はアリスティアラの顔を覗き込んでいた。
急いできたのかその端正な顔は額から汗を流しており、アリスティアラへ心配と焦りの眼差しを向けていた。
「…ラミー様?」
「はい、お怪我はございませんか?」
「かすり傷と打撲ぐらいです。大した事ありませんわ」
「水に落ちた衝撃で全身を打撲したようですね。
化膿などはしないとは思いますが、念のため回復魔法をかけましょう」
「そんなことはなさらなくて大丈夫です、私よりも重症な人があちらに多くいます」
「あいにくアリスティアラ様が1番ひどいお怪我をされていますよ?
それでは治療のためにこちらに座っていただきますね」
そう言うとラミーはアリスティアラを池の縁に座らせた。
ラミーの腕から下ろされ、ほんのちょっとだけ寂しくなった。
「ラミー様、」
その一抹の寂しさを埋めるようにアリスティアラが話しかける。
「はい?」
「どうしてここにいらっしゃるのですか?」
「ディサップ様が暴れられているという話を耳にしまして」
ああ、もう話が回ってしまっているのか。
ラミー様がいらっしゃったのって、お兄様の暴走を止めるためよね。
さっきまでは私が止めていたけど…今はどうなっているのかしら…
「ラミー様!!」
不安になって突然バッ!っとアリスティアラが立ち上がる。
「どうされました?まだ回復魔法をかけている途中ですよ?」
「お兄様の暴走を止める人がいないから皆けがをしてしまいます!
こんな悠長なことをしている場合ではありません!」
「その心配は無用です。
ディサップ様のこれ以上の暴走は危険だということで、その場にいた者たちは避難しました」
「それでは、お兄様は1人なのですか?」
実の兄に傷つけられても尚、アリスティアラにとってディサップは大切な家族であった。
誰にも相手をされず放っておかれているディサップのことを考えると想像だけなのにとても憐れだと感じた。
「いいえ、ディサップ様はお1人ではありませんよ」
「ではどなたがおられるのですか?」
「それは見てみれば分かります。回復魔法も終わりましたし、行ってみますか?」
「はい!」
立ち上がってすぐに走り出そうとするアリスティアラをラミーは引き留めた。
「アリスティアラ様、回復魔法をかけたと言っても無理をしてはいけません」
そう言うと、池から引き上げた時のようにアリスティアラをふわっと抱きかかえた。
「ラミー様も疲れていらっしゃるのでしょう?私自分で歩けますわ」
「お気になさらず。傷ついている我が国の王女を歩かせたとあっては、それこそシュタウフェンの名が傷つきます」
王女に触れるというのは、割と重い罪になるはずだ。
だが、これはアリスティアラに婚約者がいないということが功を奏した。
ー
離宮があったと思われるはずの庭は、今や見るのも悲惨な光景が広がっている。
木々は倒され、地面の芝はめくれ、炎属性の魔力が使われたのか焦げ臭い匂いが漂っている。
ディサップの周りにマントを着た怪しい者が数人いるのが見えた。
「あなたたち、なにをしてるの!」
アリスティアラがそう叫ぶとその者たちがクルっとこちらを向いた。
「アリスティアラ様!お久しぶりです」
久しぶりだなんて、私はこんな怪しい集団の知り合いなんていないわよ。
怪訝な表情を浮かべていると、横から「王家の魔導士たちですよ」とラミーが伝えた。
魔導士・・・?
よく顔を見るとよく知っている顔がちらほらと見受けられる。
魔導士らはお兄様とともに私の追放を企てた加害者だ。しかしディサップに使われた被害者でもある。
そんな人たちとどんな顔して話せばいいのよ。
そう心の中で呟いていることなど表情に微塵も出さず、笑顔を作る。
「魔導士たちはどうしてここにいるのですか」
知らず知らずのうちに言葉が強くなる。
「ディサップ様の暴走を止めるために私と一緒に来てくださったのです。
反省したようですよ。」
そうなの?
アリスティアラが魔導士たちの方を見た。
「はい!ラミー様のおっしゃる通りです。ご迷惑をおかけしました」
魔導士たちは一斉に頭を下げる。
本当に信用して良いものなのか…
だが今は前のことを掘り返して追及している場合ではないことは誰の眼から見ても明らかだった。
「ディサップ様には一旦睡眠魔法をかけて眠っていただきました」
魔導士が言う。
「お兄様が目覚めて暴走すると次はどれほどの被害に及ぶかわかりませんわ。
対策を考えなければ」
確かに、その場にいる皆が頷く。
だがいくら考えても全くこれといったアイデアが出てこない。
ディサップの魔力の強さに敵うものは国内には存在していないだろう。
「いっそのこと空蜘蛛の糸をハンモック状にしてみてはどうでしょう?」
アリスティアラの苦し紛れの一言。
その場に静寂が訪れた。
さすがに突拍子無さ過ぎたかしら。
私は良い考えだと思うんだけどな。
空蜘蛛とは魔生物でランドール王国固有の生き物である。
その糸は魔力や魔法を染み込ませるのに最適で、専門職である私たちはよく使っている。
「どうしてそのようなことを思われたのですか?」
「大して深い理由はございません。ただ、幼いころ毎年夏の静養で別荘を訪れていた時にお兄様がいつもハンモックにのられていたのを思い出しまして」
「なるほど。ハンモックの形なら何とか作れそうですね」
ラミーが答える。
「「「本当ですか!?!?!?」」」
この言葉を言った中にアリスティアラだけでなく魔導士たちも含まれているのは仕方ない。
専門家ではあるがこの者たちの潜在的な魔力はそう多くはないのだ。
「ええ、魔法を何個か組み合わせれば可能ではあると思います。そう簡単にはいかないでしょうが」
難しくても試してみる価値はあるだろう。
私たちには少しでも成功する確率があるのなら試さないという手はないのだ。
読んでいただきありがとうございます!
作者の励みになりますので、ぜひ☆☆☆☆☆、ブックマーク、いいねもよろしくお願いします!




