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今回は、私たちにしては長めです。
本宮から歩いて約5分。
森の中にポツンと建てられた離宮は人気が無く、心なしか空気が冷たい。離宮とはいえ王族の住まう場所ということできれいに整えられているはずの木々も不気味に感じられる。
ディサップの病気が分かってから急ピッチで建設されたものであるため、本宮のような細かい装飾は施されていない。
離宮の門の前には屈強な兵士が2人、門番として任務にあたっている。
離宮に来ると決めたのは今日の朝だったが、もう話は伝わっていたらしい。
驚かれることもなくすぐに中に通された。
兵士も侍女も新しい人員に交代して、まだ仕事に慣れていないのだろう。
大勢の人がせわしく働いていた。
「陛下、アリスティアラ様こちらです」
5年前に来たときはディサップの乳母が部屋まで案内してくれたが今日は初めて見る顔の侍女だ。
きっと乳母もこの離宮での仕事を外されたのだろう。
こうなったのはディサップ自身のせいだが、アリスティアラはなんとなく寂寥感を覚えた。
コンコン。侍女がドアをノックした。
「失礼します、ディサップ様。陛下とアリスティアラ様がいらっしゃっております」
「入るぞ」
ディサップの返事を待たずに2人は部屋に入った。
少しの時間さえも惜しいのだ。
「お兄様、体調はいかがですか?」
大きなベッドに横たわっているディサップに声をかける。
「アリスティアラか・・・?」
ディサップが目を開ける。少し会わない間に頬が窶れたようだ。
「はい、お久しぶりです。お父様もいらっしゃいます」
「今日はどうしたんだい?階下も騒がしいようだが」
アリスティアラはディサップの言葉にドキッとした。
まさか、私たちが来た理由を悟られているのか?
ディサップが他人の行動や思考を”見る”ことができないようにこの部屋の周りには結界を張っているのだが。
そんな驚きは表情に微塵も出さず、ディサップと会話を続ける。
「久しぶりにお兄様にお会いしたくなりまして」
「そうかそうか。元気にしていたか?」
そう言いながらディサップはベッドから体を起こす。
「はい、毎日王宮での勤めを頑張っております」
ゴソゴソ。
お父様がディサップに見つからないように証拠品が無いか捜索する。
今日は誰一人部下がいないので国王自ら捜索しなければならない。
アリスティアラはそんな国王を横目で見、一生懸命時間稼ぎをする。
「母上はお元気か?」
「とても元気にしていらっしゃいます。相変わらず私はお母さまの着せ替え人形ですわ」
こんな風に話していると幼いころに戻ったような気分だ。
「母上はアリスのドレスをあつらえるのが趣味のようなものだからな」
懐かしむようにディサップは目を細める。
硬かった表情が緩んだ一瞬、ディサップが視線を左下に向けたのを2人は見逃しはしなかった。
お父様がすっとベッドの左側へ動く。
ベッドの下に何かが隠されているようだ。慌てて入れられたのか。4分の1くらいが見えていた。
取り出してみると、
それは魔法陣だった。
帝王学で魔法陣の読み取りも習得した2人はそれが何の用途で使うものなのかすぐに分かった。
何度か使われた形跡が残る魔法陣。それは魔導士たちの塔で見つかったものと同じ、魔力を送るための魔法陣であった。
「なぜこのようなものがお前の部屋にあるんだ、ディサップよ」
淡々と話すお父様は本当に怖い。
怒鳴られた方がましなのではとさえ思ってしまう。
「父上?何のことをおっしゃっているのか私には全く分かりません」
心底不思議そうに首を傾げるディサップ。
「今さらしらばっくれるでない。お前がトマスを利用して魔導士らに接触したことはもう分かっているのだぞ!」
「・・・・・・・・なんだ、もうばれていたのですね。もう少し魔導士たちも頑張ってくれると思ってたのに。僕の魔力の手助けが無くなったら突然何もできなくなるんだから。だから王宮で仕事を任せてもらえないのだろうけど」
フフっと笑みをこぼすディサップ。
さっきまでの穏やかな表情とは打って変わり、眼光が鋭くなった。
「父上のおっしゃる通りです。私はト、トマト?、なんだっけ、トマス?
とか言う名前の男を利用して魔導士らと結託してアリスティアラの魂を異世界に飛ばしました」
トマスは利用されて終わりの捨て駒だったのか。
重大事件に巻き込まれて、でも名前すらも憶えられていないだなんて今日ばかりはトマスに同情する。
「全部完璧だと思ったのになー。でもアリスティアラが、まさかたったの5年で戻ってくるとは思いませんでしたよ。そこが大きな誤算でしたね。
何がいけなかったんだろう。魔力は十二分に足りていたし、魔術の取り扱いには気を付けてたし・・・やっぱり僕の体力が無かったことが失敗の要因かな」
うわ・・こんなに饒舌に喋るお兄様生まれて初めて見たんだけど。
「ディサップ、一応聞くが反省は?」
「反省・・・ですか。アリスティアラが戻ってきたと聞いて慌ててしまい、魔導士たちとの意思疎通が円滑に行えなかったことですね。もう少し父上に見つかるのが遅ければもう1度アリスティアラを飛ばせたのになー」
目をキラキラさせながら話すディサップ。
彼自身のテンションが高まってきたのだろうか、部屋全体が嫌な空気に包まれていく。
ディサップの脳内の辞書からは"会話のキャッチボール"という概念さえもなくなってしまったようだ。
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