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とある盗賊

「頭、そこはダメだ。何か、何かいる」


手下の中でも、魔術の素養がある男が、洞穴の入り口を指差して、震えていた。


「馬鹿野郎。さっさと隠れねえと見つかっちまったら終わりだぞ!」


「でもよう。」


構わず、顔面を殴り飛ばした。


「てめえら、何見てやがる。」


「いや、頭、流石にあんだけ怯えんだし、なんかあんじゃねえか?」


「こんなとこに何があるってんだ。さっさと行かねえか!」


言った手下の一人の尻を蹴り上げた。

不満気な目つきで、こちらを見ていたが、すぐに尻をさすりながら洞穴に入っていく。

一人が入ると残りもぞろぞろと入っていった。

二十ちょっとの人数だ。少々の魔物が潜んでいても、なんとかなる。

すぐに、うんざりした声が聞こえてきた。


「頭、こりゃスライムの巣だ。ひでぇ臭いがする。」


「なんだ、スライムかよ。」


「おい、誰か塩撒いてくれ。」


「頭、ゴブリンがやられてらぁ。」


「こっちはオークだな。くせえ。」


「げっ、天井にも張り付いてやがる。」


「マジかよ。」


スライムの巣程度なら、どうにでもなる。

前の塒も、こんな洞穴だったのだ。

手下どもは処理には手慣れている。

とりあえず、通るのに邪魔なスライムだけ駆除していった。


「奥は広いな。松明、誰が持ってんだっけ?」


「俺持ってるぞ。すぐつけるわ。」


「ん?ありゃ剣か?」


「おい、こっち、槍があるぞ。」


「弓まであらあ。矢も落ちてねえか?」


「一本もねえな。ちくしょう。」


開けた空間には、乱雑に武器の類が置かれていた。

そこそこの数があって、手下どもは色めき立っている。

武器はそこそこ良い値で売れるのだ。


「手持ちが傷んだやつは交換しとけ。」


言って、腰を下ろした。

必死に逃げ、少しくたびれたのもある。

同業の塒か、獲物の隠し場所だろう。

少しは休めそうだ。


「頭、こっちはまだ奥がありそうだ。見に行って良いか?」


「好きにしろ。」


「へへ、すまねえな。」


「俺も行くわ。」


三人ほどが、松明を持って奥へと消えた。

騎士に追われていたばかりだと言うのに、元気な事だ。

今は林に点在する開拓村に、行商人が訪れる時期だ。

数人の護衛を連れているが、三十人ほどの手下を抱える自分には、良い獲物だった。

行商人の馬車と護衛の装備、数日は町で飲み食い出来るほど、良い稼ぎになるのだ。

だが、今回に限って何故か王国騎士団が近くに駐屯していたらしい。


林で待ち伏せしていた所を発見され、犬のように追われた。

そこらの領主雇われた兵士程度なら、互角にやり合える腕利きは何人かいるが、王国騎士となると分が悪過ぎた。

自分ですら、一対一でやり合うのが精一杯だろう。


「頭、ここはダメだ。早く出よう。」


先程、顔面を殴り飛ばした男が縋り付いてきた。

元々、貴族の館にいた下男で、主の金に手をつけて逃げた男だ。

手下の一人が拾ってきたのだが、臆病過ぎて荒事はてんで駄目だった。


「スライムにビビってんのかよ。」


「暗いところが怖いんでちゅかー?」


そんな様子を見て、手下どもがゲラゲラと笑い声をあげた。

男は俯き、震えている。

元々、臆病な男だが、ここまで言い募るのも珍しい。


「やられた!頭、罠だ!」


奥へ行った三人が、戻ってきた。

一人の肩に、矢が突き立っている。

やけにドス黒い血。毒が塗ってあったのだろう。


「ちくしょう。いてえ!」


「抜いてやるから、誰か押さえとけ!」


「誰か毒消し持ってねえか。」


「おい、そのまま切るなよ!ちゃんと炙れ!」


がやがやと応急処置を始める手下ども。

手慣れたものだった。

そして、皆が少し色めき立っている。

武器をあんなに散らかしていたやつらが、罠まで作って守る物。

もしかすると、この洞穴は当たりなのかもしれない。


「野郎ども、二人残してついてこい。」


二人とは、手負いの手下と、先程から怯えている男だ。

松明を持った手下を先に行かせた。


「毒矢にやられたとこで這いつくばれ。そこだけ這って進むぞ。」


「了解!」


威勢よく返事をして、どんどん進んでいく。

他の手下も、ニヤニヤと笑っていた。




例によって、俺は涅槃のポーズで待ち構えていた。

ロザリンドは外出中である。

ここ二、三日の間、侵入者が無かったので周辺で魔物を眷属化しているらしい。

ダンジョンに入れるスペースがないので、今はまだ放し飼い状態だ。


「なんだこいつ、真っ裸だぞ。」


「頭、裸で寝てる男がいる。」


「お宝は?」


「奥までよく見えねえな。」


がやがやとやかましい。

薄汚れたなりは、正しく盗賊といった感じで、実にわかりやすい。

数人だが、魂の容量がそれなりにあるものもいて、俺は上機嫌だった。


「ようこそ。歓迎するよ。」


言って、立ち上がる。

盗賊どもはぞろぞろと入って来ていた。

二十一名という事もわかっている。


「始めようか。」


言って、地面を蹴った。

人の頃とは比べ物にならない力は、一瞬で盗賊の一人の目の前まで身体を運ぶ。


両手で頭を掴み、捩じ切った。


頭を放り捨てて、すぐ隣にいた男の胸に腕を突き刺す。

呆気なく胸骨と背骨を破壊して貫通した。


単純な膂力でこれだ。実に素晴らしい。

流れ込んでくる魂と、人間を紙切れのように引き裂ける万能感。

背から這い上がる快感が、一瞬俺を支配した。


「ば、化け物だ!」


「ちくしょう!やっちまえ!」


もっと、これが欲しい。


拳を顔面に叩きつける。

頭蓋骨が粉々に割れ、眼球と脳漿が吹き飛んだ。


脇腹に蹴りを入れる。

男の身体が二つに裂け、腸を晒したまま倒れる。


「アッハッハッハッハァァァ!!」


笑っていた。狂った様に笑いながら、血飛沫を浴びる。


「か、勝てっこねえ!」


「逃げろ!」


「頭は?あの野郎どこ行きやがった!」


「とっくにやられたよ!いいから逃げろ!」


四人、五人が逃げて行く。

逃がす訳がないのに。

また、地面を蹴る。

三歩で、追いついた。


背を向けて、必死に逃げる男の肩に、手を置く。


「嫌だ!助けてくれ!」


振り向いた男の顔は、恐怖に歪んでいた。


「良い顔だ。」


せっかくなので、顔は残してやろう。

手を置いた肩に、力を込める。

いとも簡単に、骨が砕けた。


男が悲鳴をあげる。


腹を刺した。

臓物を引き摺り出す。


振り返った男の仲間達が、悲鳴をあげる。


とても、良い。

これが魔性の生き物になるという事なのか。


「やべでぐれ!死にだぐねぇ!」


「ちくしょう!ちくしょう!」


あと、三人。

いや、最初の部屋に二人残ってるから、あと五人か。

愉悦の時は実に短い。

残念だが、侵入者は有限なのだった。

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