初拡張。
初の侵入者がやって来てから十日程が経過した。
やはり人間は四人一組で行動しているようだ。
この十日で五組ほど侵入してきており、骸となってスライムの餌になっている。
装備も似たようなもので、あの大雑把な地図も持っていた。
「そろそろ、部屋を追加しないと、不味いな。」
二十人もの死体は、スライムには多過ぎたようだ。
かなりの頻度で分裂が起こり、穴の方はもちろん、通路のスライムまで過剰に分裂し、一部で共食いが始まっていた。
二十人分の魂があれば、小さな部屋ぐらいならば作れそうだ。
この部屋のように、ただの洞穴のような空間なら、もう少し広い空間にする事も可能だ。
「ロザリンド、どうするべきかな。」
一応、第一の配下にも相談する。
「今は拡げるだけ拡げればよろしいかと。」
まぁ、そうよね。
入場即ボス部屋はいくらなんでもあんまりだよね。
「で、あるか。…よし。」
入り口へ続く通路へ、ダンジョンが取り込んだ魂を送る。
やり方は何となく、でなんとかなった。
やはり、ダンジョンの主としての本能がそうさせるのだろう。
ぐいぐいと、体内から何か引き摺り出される感覚。
気持ちの良いものではないが、その内慣れるだろう。
通路はやや長く、200mほど。
緩やかに曲線を描くようなカーブにした。
部屋となる空間は、此処とそれほど変わらない。
「こんなもんかな。」
何事もなく、新しい部屋を作ると、ロザリンドを伴って奥の部屋へと移動した。
俺たちが移動すれば、通路に巣食ったスライムがあの部屋に入ってくるだろう。
間近では、俺の魔力が濃過ぎて、やつらは本能的に入って来なかったのだ。
特に何の面白味も無く、初拡張は終わった。
「探索隊百名の内、二十五名が行方不明。死亡の確認は八名。生きて帰って来た者も、半数が負傷、か。おまけに放棄された開拓村が多数。」
林の手前。仮に築いた部隊の野営地。
指揮官用の天幕で、王国騎士団第六部隊副長、ガーランドはため息とともに報告書を放り投げた。
王都を発って半月、騎士団員である部下達に損害は出ていないものの、雇った冒険者達は壊滅状態と言っていい。
ダンジョン発生が観測されてから半月が経とうとしていた。
パナップ平野から魔物が駆逐されて久しいが、山脈の麓に広がる林には、幾らかの開拓村があるのみで、それほど人の手は入っていない。
城塞都市アルトリアからほど近く、補給には難儀していないが、ダンジョンの捜索は難航していた。
調査に向かった冒険者が、かなりの数戻らない。
仲間を失った組の生き残りから話しを聞くと、オークやロックボアと言った好戦的な魔物や、ゴブリンの集落などが多数見つかっており、それらと遭遇してしまった可能性が高い。
また、最近破壊されたと思われる開拓村が三箇所、時期は不明ながら放棄された開拓村が五箇所見つかっている。
かなりの広範囲を捜索させているとは言え、この地の領主は何をしていたのかと思うと、ため息しか出て来なかった。
「伝令。」
五十名ほどの部下を率いてきたが、増援が必要かもしれない。
多少の犠牲を払ってでも、早期に叩き潰さねば、ダンジョンは成長すると厄介な存在になる。
特に、スタンピードと呼ばれる魔物の異常発生は、王国の記録に残っているだけでも、国が傾く大災害を齎す。
「伝令、リックス=ブラウン。参りました。」
「王都の隊長へ、魔物による損害多数。冒険者の補充50名と騎士団から更なる増援求む、と伝えてくれ。お前はそのまま隊長の指示に従え。三名、同行者を選ぶ事を許す。」
「はっ。魔物による損害多数。冒険者の補充五十名と騎士団から更なる増援求む、と隊長に伝え、私は隊長の指揮下に入ります。」
「よし、行け。」
まだ17歳と若い、貴族の四男だ。
隊の中では、中々の有望株で、幾らかの経験を積めば、十人隊長に昇進するだろう。
此処で、死なせるには惜しい人材だ。
「増援が来るまで、やれる事はやらねばな。」
城塞都市には一千名の兵がいる。
これは領主が養っている兵士で、国王直属たる騎士団とは指揮系統が違う。
部隊副長に過ぎない自分の要請など、一蹴されるだけだろう。
わかっていても、歯痒い思いは抑えられない。
王都から増援が来るにしても、十日はかかるだろう。
それまでに、せめてダンジョンぐらいは発見したかった。
「行方不明の組が探索していた位置を知りたい。地図を持ってきてくれるか。」
従者に言うと、すぐに返事をして駆け出していった。