表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

吸血鬼

兎にも角にも服を着せる事だった。

ロザリンドは、見た目だけならばただの人だ。

スタイルは素晴らしいものがあるので、目の毒だった。

前世から、それ程性欲がある方ではなかったが、一応俺も男である。


まぁ、雰囲気も何もなく、むしろ今の今まで苦悶の悲鳴をあげていた二人だ。

全く興奮しないが。


「魔王様。少し外に出てもよろしいでしょうか。」


おっと。

何だこの子。露出狂なのか。


「何をするにも、血が足りません。獣でも良いので、狩りたいのです。」


あぁ、そうか。そりゃそうよね。


「構わない。俺は暫く休む。どうも身体が怠い。」


ダンジョンにおける権能を使うには魂が必要だ。

これは、人は勿論、獣でも虫でも何でも良い。

だが、特に濃い魂を持つのは人なので、積極的に狩らねばならない。

一応、俺の魔力でもそれなりの事は出来るのだが、飽くまで代替の動力で、燃費はすこぶる悪い。


「では、行って参ります。何かあれば、念話を飛ばしますので。」


言って彼女は身体を変化させた。

数え切れない程の蝙蝠の群れとなって、迷宮を飛び立つ。


また、一人になってしまった。

この怠さが抜けたら、俺も少し外に出ようか。

多少の事は、そこらの石ころにでも触れればわかるのだが、やはり自分の目でも見てみたい。

徒然と思いを馳せながら、俺は地面に横になった。


そういや、俺もマッパだな。


まぁ、いいけど。




数多の蝙蝠に変化した身体は、人の形をとってる時とは比べ物にならないほどの情報を齎す。

ロザリンドは飢えていた。

血の通う生物なら、何でもいい。

洞穴から飛び立ち、それはすぐに見つけた。

猪だろうか。

魂から流れてくる記憶にある猪よりも、いくらか大きく、牙なども立派なものだ。

とりあえずは、これで良い。


蝙蝠の群れが、猪に纏わりついた。

首を、目を、腹を、肛門を。

柔らかな部分に集中して、肉を食い破る。

ものの数十秒で、猪は轢き殺されたイタチのようになって生き絶えた。


不味い。


わかってはいたが、やはり酷い味だった。

やはり、人間の血液でなければ。


ロザリンドは再び辺りを飛び回った。

あたりは闇だ。

空を見れば満点の星が煌めいているが、月はなかった。山の向こうにあるのか、新月なのかもしれない。


洞穴の周りは鬱蒼とした林で、人の手は入ってないように見えた。

闇に聳える山脈は、なんとも言えぬ頼もしさがある。

人が住むのならば、山の中よりも、林の先だろう。

とにかく、一人でもいい。人間を狩りたい。

途中、獣とも魔物ともつかない者共を糧にしながら、ひたすら人を探した。

血液の量だけは蓄えられた。

当面は問題などないだろうが、やはり本能には逆らい難い。


見つけた。


開けた丘の上にある十戸ほどの村だ。

小さな畑、積み上げられた材木、開拓村だろう。


思わず、人の形に戻っていた。

蝙蝠の身体でも、味覚はあるが、より鋭いのは人の身体だ。

口元に笑みが浮かぶ。


「な、何だ。止まれ!」


見張りの男。二人いる。

粗末な革鎧と、槍で武装している。

驚いた様子だが、槍を向けてくる事はなかった。


「こんばんは。」


あぁ、堪え切れない。

笑みが深くなっていくのがわかる。

涎が垂れていく。

加速する為に、思い切り地面を蹴った。




あれは、何だ。

真っ裸の女だった。

黒髪の、豊かな体付き。信じられない程の美人だった。

人に似た種族や魔物は数知れずいるが、人だとしか思えないような魔物は聞いた事がない。

夜の闇から、ゆっくりと村に近づいてきた女は、異様な笑みを浮かべたかと思うと、次の瞬間には目の前にいた。

俺と見張りに立っていたトムの首筋に食らいつき、恍惚としていたあれは、間違いなく人ではない。


悲鳴をあげようとして、しかし萎びていく身体から、意味のない音を漏らしたトムを見て、俺は即座に背を向けて駆け出した。

この村は放棄するしかないだろう。

十数人の開拓村だが、魔物と戦えるのはトムと俺を含めても七人しかいない。

たった七人でどうこうできる魔物ではない事は、いやでも理解できる。


「起きろ!!化け物だ!!」


「どうした。何があった。」


村の入り口から一番近い家に飛び込み、声を張り上げると、すぐにアルバートが出てきた。

この家には二人、戦える男が詰めることになっている。


「トムがやられた。女の化け物だ。」


トムと俺は元冒険者だ。

未開の土地を探検し、時には迷宮に潜る事もある。

職業柄、戦う術はあるにはあるが、本業という訳じゃない。

荒事は、傭兵や騎士の仕事だ。

アルバートは、元傭兵だ。


「女の化け物?」


「首を噛まれたトムが、干からびちまった。」


「まさか。」


「とにかく、俺はみんなを叩き起こしてくる。」


家を飛び出し、村の中を駆け回った。

すぐにでも逃げるべきだ。

寝ている連中を叩き起こし、早く逃げろと伝えて次の家へ。


背後から聞こえる悲鳴。

アルバートは何をしてるのか。

早く、俺も逃げなければ。


振り向く。


女の顔が、そこにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ