始まりの魔物
俺の最初の魔物。
俺の魂の一部を共有する、特別な魔物になるだろう。
だが、とりあえずエグい。
俺もこんな感じだったんだろうか。
光が収まったら魔物が現れる、何てことはなく、絶賛変化中だった。
結晶の内側から肉が盛り上がり、内臓が、眼球が、骨が、出来上がりながら、およそ生物が発してはならない音と、この世の全ての苦痛を内包したような悲鳴が響き渡る。
まぁ、今の俺にはただただ興味深い、という感想しか抱かないのだけども、前世の俺ならその場で吐いて一生トラウマになるような光景だ。
「俺の時もこんな感じだったんかね。」
変化中の魔物に触れてみる。
未だ、肉体が出来つつある段階なので、魂の定着すら始まっていない。
様々な可能性を孕んだ、まさしく神秘の物体だ。
そして、どうやら俺は、何かに触れると、触れたものについてある程度の理解ができるらしい。
意識して、地面に触れると、ここが大きな山脈の麓にある、小さな洞穴である事がわかる。
俺の魔力に満たされ、既にダンジョンとして変質しているが、見た目は何も変わっていない。
このダンジョンの中ならば、俺に灯は必要無さそうだ。
そして、自分の使命も理解した。
広く、深く。
多くを殺し、多くを生み出し。
ひたすら、迷宮を広げていく。
「広げる、か。」
辺りを見渡す。
灯ひとつない、剥き出しの岩と土の壁。
外につながる、人一人がやっと通れるかという程度の小さな穴。
魔力を使えば、多少は弄れそうだ。
だが、大きく何かをするには、魂が必要だ。
「こんな感じか?」
入り口への穴に、魔力を送る。
岩を、土を、外側に圧縮して通路のようなものにする。
大人ならば、苦もなく通れるだろう。
真っ直ぐという訳ではなく、外は見えない。
そうこうしている内に、魔物の魂が定着しそうだった。
肉体の変質は終わり、悲鳴だけが相変わらず、続いている。
女、だった。
白い肌、豊かな乳房と尻。
髪は真っ黒で、腰の辺りまでありそうだ。
仰向けに転がり、大きく開かれた口からは、甲高い悲鳴。
一糸も纏わぬその姿は、ただただ美しい。
そして、俺の時と同様、それは唐突に終わる。
女は荒い息をしながら、俺を見た。
紅い瞳。
非常に整った顔立ちだが、どこか前世の俺の面影がある。
一欠片とは言え、俺の魂を核にした事が、影響しているのだろう。
女の髪に、触れる。
種族、ヴァンパイア。
尋常ではない魔力と膂力を持ち、霧に変化し、自らも人や獣を眷属として、グループを形成する魔物だ。
俺の最初の配下。
「立て。」
言うと、女はゆっくりと立ち上がる。
まだ、少し息が荒い。
が、余韻のようなものだろう。
「お前の名は、ロザリンド。俺の最初の配下だ。」
言うと、俺のなけなしの魔力が更に吸い取られた。
魔物の名付けは、特別な意味を持つ。
ロザリンドは、微笑み、ゆっくりと頷いた。