死霊の軍勢と蛙の王
次は、ミノタウロスと騎士達が激闘を繰り広げた大部屋だ。
ここは現在、スケルトンの軍勢が駐屯している。
ここに至るまでの部屋も幾つか追加されているが、迷路としての意味合いが強い。
一応、グールやスケルトンなどが徘徊しているが、騎士や傭兵には歯が立たない。
彼らが運びきれなかった怪我人に止めを刺したり、残していった骸の装備品を剥ぎ取ったりするのが主な役割だ。
この部屋の核をなす魔物は二体。
スケルトンジェネラルとリッチーである。
「これは魔王様、ロザリンド嬢、このようなむさ苦しい所へ、ようこそ。」
整然と居並び、剣を天井に向かって掲げるスケルトン達の中央に、その二体はいた。
スケルトンジェネラルは、スケルトンをそのまま強くして指揮能力や補助魔術を持たせた魔物なので、声帯がない。
喋るのは専らリッチーで、こいつは攻撃魔術を担当する。
「ご機嫌よう。」
ロザリンドが優雅に礼を返す。
俺は軽く頷いただけだ。
こいつらは、侵入者がいない時はひたすら訓練に励んでいる。
恐れも疲れも知らない、不死の軍勢。それでも、同数の騎士団には劣るだろう。
ただ、スケルトンやリッチーなどのアンデットは、一度創ってしまえば、再生は容易い。
最初のコストこそ、実力相応なのだが、素体さえ残っていれば、骨や肉となどの身体の材料と、魔力だけで再生してしまう。
ミノタウロスとは別の意味で、タフさが売りの魔物だ。
しばらく、ここ最近の騎士の動きについて話し合い、更に奥へと進む。
此処からは、しばらく小部屋が続いている。
次の大部屋までの部屋は、全て繋がっていて、何処からでも奇襲できる作りになっていた。
今は停止させているが、落し穴や毒矢、火炎放射に落石、果ては毒ガスなど、ありとあらゆる罠を仕込んである。
ロザリンドの狼は、普段はこの辺りをうろついている。
「おや、魔王様、お散歩ですかな?」
足元から声がかかる。
視線をやると、頭に王冠を乗せた、人抱えはある蛙がそこにいた。
「ご機嫌よう、ギムレット。」
「おや、ロザリンド嬢も。これは失礼致しました。」
この蛙、こう見えてロザリンドに続く三番目のネームドモンスターである。
種族はまんま、トードキング。
治療魔術を得意とするヒーラーで、水と妨害魔術もかなり使う。
流石にロザリンド程ではないが、先程のスケルトン達では相手にならない実力を備えている。
普段は最奥の部屋近くにある、地底湖に住んでいて、番の蛙と無数のおたまじゃくしを育てている筈だ。
「こんな所で会うとはな。」
「小人の怪我を診て参った帰りでございます。何分、この成りですのでうちに帰るまで後一日はかかりますな。」
「私の狼に送らせましょうか?」
「ありがとう。ロザリンド嬢。しかし、奴らは儂を乗せると自慢の毛皮がベタつくと言って、嫌がりますでな。女房にも言ってありますので、このまま自分の足で帰りますわい。」
そう。この蛙、言葉を喋れない魔物達とも、意思を交わす能力を持っているのだ。
この女房と言うのも、何処からか入り込んだ野生の魔物の蛙である。
もちろん、俺はこいつの女房が何を言ってるのか全くわからないし、何なら王冠を乗せたら見分けもつかない。
「なるほど。よく言い聞かせておきます。」
「何、儂は気にしておりませんぞ。自分がどう見えるかなど、とうに知っておりますれば。」
「ギムレットほどの者を、疎かにして良い理由になりません。私からきつく言い聞かせておきます。」
ちなみにこの二人、初対面では犬猿の仲で、目を離せば殺し合いでもしかねない程だったのだが、ある日を境にピタリと収まった。
今では互いに尊敬し合う良き同僚といった所か。
その後、ギムレットと二人でロザリンドを宥め、怪我をしたと言う小人の元へ向かった。
種族:トードキング
沼地の魔物を支配する蛙型の魔物。
治療魔術の他に水の魔術や拘束・精神妨害などの魔術を自在に操る。
その見た目に反して、純粋な膂力にも優れ、並の冒険者程度ならば体当たりで即死する。
その反面、表皮は非常に脆く、特に遠距離からの弓矢には生身で対抗できない。
卵生。




