表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/26

魔性の血

入り口は変わらずスライムの巣だった。

時折蠢いてはいるが、騎士を敵と認識していないのか、飛び掛かってくる事はない。


問題は、雨のような矢だった。

先頭にいた二人が針鼠のようになって倒れる。

他の者は、即座に盾を頭上に構えた。


「隊伍を乱すな。進め。」


傭兵の報告には無かった。罠の類は、最初の部屋から、唯一奥へと繋がる通路にある毒矢だけの筈だ。

この僅かな間にも、変わり続けている、いや、成長し続けているのか。


スライムの巣を抜けると、狭い空間があった。

何の変哲もない、洞穴である。

ただ、武装した騎士二百名が留まるほどの広さはない。


「ガーランド、前進する。毒矢に注意して進むんだ。」


隊長からの指示が飛ぶ。

手負いの者は置いていくしかないだろう。盾の隙間から、運悪く肘や足などに矢が突き立った者が、何人かいた。


「行くぞ。前列は灯火と盾を前に出せ。」


言うと、前列の騎士が詠唱して辺りに光が満ちた。

魔力の消費は少なく、夜襲の備えとして騎士となる者なら誰でも使える初歩魔術である。


二つ目の部屋にも、特に何事もなく進んだ。

通路が二つある。一つはミノタウロスの大部屋へ続いている。

戦慄するほどの、魔力と闘志が漏れ出ていた。


もう一つは未踏である。

特に禍々しい魔力などは感じられない。ただ、酷い死臭がする。

スケルトンは、この先から湧き出てきたのだろう。


「ガーランド、私は先にこちらの伏勢を確認してくる。」


「承知。隊長が追いつく頃には、片付けておきますよ。」


言うと、若き傑物はくすりと笑った。

そして、その腰にあった角笛を手渡される。

王国騎士団各隊長に下賜される魔法の角笛。

第六隊が預かるは『逆風の角笛』

その音色は、聴く者の恐怖を闘志に変え、精神に作用する魔術を打ち消すと言う、


「これを預ける。死ぬなよ。ガーランド。」


「隊長も、お気をつけて。」


角笛を、腰のベルトにぶら下げ、すぐに身を返した。

この部屋も決して広くはない。

後続を詰まらせないよう、先へ進むしか無かった。




アルファードは、自らの剣技と魔術の才能に、絶対の自信を持っていた。

相性というものは存在するが、真の強者はそれを超越すると言う。

この腰にある細剣で、岩山をも打ち砕く。

常人には到底至れないその境地が、ぼんやりとだが見えつつあった。


十五の頃に剣技の師を打ち倒し、家を飛び出した。

己の力がどこまで通用するのか、試したい一心でダンジョン攻略に身を投じた。


挫折も、幾度となく味わった。


力及ばず、死を覚悟した事も、一度や二度ではない。


ダンジョンマスターであったラミアを討伐し、攻略を成し遂げるまで、半年もかかったのだ。

その間、多くの戦友が散っていった。


その経験が、己の武の才能が、人としての本能が語っていた。


私の旅路は此処で終わるだろう。




「ご機嫌よう。騎士の皆様方。」


ロザリンドは、白骨化した数百の躯の上に腰掛けていた。

騎士が二手に別れた時には、その片方を撃滅し、ミノタウロスと闘う騎士を挟撃する。

それが、ロザリンドが受けた指令だった。


目の前にいるのは十一名の騎士。


そのうちの一人、騎士どもに隊長と呼ばれている筆頭騎士らしき男。

その男のみに、視線を注いでいた。

その他は、気にするにも値しない塵屑でしかない。


「ファールーン王国騎士団第六隊長、アルファード=ドゴールと申します。お名前を伺っても?」


夜会で貴婦人に名乗るような口調。

しかし、その手は腰の細剣を抜き放ち、静かに構えを取った。

優美で、一分の隙もない。美しくすらある。


「我が至高なる主より賜りし名、人間如きに名乗るのは、主を穢すも同じ事。どうか、ご容赦を。」


血が、滾る。

端正な顔立ち、美しい銀髪、細剣に施された魔力回路にすら、意匠を凝らしている。

戦いに美学を求めるのは強者の証。


これから訪れる時間に、ロザリンドはときめきにも似た想いを抱いた。

早く、始めたい。

しかし、始まりは終わりへの一歩でもある。


「それは、残念です。では、せめてひと時、私と踊って頂けますか?」


あぁ、良い。この男は、とても良い。

今すぐ、コロシテシマイタイ。


「もちろん。」


ロザリンドは、魔力を解き放った。

蓄積した血液が、津波の如くアルファードに襲い掛かる。


「立てる者は退け!ガーランドに即座に退却せよと伝えろ!」


端正な顔に似合わぬ声で叫んだアルファードが、光の大盾を顕現させた。

質量を伴った光の魔術だろう。無詠唱でやってのけるのは、相当な使い手だ。


盾ごと呑み込まんとした、血の津波はしかし、盾に触れた瞬間に蒸発していく。

ただの光る盾ではない。相当な高熱を帯びている。


すぐさま血を、無数の鞭と変化させ、盾を避けて叩きつける。

百を遥かに越える連撃を、アルファードはその手にある細剣一本で叩き落としてみせる。

舞う様に美しく、一瞬たりともロザリンドへの警戒も怠らない。

追撃の隙がなかった。


「世に遍く光よ。これに集いて我が敵を貫け!シャイン・レイ!」


その連撃の最中、血の鞭の隙間から放たれた光線が、ロザリンドの喉元を貫く。

次の瞬間には、額を撃ち抜かれた。

単一詠唱による多重発動。

避わす間もない。

発動した瞬間には、光の筋がロザリンドを貫いている。


「あぁ、素晴らしい。」


撃ち抜かれたロザリンドは、全身を快感に支配されていた。

額を撃ち抜かれ、天井を向いた紅い瞳に、光が灯る。

既に、傷の再生が始まっている。

この身の血液が尽きぬ限り、それは永久に続くだろう。

この男が朽ち果てるが先か、自分の血が尽きるが先か。


「不死身か。化け物め。」


微かに肩で息をしているアルファードが、毒づいた。


「まだまだ、踊りましょう。」


そう。


叶う事なら、永遠に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ