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猛る死兵

ついに第六部隊長が到着した。

王国騎士、百名。傭兵、二百名。冒険者百名の計四百名の増援である。

真紅の地に、銀糸で編まれた六本の剣に囲まれる鷹。

第六部隊旗が野営地に掲げられた。


王国騎士団、第六部隊長アルファード=ドゴール。

若干二十一歳で隊長に昇り詰めた傑物である。

十五歳で実家を飛び出し、『枯れ池の沼地』攻略に参戦。

ダンジョンマスターである、ラミアを討ち取る殊勲を持って騎士団に迎えられた。

『その剣術、比類なし。その白き魔術、比類なし。』と讃えられ、『銀の聖騎士』などと巷で呼ばれている。



その傑物に、ガーランドは指揮所と定めた天幕で、現状の報告を済ませた所だった。

若く端正な顔に、曇りがでる。


「ミノタウロスか。これは一筋縄ではいかないね。」


「多くの犠牲が出るのは仕方ありますまい。隊長達には、覚悟をさせております。」


「私の剣は、鋭いが細い。前衛はガーランドに頼る事になる。」


アルファードは細剣の使い手だ。並々ならぬ技量と魔術を併用した剣技は、決してガーランドに劣るものではないが、巨躯の魔物には分が悪い。

ガーランドは背丈ほどもある大剣を得物としている。

確かに、ガーランドの方が前に出るべきだろう。

もとより、望む所だった。


「入り口のスライムの他は、魔物の情報がありません。大部屋にはミノタウロス。しかし、他の部屋にも魔物が潜んでいる事は充分に考えられます。」


「通路を考えれば、人より大きな魔物がいる事は考えにくい。他の魔物の抑えは、任せてくれ。それに、傭兵達に瀬踏みをしてもらう。」


「生きて帰れる保証は出来ませんぞ。大部屋に到達するまでに、全滅する事もあり得ます。」


「最悪ばかりを想定しても、仕方ないさ。」


「それは、そうなのですが。」


正直なところ、死に兵のように彼らを扱うのは気が引けた。

生き残りさえすれば、莫大な恩賞を約束されている。

彼らも納得しているとは言え、気持ちの良いものでらない。


「私だって、やりたくはないさ。だが、必要な犠牲だ。百が殺されるうちに百が逃げる。殺される百を二百にするか、五十にするかは、彼ら次第だ。」


「わかりました。もう言いますまい。」


ダンジョンのすぐ傍まで、林は切り拓いた。

明日にでも攻勢をかける事は出来る。

野営地からダンジョンまで、徒歩でも半日かからない。

あとは隊長の心一つだった。




侵入者を知覚した。

ものすごい勢いでダンジョン内に突入してくる。

今までの逃げ込んできていた盗賊達とは、始めの勢いからして違った。

総勢、およそ二百。


「来たか。」


ロザリンドが跪き、指示を待っている。

侵入者は十名ほどを待機させ、最初の部屋から通路に突入した。

毒矢の罠や、落とし穴などを仕掛け置いたが、掛かったのは数人で、すぐに入り口まで運ばれていく。

予め、役割なども決まっているのだろう。

動きにまるで無駄がなかった。


二つ目の部屋に入った。

ここには盗賊どもの死体を素体にしたグールを配置した。

力はあるが、身体は腐って脆い。

ごくごく薄くした魂しか使っていないので、数ほどには魂の消費はない。


押し合っていたのは、ほんの少しの間だけだった。

敵の損害は、出会い頭に咬み殺した二名のみ。

他に十名ほど怪我人が出たようだが、これも入り口まで運ばれていく。

心憎い連携だった。


「魔王様、出撃の許可を。」


ロザリンドが、焦れたように言った。

確かに、ロザリンドが出れば片はつくだろう。

それでは意味がないのだ。


「お前はここで待て。」


それだけ言って、ミノタウロスの大部屋に続く罠を停止させた。

手の内を全て晒すつもりはない。

これは、おそらく瀬踏みだろう。




「ンモ゛オオオオオオォォォォォ!!!」


「勝負にならねえ!!野郎ども、退却だ!」


大部屋に展開した強者どもが、一斉に退く。

巨人の咆哮と、蹴散らされる兵の悲鳴。

血飛沫が舞う戦場は、幾度も経験してきたが、これほど圧倒的な力を目にするのは初めてだ。

前列に全身を隠す大楯を並べ、大弩で銛を何本も撃ち込んだが、ミノタウロスは意に介した様子もなく、大楯を蹴散らしている。

腕の一振りで五、六人は吹っ飛ぶのだ。

すぐに大楯が並び直し、何とか前線を維持しようとするが、勝てる気がしない。


騎士どもの隊長からも、無理はしなくて良いと言質は取ってある。


「団長!吹っ飛んだやつらはどうするんだ!」


顔を血に濡らした若手が叫ぶ。

この状況で他人の心配をする根性は見上げたものだが、やつらはもう生きてはいない。


「諦めろ!てめえが生き残るほうが大事だ!」


「ちくしょうが!」


また、大楯の兵が吹き飛ぶ。

まるで人ではない何かのようだ。


噂には聞いた事があったが、世界は広い。

これほどの魔物を、知らずに生きてきた自分は幸運だったのだ。


「スケルトンだ!挟まれたぞ!」


退路となる通路から、叫び声。

ここに来て伏兵とは、やってくれる。


「盾隊、おめえら死ねや!」


「わかってらぁ!そう長くは持たねえぞ!」


「すまねえ。恩に着る!」


「団長らしくもねえ。おめら、さっさと行け!」


スケルトンはそう手強い魔物ではない。

それでも、蹴散らすまでにニ、三十の兵が、ミノタウロスの餌食なるだろう。

その命を、即座に諦めた。

傭兵とは、そう言うものだ。

金の為に、何処へでも行き、誰でも殺すし、死ぬ時は笑って死ぬ。

そして、仲間は決して裏切らない。


「野郎ども!此処が踏ん張りどころだ!血路を開け!生きて帰るぞ!」


腹の底から、声を張り上げる。

おう、と地の底から湧き出たような返事が返ってくる。

通路の兵を押し退け、先頭に躍り出る。


「『十手』のバルバトス=ハウゲンのお帰りだ!骨っ子ども!かかってこいや!」



種族:スケルトン


生物の骨に魔力と魂が宿った魔物。様々な要因で突如として発生する。

生者への妬みを抱き、生者と見れば攻撃する。

生前の技量、能力、魔術などは一切使えないが、稀に発生後に習得する個体もいる。

また、ダンジョン産のスケルトンは、ダンジョンマスターの意思に従う。

生殖活動は行わない。

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