表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/26

決戦の予兆

ロザリンドが気になる報告をしてきた。

眷属にした狼が、全身鎧の男達に狩られていると言うのだ。

ロザリンドの狼は並の人間の首ぐらいなら、たやすく食い千切るぐらいの力はある。

それを狩れるというなら、かなりの実力者達だ。


もう一つ気になる事がある。

ここのところ、毎日のように侵入者がやってくる。

だいたいが五人から十人、多い時は三十人ほどの団体だ。

時には、日に二度、三度とやってくる事もある。

いかにも盗賊といった風情の男達で、どの団体も侵入する前から負傷している者がいて、こいつらも全身鎧の男達に追われていた事は、記憶を覗いたのでわかっていた。


人間は、国を作る。

時に、およそ個人の集まりでは成し得ない力を、国は生み出す力を持っている。

何か、予感のようなものがあった。


「近々、此処までくるかも知れんな。」


「まともな戦力が私だけでは、少し心許ない気がしますが。」


「いくらか、戦力を追加しよう。盗賊どもの魂がそれなりにある。このまま侵入者が途切れなければ、部屋もかなり作れる筈だ。」


「眷属を呼び込んでもよろしいでしょうか?多少なりとも手数にはなる筈。」


「良いぞ。外にいる眷属には、全身鎧とやり合わせるな。束になれば何とかなるかもしれんが。」


「十人一組で動いている様です。林の中では、決して一人になりません。」


「盗賊どもとは一味違うな。ロザリンド、お前も一対一なら負ける事など有り得ないだろうが、油断するなよ。」


「心得ております。」


自分に言い聞かせてもいた。

生まれ変わった俺は、確かに圧倒的な力がある。

魂を得る毎に、それは徐々に強くなっている自覚もある。

だが、人間との闘いはそうではない。


俺は知っている。

魔力も何もない人間が、発見の末に何を産み出すのかを。

たった一つの爆発で、十万もの命を奪い、数十年もすればそれを遥かに凌駕するものを産み出す。


それが、人の怖さだ。


あんなものを、このダンジョンに放り込まれたら、俺もロザリンドも成す術なく焼き爛れて死ぬだろう。

或いは、そういった魔術が既にあるかも知れないのだ。

それが現実的かは別として、常に頭に入れておくべきだった。


「備えはするが、万全の備えなんかない。お前も気がついた事があれば言ってくれ。」


ロザリンドとは、魂の一部を共有している。

漠然とした不安が伝わってきた。

俺は前世の記憶を引き継いでいるが、彼女にはないのだ。

傷み一つない美しい黒髪に、俺の手が触れる。


ロザリンドはただ微笑みを返すだけだった。




王都からの増援五十名が到着した。

隊長が更に百名を率いて進軍していると言う。

途中の町で、傭兵や冒険者を募っているらしい。


新しいダンジョン発見の報は、既に国王の名で、王国内はもちろん、近隣諸国にも布告の使者が飛んでいる。

林を切り拓き始めてから、狼に襲われる事はピタリと無くなった。

見かけても逃げていくらしい。

やはり、狼を操っている者がいる。


「人夫の護衛を、増援の隊と入れ替える。俺達は林の掃除に本腰を入れるぞ。」


増援を率いてきた十人隊長達も含めて軍議を開いた。

思ったよりも、林に潜んでいる賊徒が多い。

捕らえた賊徒によれば、行商人を狙った狩場になっていたようだ。

これほどまでに多ければ、商人ギルドから陳情が上がっていてもおかしくないのだが、そんな報告は受けていなかった。


騎士団と見て、襲ってくる賊徒などいるはずも無いが、騎士の誇りが放置する事を許さない。

ダンジョン攻略を第一とするべきなのは、自分も含めて皆がわかっている事だが、十人隊長達も、何も言って来なかった。

騎士団の半数は、平民出身である。

血反吐を吐く様な訓練の日々を耐え抜いたのは、民草の為、と言う者も多い。


「領主からの増援はないのですか?」


「ない。使えんモノだと思っておけ。」


実際には、二百ほどは荷駄隊となって騎士団の補給を受け持っている。

元々は、林から湧き出る魔物を押し留める部隊だったようだ。

残りは城塞都市の治安維持と守備に必要だった。


無いとは思うが、万が一魔物が迂回して城塞都市を陥落させれば、騎士団は孤立する。

増援を出せとは言い難かった。


「明日からは、俺も林に入る。」


言うと、隊長達は表情を引き締め、頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ