裸卒業。
二十一名分の魂が手に入った。
ちまちまと魂を集めていた俺にとって、中々大きな収入である。
薄汚れた盗賊どもの魂とは言え、これだけまとまっていると、部屋の三つか四つは作れそうだ。
何か、新しい魔物を造っても良い。
ロックゴーレムぐらいなら何とか作れそうだ。核さえ無事なら、このダンジョンであればいくらでも修繕できる。
「ただいま戻りました。魔王様。」
「あぁ、おかえり。ロザリンド。」
「侵入者ですか。」
「あぁ、初の大入りだな。二十人ぐらい。」
「…片付けておきます。」
戻ってきたロザリンドは、盗賊どもの骸を見て、少し残念そうだった。
ヴァンパイアは性として、結構好戦的だしな。
普段はそうでもないが、やり始めると歯止めが効かない俺とは違い、自分から求めていくタイプだ。
「さて、どうするか。」
部屋を増やしてもいいし、魔物を生み出しても良い。
まだ初期の初期ではあるので、何をやっても良いのだが、優先順位はきちんと付けておきたい。
「あぁ、そういや、俺まだ裸なんだったか。」
生まれ変わってからというもの、性欲、というのが一切ないのでつい忘れがちになっていた。
侵入者もだいたい第一声がそれだしな。
まぁ、どうせすぐ死ぬので、気にする事もないのだが。
いや、気にしておこう。流石に真っ裸のまま、いつまでも過ごすと決心するのには違和感がある。
人としての記憶がそうさせているのかもしれない。
さっそく、魂を消費して、服を作る。
すぐに破れてしまうと面倒なので、俺の魔力を消費して自動修復するタイプだ。
強度を引き上げたり、特殊な機能をつけたりすると魂の消費も跳ね上がるが、自動修復以外はちょっと丈夫な服という程度なので、六人分の魂で済んだ。
残りの魂で、部屋を二つ、二番目の部屋から分岐する形で作り、残りで細々とした罠を設置して、盗賊どもの魂は使い切った。
新しい魔物は、また後日で良いだろう。
ついに、ダンジョンを発見した。
山脈の麓にある洞穴で、先日掃討した盗賊が逃げ込むのを騎士の一人が発見したのだ。
禍々しい魔力が立ち昇っており、内部の様子はとても覗けたものではなかったらしい。
無論、逃げ込んだ盗賊は一人も出て来なかった。
悲鳴が聞こえたと言うので、全滅したのだろう。
「なんとしても、育つ前に攻略せねばならん。増援を急ぐよう、伝令を飛ばせ。」
報告を受けてすぐ、十人隊長を招集し、軍議を開いた。
ここのところ、狼の魔物がよく発見されている。
死者こそ出ていないが、数名の負傷者は出ていた。
十人隊で四、五十の賊ならば、たやすく粉砕する精鋭が、さして特殊な能力を持たない狼に負傷させられているのだ。
見た目は、普通の狼よりも一回り大きいだけらしいが、かなり素早く、顎の力が段違いらしい。
ガーランドはまだ遭遇していないが、牙に貫かれた手甲は目にした。
そのような魔物が生息しているなど、聞いた事もない。
元々いた種ではないのは確かだ。
王国騎士ですら手こずる魔物がいる地域に、開拓団など送り込む事はない。
確たる根拠はないが、これもダンジョンの影響だろう。
まだ発生から一月も経たぬうちに、外にまで影響を及ぼしているとすれば、かなり強力な魔王が産まれた可能性が高い。
「失敗すれば未曾有の災害になるやも知れん。増援が到着するまで、万全を期す。」
まずは、道をつける事だ。
敵は既にダンジョンの外に出てきている。
まとまった人数とは言え、何が起こるかわからない林の中を進軍するのは避けたい。
「周辺の村から人夫を徴発しろ。林を切り拓く。常時二隊で護衛し、三隊で周辺を警戒せよ。」
「作付けの時期ですが、よろしいのでしょうか。」
「構わん。多少の補填は領主にやらせよう。」
ダンジョンを発見したとなれば、かなりのところまでは許される。
数年前、国王直轄領で発生したダンジョン『枯れ池の沼地』攻略の際、非協力的だったと言う理由で、数人の代官の首が飛んでいる。
人が全く住んでおらず、森林奥深くにあると言う立地と、さしたる規模でなかった事もあるが、複数の代官が隠蔽しており、発生から発見まで一年ほどかかった。
攻略の際には大きな犠牲が出ており、雇った傭兵は半数が戻らず、騎士団も十数名の死者を出した。
あと数日もすれば、増援は到着する筈だ。
まずは林の掃除から始めねばならない。




