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引退魔王、わんこ少女を拾う。  作者: リィズ・ブランディシュカ
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01 引退魔王、わんこ少女を拾う。




 俺の身分は貴族だから、ちょっとしたものならすぐに手に入る。


 奴隷だってそうだ。


 だが、人間を買うとなると、お金がかかるのが悩みだ。


 今すぐに、先日屋敷で辞めた使用人の穴埋めをしなければならないというのに。







 

 我が家には奴隷がいる。


 ちょっとした仕事を手伝わせるために、人手がいると思ったから、調達した。いや拾ったのだ。


 でも、


「ごっしゅじーん。あっそびましょー」


 そいつがなんか、なれなれしい。


 一体何でこうなってしまったんだっけ。


 俺は遠い目をしながら、過去に思いをはせた。








 俺はある日、奴隷の少女を拾った。

 

 善人がするような行動ではない。


 自分のための行動だ。


 おそらくその少女は、奴隷商人から逃げてきたのだろう。

 

 けれど、途中で力尽きたらしく、未知の端っこで行き倒れていた。


 ボロボロで、息も絶え絶えと言った感じで。


 俺は、そんな少女に手を差し伸べながらこういった。


「俺のために働け、そしたら最低限の生活は保障してやる」


 このまま一人で行動していても、死ぬだけだ。

 それが分かっていたのだろう。


 行き倒れていたその少女は、俺の手をとった。


 つかんだ手を引っ張って立たせた少女が、表情を明るくした様は、まるで飼い主に出会えた迷い犬のようだった。






 それから数か月。


「ご主人ご主人ごっしゅじーん」


 犬ミミを生やしてそうな(元)捨て奴隷が、じゃれる子犬のような表情で、こちらにとびかかってきた。


 俺はそれをよける。


 だが、わんこ少女元奴隷、キアはめげない。


 嬉しそうな様子でこちらを見つめる。


「今日は、何して遊んでくれるんですかっですかっ」


 俺は現状を確認して、ため息をついた。


 しつけ方、いや教育の仕方を間違えた。


 何しろ、ただで奴隷が手に入ると分かって、あの時は少々はしゃいでいたのだ。


 一般的な奴隷の扱い方も調べずに、適当に飼っていたらこのざまだ。


 仕事を邪魔してくるし、遠慮はほとんどない。


 妙になついてしまった子犬系元奴隷少女は、俺の反応を待ちながら、「早く早く」と急かして外に連れ出そうとする。


 その手にはボール。


 人間がする遊びではないと思うが、ボールを追いかけるのが好きらしい。


 俺が投げると、輝く笑顔を振りまきながら、ボールを追いかけていく。


 俺は、このボール遊びに喜ぶ奴隷の顔を見つめてみる。


 血色が良くてつやつやしている。


 体は、拾った頃よりもふっくらしていた。


 大きく輝く瞳を覗き込んでみる。


 とても活力に満ちている。


 それも当然だ。


 主人である俺と同じ食べ物を与え。欲しいと思った物を買わせるめに、お小遣いもあげているのだから。


 たまにこちらに訪ねてくる友人なんかは、「それってもう奴隷じゃなくて娘じゃね?」と言ってくる。


 俺もそう思ってしまった。


「はぁ」とため息をつく俺は、犬ミミ系奴隷少女に引っ張られながら庭に、向かって歩いていった。


 ま、いいか。


 別に悪い気はしないし。







 しばらくボールを投げて、遊んでやったら満足したようだ。


 庭で眠り始めた。


 まるで野生児だ。


 奴隷になる前の少女がどんな生活をしていたのか、少し興味が湧いた。


 だが、それだけだ。


 俺は、そいつを蹴って起こした。


「おい、仕事の時間だぞ」

「むにゅあ、あとごふん」


 俺は容赦なく腹を蹴った。


「きゃん。ひどいですご主人っ。人の腹を蹴るなんて」


 起きたキアが、涙目でこちらをにらみつけてくる。


 手加減はした。


「仕事だ。そのために拾ってやったんだから、ちゃんと働け。今日は、倉庫の整理を手伝うんだろう」

「ううっ、そうでした。分かりました。がんばりますっ。そのかわり」


 その先は予想できる。


「分かった。きちんと仕事をしたらまた遊んでやる。それで良いな」

「ありがとうございますっ、ご主人っ!」


 きちんと働く奴には褒美をやろう。


 キアは思ったより力があるので、力仕事では重宝しているのだ。


 役に立たなかったら、また捨てるところだが。







 その日の夕方。


 貴族の付き合いで馬車を走らせ、知人の屋敷へ向かっていると、俺の屋敷を辞めた使用人が道を歩いているのを見た。


 その使用人は、犬を散歩させている。


 向こうはこちらに気がついていないようだ。


 そのまま馬車とすれ違っていった。


「なんで、人間はペットなんて役に立たないものを飼いたがるんだか」


 与えられるばかりで、与える事のない存在だ。


 俺には分からなかった。


 すると、なぜだかキアの顔が浮かんだ。


 きっと、さっきすれ違ったのが犬だったからだろう。


 理由はそれ以上ないはずだ。


 外を見るのをやめた。


 すると、今度はフクロウが、窓のへりにとまってきた。


 窓をあけてやると、フクロウは手紙を持ってきたようだ。


 そこにはこの世界の状況が書かれていた。


 ここはまだ平和だ。


 辺境の領地なのだから。


 けれど、世界のどこかでは争いが起こっている。魔族と人間が敵対して、戦っている。


 魔王が引退して、姿を消した後、魔族の敗北で戦いは終わるはずだった。


 しかし、次の魔王が現われたため、争いは継続。


 終わらない戦が長引いているらしい。


「ふん、馬鹿らしい。今の俺にとっては関係のない事だ」


 俺は目を閉じて、これからの予定について物思いにふけった。


 しかし、脳裏には、以前俺を裏切った部下の姿が浮かんできた。



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