お仕事と私
私は、病院清掃のパートをやっているのですが、人に話すと、「まだお若いのになんでお掃除?」なんて言われたり、今の職場の面接の時ですら、「まだお若いんだし、介護福祉士の資格をお持ちなんだから、良かったら看護助手として働きませんか?」なんて言われたものです。
そっか、もう不惑だ、大人だ、何だかんだと騒いでいても、清掃パートをやるにはまだお若いのか。へえ〜、そっかあ……って! それおかしくないですか? 幾つの人がお掃除やったっていいじゃないですか、ねえ?
給与面では確かに看護助手の方が良かったし、いくらブランクがあるとはいえ、やってできないことはないと思うんです。それに、他にも興味のある仕事だってあるにはありますし。
だけど、私は声を大にして言いたいのです。
「仕事としてのお掃除が好きなんだあーー!」と。
そう。私は、自宅の掃除は別に好きじゃないんです。
あくまでも、やるしかないからやっている。
好きなのは、仕事として対価をいただき、お客様に喜ばれるお掃除なのです。
何を隠そう、以前はハウスクリーニングで有名な、ダス○ンで働いたこともあるくらいなのです。
なぜにそんなにお掃除の仕事が気に入っているのかと言うと、正社員として比較的長く勤めた二つの職種での体験と、自分の性格の一面が関係しているのかも知れません。
一つ目は、さっきも触れた介護のお仕事です。
私は入所施設では働いたことがないのですが、ホームヘルパーをやりながら介護福祉士の資格を取り、その後は、デイサービスセンターの責任者を少しの間やらせていただいて、出産を期に退職しました。
その、ホームヘルパー時代のこと。
お一人で暮らしているお年寄り宅へ訪問すると、その方が男性であれ、女性であれ、大抵のお宅は散らかっていてお掃除が行き届いていませんでした。
でも、それは当たり前なのです。重い掃除機を引き摺ったり、腰を屈めて箒をかけたりする元気があれば介護はいらないし、床に物が散らかるのは、手の届くところに何もかも置いておかないと、不自由な体には不便だからなのです。
とは言え、あまりにも汚れていて不衛生だったり、床に物が散らばり過ぎて、転倒の恐れがあったりすれば、お掃除なり、片付けなりする必要があります。
そういった場合、その方の介護計画に『お掃除』が組み込まれます。介護保険制度を利用するのですから、ただ単純にお掃除するというのではなく、そこには当然目標が必要で、『利用者本人とヘルパーとが一緒に行うことで、リハビリを兼ね、自立した生活を目指す』的なことが謳われていることが多かったと記憶しています。(けっこう昔の事なので、今の制度とは異なる点があるかと思います。その点、ご理解ください)
私たちヘルパーが訪問するごとにきれいに片付いて清潔さを取り戻してゆくお家と、快適に過ごせるようになって喜んでいらっしゃるご利者様を見ていると、こちらも気分が晴れるような気がして嬉しく、ヘルパーの多様な業務の中でも、気に入っていることのひとつでした。
そして、二つ目は、ホームヘルパー業より前にやっていた、住宅リフォームの営業兼システムキッチンプランナーの仕事です。
これは、某メーカーの研修プログラムに長期参加してプランニングの実務を学び、その後も度々、研修施設での講義や実習を受け、ショールームでの実際の接客なども学んだもので、今思えば、なかなかよく勉強したような気がしないでもないのですが、無我夢中だったので、大変だった記憶がないのでした。
キッチンの改装の前には、当然、まず現状を見に行く必要があります。
床や壁や天井の材質や傷み具合を調べ、必要とあらばその張替えや、場合によっては、基礎からの補修を提案します。
部屋の広さ、天井の高さ、開口部など、あらゆる場所の寸法を測り、撤去するもの、残すものなど確認し、お客様がどういう風にしたいかの希望を聞いてから、設計図、キッチンのプランニング図、見積もり書を作成して、再び訪問するのです。
また、場合によっては、お客様をショールームにお連れし、リフォームのイメージを固めていただきます。
ついつい説明が長くなってしまいましたが、その、現地調査の際、改装前のキッチンを見せていただくと、まあ大抵のお宅はなかなかゴチャゴチャしていて、汚れもそこそこ凄いのです。
それを見ると(うぎゃー! リフォームもいいけど、これ掃除したらまだ使える! 頼む、掃除させてくれえ!)と心で叫んでしまうときがありました。
いや、何も汚れているからリフォームするわけではなく、基本的には、老朽化のせいだとか、使い勝手の向上のためだとか、ただ、現状に飽きたとか、その理由なんて千差万別ですが、油汚れやステンレスのくすみなど見るにつけ、(ううっ、これ磨きたい!)とうずうずしてしまう私なのでした。
やはり、その当時からお掃除好きの気持ちが芽生え初めていたようです。
もう一つ大きい理由としては、黙々と出来る作業だということがあげられます。
私は、自分で言うのも何ですが、リアルでの愛想はとっても良いので、「接客業に向いてそう!」などと言われることもあります。
お掃除中に患者様に話し掛けられれば、積極的にお相手しますし。
さっきご説明したように、実際に接客業務をやっていたこともありますし、そんな面があるのも間違いではないとは思うのですが、それは私のほんの一部分であり、ある意味、外面とも言えます。
実際は、ここで披露しているようなイジイジウジウジした内面を抱えていて、誰も私を構わないでね、でもときどき構ってね……という、非常に面倒くさい性格がヒョコっと顔を出したりもするのです。
そんなときには、無理して元気一杯振る舞う必要のないこの仕事がありがたいし、何と言っても仕事中、悶々と考え事ができるなんて、創作にはうってつけではないでしょうか(笑)
体を動かしつつ、脳内では妄想の翼を広げているという、健康的なんだか不健康なんだかわからない、そんなお仕事中の私なのでした。