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気化太郎  作者: トキタマケイ
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 実に10年の月日が流れ、気化太郎も小なつも16歳になりました。

 春になり二人が来る場所と言えば、それはたくさんの『美しさ』に満ちたあの原っぱです。



 「ほら気化太郎。今日はおにぎりを作って来たのよ」

 幼い頃と変わらず、草の上に並んで座る二人。

 原っぱも暖かく穏やかで、あの頃のままです。


 「大きくて、いびつだ。すごいよな、握り飯ひとつに小なつの性格が表れているんだから」

 「そうでしょ。だから食べて。具は入っていないけれど」

 そう言って手渡された隕石みたいな握り飯を気化太郎は受け取り、大きく一口頬張りました。

 うっすらとした塩気の、素朴な味わいが広がります。


 「何でもない握り飯だ。でも美味しいよ。それはたぶん小なつが……」

 「大丈夫よ、分かっているから」

 彼女は気遣い、気化太郎の言葉を遮りました。


 ですが気化太郎には時々、少し不安に思うことがありました。

 言葉がなくとも、小なつは本当に全てを分かってくれているのだろうかと。


 春の美しさにも慣れ始めた彼の心は一方で、苦しくもあったのです。

 熱く、甘くも苦い、大きな感情。

 奥底で静かに揺蕩い、時に激しく波打つそれをしかし、気化太郎は見てみぬ振りしか出来ません。


 言葉に出来たなら。

 そう少しでも考えた時、彼はすかさず己の宿命を思い出すのでした。


 小なつも握り飯を取り、一口食べました。

 「美味しいわね、気化太郎」

 そうやって、儚く笑います。

 

 気化太郎は僅かに目を細めます。

 それが彼の笑顔なのでした。

読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 気化太郎は、蒸発してしまいました。壺を使って子どもを集めるところがイメージできて素敵です
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