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神禄剣鬼伝  作者: 真赭
30/31

参ノ巻【鳴神撃剣】拾参

お待たせしました次話となります。

――少し離れた所で話していた鞍馬と美夜がやって来る。

「待たせたな」

「もういいのかい?」

「ああ、宗家の事情を把握できたからな」

 思わず美夜を見てしまう。

「心配不要ですよ智慧。このナマグサ天狗とは旧知の仲ですから」

「そうなのか?」

「ええ、月季と鞍馬の2人が無銘と現代に残る剣術の大元を編み出した張本人ですからね。かれこれ1000年以上前にはなりますか」

「さすがは宗家に使える鬼の頭領、なんでも知っているんだね」

 蓮心の反応に美夜が振り向く。

「その口振りと余計な事を言う生意気な口は先祖譲りですね、まるで牛若の奴と喋っているみたいですよ」

 眉間を歪ませ、露骨に不機嫌な顔の美夜。

「それは光栄だ――それじゃあ智慧、また後でね」

 鞍馬天狗と共に去ってゆく蓮心。

「ちっ……昔を思い出しましたよ。山奥の寺で会った生意気な天狗小僧を」

「まさかその人って源義経ご本人……?」

「その当時は牛若丸と呼ばれていましたがね。鞍馬天狗の奴が珍しく気に入り、源氏のよしみで教えた月季も太鼓判を押す程の傑物でした」

「凄いな」

「よく似てますよ本当、目元とか鼻なんかは先祖ゆずりです」

 どこか昔を懐かしむような、自分の知らない時を生きていた美夜の表情。

「……ちなみに俺はご先祖様に似ている?」

「智慧がですか? 似ているというか瓜二つです。当時から生き残っている妖怪が見たら、糞尿撒き散らして逃げ回るかショックで暴れ始めます」

「ええっ、そんなに?」

「年老いても妙に若々しかったですからね。流石に今の智慧と瓜二つってわけでも無いですが、少し草臥れた感じです」

 そんなにも自分はご先祖様の顔立ちに似ているというのか……

「ですが、雰囲気はもうちょっと男性的寄りでしたね。智慧みたいに女子の格好が似合う程ではなかったですよ」

「小さい頃の話は止めてくれ――ていうか今更だけど、なんで子供の頃はあんな格好させられてたんだ」

「一つは魔除けのため、もう一つは単に月季の趣味です」

「二つ目は絶対に聞きたくなかった……」

 たしかに家にある古い書物で、魔除けの一つとして一定年齢になるまでは女装させる、という奇天烈な記述が書かれた物を見た記憶がある。

「今ならもう少しイケる女子になれるのではないですか? 元服後だというのに髭や腕毛も全く生えてきませんし」

 ペタペタと顎や腕を触って来る美夜。

「気にしてるんだから止めてくれ」

 昔から気にしている部分である、年齢を重ねれば成長期ということで何か変わると思っていたが……

「ふふっ、戦前だというのに全く緊張感がありませんね」

「荒霊を目の前にしている時に比べれば楽な方さ」

 アナウンスを聞けば、次の試合は自分の番。

「それじゃあ行ってくるよ――ああ、そうだ学園の外だから呪いで荒霊が寄ってくるかもしれない。もし俺の初動が遅れたら頼めるかな?」

「それは悩む必要は無いと思いますよ。この建物全体を覆うように結界が張られています、恐らく学園を囲んでいる術と同じかと」

「分かるのか」

「ここに居ると学園内にいる時と同じように少し身体が重く感じますからね。感覚は同じ物ですし、陰陽師あたりが敷いているのでしょう」

「それじゃあ荒霊が寄って来るのは気にしなくても?」

「ある程度は緩和されるでしょう。それに、自ら祓わられに近付いてくる荒霊はいないと思いますよ。一体ここには何人の刀士遣がいると思っているのですか」

「それもそうか……じゃあ少し動いても問題ないかな」

「土蜘蛛の様な狂った思考の者でなければ近付きませんよ」

「近づいてこない事が聞けただけで充分だ」

 観客席の合間を抜け、試合場へと出る。

 残り数試合となった撃剣試合、残る面々も相応に実力のある者ばかり。

 手貫緒に緩みがないか確認しつつ対戦者である竹内の前に立つ。

「まさか源くんが相手とはね、お手柔らかに頼みたいな」

 見れば観客席から竹内を応援する女子組の黄色い声。

「それはこっちの台詞だよ。いい加減に竹内から一本取りたい所だ」

「ふふっ、その言葉は何度目だろうね」

「今の所は素手勝負で全敗中だからな、今回はコレもあるし勝たせてもらう」

「自信満々だね。でも、こちらも体面というのがあるからね……手は抜かないよ」

 竹内が得意とするは小具足と呼ばれる格闘技術の一派、竹内流捕手腰廻小具足。日ノ本古来の柔術や格闘術は幾数多あるが、その中でも大家と呼ばれる程に分流を生み出し、様々な流派に影響を与えた――云わば柔術の大御所のような流派。

 その竹内流の免許皆伝を、同い年ながら許されたのが竹内覡斗である。

 捕手(相手の武器類を取り上げ無力化する技術)に関しては知っている人間の中では最たる技量と言っても過言ではない程。

 鬼の膂力で組み伏せてくる月季や美夜と比べると捌きにくく、正直言って相手したく無い一人でもある。

「それでは――始め!」

 竹内に掴まれたら一貫の終わり、瞬く間に組み伏せられて一本取られてしまう。

 攻撃や回避、牽制や不意打ちでも無く――構えるは『居合い』の構え。

 掴まれる前に斬る、近づかれる前に斬る、ならば選ぶのは最速の一刀。

 小太刀を構えた竹内が小さく驚く。

「知ってるかい智慧くん、ウチの流派は居合もあるんだよ?」

「なら、頑張って勝ってみるさ」

 視界は竹内の全体を捉えつつ、躙歩でにじりにじりと距離を詰める。

「――悪いけどこれも実戦の一つ。使える物は幾らでも使わせてもらうよ」

 一瞬、竹内の足元がゆらぎ――ほぼ反射で抜刀する。

 腕に伝わる衝撃と顔を撫でてゆく不可視の――風。

「……驚いた、鎌鼬の旋風を斬るってどういう目をしてるんだい」

「昔、鎌鼬の風に嫌というほど斬り刻まれたんでね」

 二度、三度、空気が揺らぐ。 

 二連霞堤。胴狙いを打ち流し、拍子をずらして足元を狙った一撃を跳び上がりつつ縦回転で二つにかち割る。

 背後から大きな物音、おそらく斬った旋風が観客席にあたったのだろうか、どうか事故が起きてない事を願うしかない。

 着地と同時に納刀、颯歩で一足飛びに竹内へと肉薄する。

 待っていたと言わんばかりの表情の竹内。

 右手で握りしめた太刀を、溜めるような姿勢から横一文字に薙ぐ。

 竹内の両の手が合わせるように閃き、握るこちらの右手に迫るが――これは予想通り。

 過度の緊張で目に見える全てが遅くなっている、まるで時が淀んだかの様に自分以外が遅くなっている。

 捕られるより速く手から太刀の柄を手放し――鉄槌で竹内の手を打ち落とす。

 手は止まらない。

 即座に左手に持ち変え、左手で握り直した太刀を竹内の首へと叩き込む。

――硬い金属同士のぶつかり合う音。

 思わず見れば、竹内の背後からくすんだ刃の鎌が伸びている。

 即座に伸ばされる諸手。

 大きく後ろへ跳び、迫る凶手から逃れる。

「……鎌鼬ってことはまさか残り2人もいるんじゃないよな」

「ご名答、伴獣の鎌鼬は3人で1つの存在。加えて僕も足せば4対1……流石の智慧くんでも至難じゃないかな?」

 同時三方向から合わせ難いタイミングで鎌の刃が迫ってくる。

(一か八かだ!)

 鎌が迫る直前まで神経を研ぎ澄ませる。

 間隙は僅か、しくれば鎌の鋭利な刃に切り裂かれる。

 太刀を頭上へと放り投げ――その場で身体を捻って、宙へと跳ぶ。

 耳元の髪の毛数本を刃先が吹き飛ばし、制服の裾が数センチ切り裂かれ、靴の底が僅かに切り飛ばされる。

 通り過ぎた鎌が後ろの床へと突き刺さる。

 タイミング丁度に降ってきた太刀を掴み取り、颯歩から技を撃つ。

 火の型『残燭』

 踏み込みの反作用を刃に乗せる。

 竹内が動くより速く放つ逆袈裟。

 僅かに遅れて試合終了の合図が鳴り響く。

「そこまで! 勝者、源智慧!」

 たちまち観客席の至るところから歓声が飛んでくる。

「ごめん竹内。身体、大丈夫か?」

 いくら依代ありとは言え衝撃は身体に伝わっているのだ。

「う、ううん大丈夫だよ源くん」

 胸を抑えた竹内が伸ばした手を制してくる。

「ならいいんだけど……本当に大丈夫か?」

「ああ、何ともないよ平気だって」

 何故か身体を隠すように俯き気味に竹内が足早に試合場から出ていってしまう。

(大丈夫かな……)

 色々と無茶な動きをしたせいで腰と肩が痛む。

 すると、横の試合場から大きな音。

 思わず見れば、伊東と切り結ぶ真澄さんの姿が。

 伊東の鋭く素早い小手打ち。

 手前に寄せた刀の鍔付近で往なし、横にずれつつ肩口を狙う真澄さんの一撃。

 避ける素振りも無く、瞬時に峰に手を添えて払い流す伊東。

 受け流しに少し前へとつんのめってしまう真澄さん。

(不味い)

 深く柄を握り直した伊東のコンパクトな払いが首へと振るわれ――突如、伊東が後ろに飛び下がる。

 突然の事にどよめく観客席。

(今のは……白藤だな)

 いつまでも試合場にいるわけにもいかないので、早々に退散する。

「――よう」

 美夜の所へと戻ればスマホ片手に座った祝。その反対側には月島さんと土御門さんの二人もいる。

「あれ、試合はどうしたんだ?」

「おいおい俺の相手忘れたのかよ」

「あっ……」

「やっぱ大御所には小手先勝負じゃ無理だわな。暗器も隠し手もことごとく真正面から潰されたよ」

「陰陽道もか?」

「あれは剣じゃねえから駄目だそうだ。全く不得意分野で達人に挑むなんて負け戦に自ら行ったようなもんだぜ」

 ぶーぶーと文句を言う祝が、横に座る美夜のポテチを一枚摘む。

――すると、再び試合場の方から鋭い雄叫び。

「おーおー、流石は示現流。これが本物の猿叫か」

「えんきょう?」

「そ、東郷の流派の特徴的な技法だよ。つうか、技というか喊声?」

「なるほど……」

 叫び声で敵を圧倒するのはたしかに技術してはある、だが、あそこまで鬼気迫る声量は中々だろう。

「太刀で袈裟か縦に一閃が芸風だが……相手が悪いな」

「棗か」

 対する相手は両の手に白地の籠手を嵌めた棗。

「少し前にデカブツ相手に真正面から殴ってただろ? 少なくとも力比べでは負けねえわな」

 棗が避ける素振りも見せず、拳を真正面から放つ。

 こちらまで聞こえてくる激突音。

「うわっ」

 棗の拳撃に弾き飛ばされた東郷さんの太刀が観客席に突き刺さる。

 どよめく観客席。

「凄えな……智慧もアレ出来るか?」

「相手の刃を切り飛ばすのはあるけど、あそこまで飛ばすのは無理だ」

「大丈夫だ、聞いた俺が馬鹿だった」

――すると、試合場で再び動きが。

 東郷さんが試合終了の合図が出るより速く、制服の下から短刀を引き抜くと棗へと肉薄する。

 斬り殺さんとばかりの気迫。棗が籠手で振るわれる短刀を弾き、後ろに逃げる。

「もはや合戦剣術だなありゃ」

「実利的ではあるな。得物が無ければその場にあるもので戦う、それが無ければ素手で戦う」

「無銘剣術はそんな事も教えるのか」

「まあ、荒霊に対しての剣術だから素手で挑むなんて命知らずだけどな。そう言ったのは心構えとか緊急時用とかだ」

「だよな――まあ、素手で戦ってるのが目の前に一人いるけどよ」

 追随した東郷さんの鋭い斬り付け。

 これも躱すだけで反撃の意思を見せない棗。

 東郷さんが喉元を狙った横の大振り。

 後ろへと半歩下がり、刃が空を切る――が、振り切った体勢のまま短刀を投げ捨て、素早い身のこなしで脚を取る。

「おっ、組みに行った」

「棗相手に寝技は危険すぎじゃねえか? あいつ素の握力やべえぞ」

「そんなにか」

「ああ、握力計あるべ? アレ100キロオーバー」

「えっ」

「あと、指だけで懸垂したり、片手で倒立もしてたな。あとは鉄パイプ曲げてたわ」

「それは凄いな」

「いや凄いとかじゃないだろって。智慧はどれか出来るんか?」

「片手倒立は出来る、指懸垂は無理だけど」

「どういう鍛え方してるんだよ……で、腕力馬鹿の棗相手に組み技しに行ったらどうなると思う?」

「まあ、引き剥がされるな」

 見れば馬乗りになった東郷さんが拳を振り下ろすが――棗が拳を掴み取る。

 掴んだ右腕の関節と手首を固め、左脚から強引にひっくり返す。

 瞬く間に先ほどの体勢と逆の位置へ。

「すげえな、まるでレスリング選手だぜ」

「……棗のあの怪力は何なんだろうな? 少し前にも二回りも大きな式神と真正面から殴り合ってたし、拝力なのかな?」

「うーん、流石に分からねえな……特殊体質とか?」

「あー、あの大食いも何か関係してそうだ」

「ま、刀士遺としては有用だろうよ」

 片手で東郷さんの腕を抑え、拳を振りかぶり――終了の合図が流れる。

「やっぱり棗は別格だな。実力で言ったら一年生内でも上から数えたほうが早い」

「だよなー」

 試合場から颯爽と撤収する棗がこちらへと戻ってくる。

「いやあ久し振りだよ組打ちで転ばされたの」

 実に爽やかな笑顔で籠手を椅子に置くと、スポドリを一気に呷る。

「お前さんいくら何でも相手の得物すっ飛ばすなんて無茶苦茶だぜ」

「柊さんから教えられたからね。相手の戦意と戦力を削ぐなら荒霊の爪や牙から潰せってね」

「やっぱり刀士遺じゃなくて軍人か何かじゃねえのかなあの人……」

「あはは! 今度言っておくよ」

「止めてくれこの歳で死にたくねえ」

 間食を挟み始める棗。

「あと数試合で終わる」

 月島さんが美夜のポテチを摘む。

「棗と河内、智慧と真澄さんで次の決勝戦かー……まあこの四人が現状一年生内で刀士遺としての最有力候補だし妥当と言えば妥当か」

「お、噂をすれば」

 棗の見る方を向くと――やってくる真澄さんの姿が。

「あら皆勢ぞろいね」

「お疲れ様です奏さん」

 土御門さんが労いの言葉をかけながら甲斐甲斐しく制汗シートを渡す。

「ありがとうね葛葉ちゃん」

 襟元を緩めながら真澄さんが疲れたように息をつき、ブラウスの裾をおもむろにめくり上げると制服の中へ無遠慮に手を突っ込む。

「……これは無意識健全スケベ、えっちが過ぎる」

 月島さんが妙な事を呟きながらスマホで連写し始める。

「ちょっ! なんで盗撮してるのよ渚ちゃん⁉」

「はぁ、これだから無自覚な鈍チンは……年頃多感な男子と好奇心旺盛な女子を舐めてはいけない」

 すると、鞄の方から通知の振動音。

 思わず見てみるとトークアプリへ月島さんから何か写真が送られてきている。

 開いてみると先ほどの真澄さんの腹部が僅かに見えた姿の写真が十数枚、コマ送りのように送信されていた。

「……月島さん?」

「大丈夫、見返りは必要ない。要るのは感想と笑顔だけ」

 真顔でサムズアップが返される。

「ちょっと何を送ったの⁉」

「奏のえっちな写真。もう少し男子の目を気にするべき」

 棗と祝が身を乗り出して覗き込んでくる。

「な、何だよ……!」

 思わずスマホの画面を隠してしまう。

「ふーん、お前も隅におけねえなあ。ま、俺は傍観に徹させて頂くぜ」

「智慧くんもいう割には中々やるよね」

 どこか生暖かい眼差しの二人。

「ちょっと葛葉ちゃん、渚ちゃんに何か言ってよ」

 恥ずかしそうにしながらネクタイを締めなおす真澄さん。

「……こればかりは渚さんに同感です。奏さん、もう少し年頃の女子らしさを身に着けるべきです。流石に先ほどのは女性らしからぬ行為ですよ」

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔。

「源さん、つかぬ事をお聞きしますが……奏さんは普段からああなのですか?」

「えっ、こっちに聞くの」

「はい、奏さんの生態系は源さんしか知りえていないので」

「いや、そう意識したことは無いかな……ああでも、無意識でやってるかも」

 眉間にシワを寄せる土御門さん。

「まさか部屋ではもっと緩い?」

 月島さんの問いかけに真澄さんが射殺さんばかりにこちらを睨んでくる。

「あー……コメントは差し控えさせていただくよ、後が怖いし」

「それは残念」

 笑う棗と祝。

――ふと、喉元にチクリと痛みが。

「……?」

 今の感覚は荒霊に狙われている時の嫌な感覚。まさか葛木さんが何か行動を起こしたのだろうか……?

 思わず体育館内を見渡してしまう。

「何かあった?」

「いや……何でもないよ、ちょっとお手洗いに行ってくる」

「試合に遅刻すのは勘弁してよ?」

 皆に別れを告げ、観客席を後にする。

「美夜」

『――お呼びですか』

 制服姿の美夜が現れる。

「さっき荒霊の反応があった、確かにここは結界が張られてるんだよな?」

『ええ間違いありませんが……確かに感じたのですか? 土蜘蛛の奴ではなく?』

「ああ、気のせいだったかな……」

 だがあの感覚は荒霊が暗闇の中からこちらを狙っている時の、殺気にも近い感覚だった。

『普段ならあり得ませんと言っておりますが……此度は土蜘蛛がいる非常時、私が外を見てきましょう』

「外を?」

『ええ、鬼に盾突く愚か者はいませんからね――土蜘蛛や鶫の様な老齢は別ですが』

「たしかに納得は行くけど……大丈夫か?」

 パシリと肩を叩かれる。

『智慧に心配されるほどヤワじゃないですよ私は』

 美夜の全身が黒い靄に包まれ――いつもの露出の激しい和服の姿に戻る。

『智慧は雷娘を助けたいのでしょう? 今は他の事に気を取られないでください、試合に集中するのですよ』

 床をひたひたと鳴らし、美夜が姿を消す。

「……ここまで言われたらやるしかないか」

『――小僧』

 突如、真後ろから声。

 思わず振り向くと、そこにいたのは黒いスーツに身を包んだ――鞍馬天狗が。

「なぜおま――あなたがここに?」

『先程、荒霊の気配を感じた。宗家は呪いがあるから様子を見に来た』

 右腰に帯びた黒鞘入りの打刀へつい目が行ってしまう。

「荒霊がここに?」

『結界が張られているからお前の血肉に釣られたのは考えにくい。単なる淀みによる発現かもしれないがな』

「それで、一体自分に何用でしょうか」

『飲んだくれの奴が外の様子を見に行ったのだろう?』

「はい」

『なら、私も助力してこよう。蓮心との果し合いは己が力でなせ』

 革靴を鳴らし、通路の向こう側へと姿を消す鞍馬天狗。

「一体なんなんだ……」

 鞍馬天狗は自分に一体何をしたいのだろうか? 蓮心の伴獣ではないのか。

 とにかく荒霊の問題は二人が対処してくれる、これで自分は試合に集中するのみ。

 踵を返して急ぎ足に戻る。

 観客席側に帰ってくると同時に呼び出しのアナウンスが流れる。

 見れば、始まった当初よりかなりの観客で埋め尽くされており、一般客やカメラを構えたテレビ局の人間も増えている。

(あんまり目立ちたくないんだけどな……)

 観客席の合間を駆け、防止柵に手を付き飛び越える。

「源智慧くん、時間ギリギリだぞ」

 審判役の刀士遺の男性が鋭くいう。

「申し訳ありません」

「準備は大事ないか? 相手の真澄くんは既に済んでいる」

 試合場の上で佇む、見慣れた同居人の姿が。

「はい、いつでも始められます」

「それでは試合場へ」

 太刀の柄の感触を確かめながら枠内へと入る。

 なぜか今までの試合より空気が違う、まるで張り詰めた糸の様な、緊張した空気が満たしている。

『――それでは、ただいまより両ブロック決勝戦を始めます! この試合の勝者が最後に戦い、今年の撃剣試合の優勝者が決まります』

 嘉月さんのアナウンス。

『それでは試合……始め!』

物語はいよいよ佳境へ、次回は撃剣試合の最終決戦となります。


次章に関してですが進捗が一割程度しか進んでおりません、少し貯めつつ投稿していきますので長い目で読んでいただければ幸いです。


別記 書き溜めたファンタジー物が1本ありますが出した所で読んでもらえるか正直半々です。もし、芳しくない場合はそっちも出すかもしれないです

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