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神禄剣鬼伝  作者: 真赭
26/31

参ノ巻【鳴神撃剣】玖

遅れましたが更新です

 来たる試合の朝。朝の9時にて開示される試合の組み合わせを見に、一年校舎へと足を進めていた。

 昨日の吐露から少し距離を置くようになってしまった真澄さんは女性陣と共に行ったので、とりあえずいつもの棗と祝の三人組で向かう事になった。

「会場は新都の北区体育館だっけか」

「だね」

「あそこってライブとかスポーツ試合のイメージしかなかったけど……ウチみたいな所でも借りれるのか?」

「突き詰めれば剣術の試合だからねえ。広いから一度に同時進行で試合が進めれるし、それで選ばれたんじゃないかな」

「そりゃそうか」

 二人の会話。

「その北区体育館てそんなに大きいのか?」

「まあな、新都でイベントやるって言ったらそこが一番に上がるくらいデカイな。まだ見たことなかったなのか?」

「ああ、新都に行く用事があまり無いから」

「なら行ってからのお楽しみだな」

 話してる内に到着、朝から賑わっており正門前に置かれた大きな看板が目に止まる。

「区分けが多いな」

「そりゃあほぼ全員参加だしなあ、同時に捌かねえと夜までなるぜ」

「流石に日を跨ぐとダレるだろうしな、しょうがないと言えばしょうがないか」

「さてさて僕達は……あ、僕と祝くんが2個隣のブロックだね」

「えー、棗とやる可能性あるのかよ」

 真澄さんは反対ブロックにいる、もし試合でぶつかっていたらかなり気不味いというかやりにくいというか……

「またまた、色々隠し手あるの知ってるんだよ?」

「それより智慧と河内の試合だろ、2人はどこだ?」

 自分は2人と反対のブロックで、同じ方には……土御門さん、月島さんの女性陣が。

(蓮心は……ちょうど正反対か)

 偶然が意図的か、自分と蓮心が最後まで勝ち抜けば決勝戦でぶつかる事になる。

「うへえ、河内もこっちブロックにいるのか。始流は動き回るから相手しにくいんだよなぁ」

「それが売りだからねえ――しかし、綺麗に分けられたね」

「ああ、意図的か偶然か……」

「まあ前者だろうな。さて、試合は10時から始まるしさっさと行こうぜ」

「だね」

 お決まりとなった男三人で新都へと向かう事に。

「あ、思い出した。今年から撃剣試合、一般の人も見れるようになったらしいね」

「今までは非公開だったのか?」

「うん、去年までは学園の敷地内だったんだけど一般人への認知と技量の周知の観点から一般公開することになったんだよね」

「へぇー」

「ま、新都意外の普通の人からしたら刀士遣なんて警察の延長線みたいな扱いらしいからね。だから取材とかも飲んだんじゃない?」

「えっ、テレビ局も来るのか」

「うん、本当は生徒には非公開だけどね。新都のローカルと全国放送が二局だったかな」

「マジかぁ……そうしたら賭け金回収できねえじゃんかよ」

「神禄時代でも個人間の賭けは違法だぞ」

「ちぇー……」

 バスに揺られながらくだらない話で盛り上がる。

「……するとアレだな、お前さんの愛の告白が全国放送で流れるってことか」

「なっ」

「そうなるね、いやあ今から楽しみだよ」

 2人してニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。

「その話はしないでくれって」

「いやいや遅いぜ智慧よう。お前さんの昨日の啖呵、昨晩中に広まって大多数が知ってる」

「えっ、昨日のそんなに人居なかったよな」

「誰かが神那岐学園のローカルネットにある掲示板ての? それに流したらしくてな。一晩の内に拡散アンド漏洩だ」

 祝がスマホの画面を見せてくる。

「うわっ、お祭り騒ぎになってるね」

「加えて誰かが真澄さんと河内との間柄も拡散したらしくてな。あの二人、あんな関係だったのな」

 一体誰が漏洩させたのか……昨日の扶桑の話では一部の刀士遣は既知の事らしいが。

「まあ、古くから続いてる名家同士なら珍しい事じゃないらしいからねその手の話は」

「そうなのか」

「又聞きの話だけどね――その点だと祝くんも該当するよね」

「俺は末っ子だから全くその手の話は管轄外だ。上の兄弟がそんな話をしていた程度しか知らねえな」

「あれ、祝くんて兄弟がいたの」

「一応な、歳が離れてるからあまり兄弟感ねえけど」

 祝に兄弟がいたとは……一人っ子の自分としては羨ましい限りである。

「で、なんで河内にあんな啖呵切ったんだよ。他所様の縁談に口出すとか余程のことだぜ?」

「皆聞き耳立ててるここで言うわけ無いだろ」

 露骨に言うと周囲の面々がわざとらしく顔をそらしたり目線を外したりする。

「――いやいや、そこは知っておかないとこっちが落ち着けないっての」

 横から口を挟んできたのは初めて喋る女子生徒。

「ええと……」

 何度か真澄さん宛てに遊びに来た事のある人だったか……毎度部屋から追い出されていたから名前は知らないが。

「隣の3組の東郷那智、後ろは妹の真智」

 女子生徒――東郷さんのすぐ後ろには本人と瓜二つな顔立ちの女子が。

「東郷……ああ、示現流の東郷家か」

「へえ、よくご存じだこと」

 右サイドテールが那智さんで、左サイドテールが妹の真智さん……慣れないと間違えそうである。

「一年の有名どころは押さえてるんでねで。示現流の大御所様がウチの智慧になんか用かね」

「ウチのってなんだよ」

「奏ちゃんと河内くんとの間に源くんが絡んでくる事よ。今の今まで源宗家の話が音沙汰無かったのに、突然分家――いやこっちも宗家か――の縁談話に首突っ込むのかってこと」

「それは……」

「……まさか同居している真澄さんと何かあったなんて事は無いでしょう?」

「おいおい、コイツは男だがイロのイの字もねえニブチンだぜ。もし智慧の奴が真澄さんに手え出したなんて本人の口から言われた日にゃあ、赤飯炊いちまうよ」

 祝の頭に手刀を叩きこむ。

「えっ、部屋の中ではあっ、あんなベタベタしてるのに……!?」

 なぜか頬を赤らめる東郷さん。

「おいおい、智慧よう俺の見てないところでイチャイチャしてんのかよ」

「芦屋は知らないの? 奏ちゃん、部屋のソファで寛いでいる時に源くんを背もたれに読書してたり、源くんの膝をクッションにしたりしてるのよ……!? 普通ならそんな事しないって」

 祝と棗の2人が驚きの形相でこちらを見てくる。

「おいマジかよ智慧! お前を殺さないといけねえわ」

 制服の下に手を伸ばす祝の腕を上から抑える。

「さすがに妬けちゃうねえ。まさか見てないところでそんなにイチャイチャしていたなんて」

 見れば周囲の男性陣が刀の柄に手を掛けている。

「えっ、普通じゃないのか。美夜に昔からあれ以上に絡まれてたから気にしてなかったんだけど……」

 先程より一層殺気立つ男衆。

――さらに面倒な事になりそうになって来たタイミング。運よくバスが駅前の停留所に停車する。

「さっさと行くぞ2人共!」

 無理矢理と手を掴み、半ば強引に料金を支払って降車する。

「だっはっはっは! ますます混乱して来たなオイ!」

「どうして祝は火に油を注ぐような事をするんだよ……!」

 バス停からかなり離れた中央区の大通り、平日朝方の歩道を北へと進む。

「いやあ、面白可笑しいネタは提供したほうがいいだろ?」

「その内、痛い目に遭うぞ」

「それもまた一興ってな――しかしまあ、お前もとんでもねえ厄介事に首突っ込んだよな。河内家と真澄家の縁談話」

「その話って一部の刀士遣なら知ってるんだろ? 一体どういう風に伝わっているんだ」

「陰陽師界隈では旧家の菅原家の一人娘――真澄さんの実家の母方筋な――と、源氏の総本山である河内家の時期当主が政略結婚。古くからの一族同士なら別段特別でもない話だな」

「刀士遣界隈でもそうだね。一部の噂だと河内家の始流道場が門下生の少なくなって来た天國流を吸収するとか何とかって」

「あー、なるほどなあそれなら納得行くわ」

「後は経営難の天國流道場の資金援助が理由とか、古い家同士の取り決めとか色々だね」

「えっ、天國流って経営難なのか」

「まあ、始流とか他の流派に比べたら刀士遣の色が濃いからな。人斬りの技じゃなくて荒霊を斬るための技、合戦剣術要素も省いた完全に獣斬りの技でな。花もなければ高尚な心構えも無い、完全に一辺倒の流派って一部から言われてたりするのよ」

「でも有名所だって……」

「たしかに有名だな、刀士遣としては実用的だが体得するのが困難な剣術として。真澄さんの剣術はお前さんもよく知ってるだろ?」

「ああ、毎日稽古に付き合ってるから分かるよ」

「あの技術は普通の人や平均的な刀士遣からしたらどう思う? 難しいか簡単か正直に答えてくれ」

「……難しいと思う」

「お前レベルで難しいってことはパンピーからしたら困難レベルなんだよ。だから天國流は道場が少ないし門下生も他の流派と比べて少数なんだ」

「そうだったのか……」

「その代わり天國流を体得した刀士遣は神籬の中でも一目置かれる程優秀な者が多かった。全支部にいる甲位の隊員の内数十人はいたって言われたからな」

「五剣にはいなかったのか?」

「うーん、俺達が産まれる前の世代に居たらしいけど。そこら辺の時代は神籬がまだ表社会にいなかった時代だから資料が探せねえんだ」

「そこまで知ってる時点で十分だと思うけど……」

「で、話が脱線したから戻すが……そこまでしてお前さんが出しゃばる『何が』あるって事なんだよな」

「……まあ、そうなる」

「なら、そうまでしてお前さんを突き動かす理由と原因があの二人の間にある……そういう事か」

「……ああ、詳しくは話せないけど。俺がやらないといけない」

「俺や棗にも言えねえって事だな」

「すまないけどそうなる」

「ま、女の取り合いなんて大方男同士のいがみ合いか、惚れた女が同じ人だった、のどっちかだ。聞かないことにしてやるよ」

「迷惑かける」

「まあ、僕達的にはさっさとくっ付いて貰ったほうがやきもきせずに済むんだけどね」

「そういうのは無いって。真澄さんは……なんだろう、気の置ける仲間だよ」

 何故かニヤつく2人。

「なんだよその顔は」

「ぬへへ……何でもねえよ智慧――っと、目的地が見えてきたぜ」

 祝が前を見ろと顎で指す。

「あれが北区体育館……大きいな!」

「メジャーバンドのライブから国体会場、果てはマーチングバンドの会場にもなるほどだからね。約4キロ平方メートルだったかな」

「はー……多宝より大きいのか」

「だね、さあトントン拍子で進むらしいし早く中に行こっか」

 大きな正面口から入り、通路から更に奥へ。

「おお……」

 中は予想以上に広々としており、山育ちなこちらとしては圧倒されてしまう。

「ほれ、受付から形代貰わないと大怪我ものになるぜ」

 祝に引っ張られ、右も左も分からないまま受付を進める。

 試合の時間日程と先日使った形代を受け取り、呼び出しのアナウンスがあるまで観客席で待つことに。

「休みが次の試合までの短時間てのも考えものだよな」

「まあ、実戦じゃあ荒霊が待ってくれるわけ無いんだし理には適ってるんじゃない?」

 見れば中央の部分では審判の机設営や試合場の線引きなどが行われている。

「そうかねえ」

 祝は見慣れた苦無や札を確認し、棗は籠手の紐や五指の調子を確かめている。

「智慧は得物のチェックはいいのか?」

「昨日の晩にやったから問題ないよ」

 剣は自分の命を預ける大切な相棒、毎日刃の状態や柄や鍔の具合を確認するのもまた剣術の一つである。

 しかし、鍛錬で使っていた普通の刀とは違い、今持っているのは火廣金で鍛えられた特殊な太刀。

 荒く生木を斬っても刃こぼれしないどころか、荒霊の頑丈な腕や胴でさえ容易に両断する程の切れ味である。

(人によっては神籬本部で研いでもらってるらしいけど……)

 精々確認すると言えば琴鶴さんから織ってもらったこの足袋の確認くらいか。

 それにこの太刀は荒霊の為のものであって人を斬るものでは無い、だから今日は大荷物になってしまったのだが……

 靴から足袋に履き替え、留紐を締める。

(可能であれば『耀纒』も村から持ってきてたらな……無い物ねだりしても仕方がないか)

「ま、お前さんのことだ。余程の奴と当たらない限り負けんじゃろ」

「……コメントは控えておくよ」

 二人に見えない位置で腰に指した飛び道具の本数と位置を確かめる。

「――お、見ろよ一般人がもう来てるぜ」

 祝が指差す先、観客席側の出入り口から数人が入ってきており――

(げっ……)

――なんと入って来たのは先日新都で出会った女学生の葛木さん。

 あろうことか学友の数人も一緒におり、目を凝らせば多宝で助けた時に一緒にいた子達。

(刀士遣の催し物に単身で乗り込んでくるなんて……一体何を考えているんだ)

 新都では有名なのか、葛木さん達の姿を捉えた神那岐学園の身内達がざわめいている。

「うおっ! 見ろよ新都にある超の付くお嬢様学園の子達だぜ」

「わお、あの制服は天陽女学園だっけか」

「メチャが付く上流階級しか入れないホンモノのお嬢様達だぞ、なんでこんな泥臭いウチの行事なんかに……」

 異性の話となるとやけに早口になる祝が手でひさしを作って遠目から様子を見ている。

(なんか嫌な予感がするな……)

「なんだろうね? 神那岐学園に誰か知人がいるとか……」

「あー、由緒ある旧家の奴が何人かいるし。それかもしれねえな」

「でも、平日のこの時間にわざわざ足を運ぶなんてね」

「だよな、ちなみにネクタイの色からして中等部だぜあの子達」

「ネクタイだけで分かるのか……」

「んだよ、情報通と言ってほしいね」

「ちょっとキモいねぇ」

 棗の容赦ない一言。

 すると、辺りを見渡していた葛木さんが動きを止め――一点、こちらを見つめてくる。

 連れの友人さん達に話し掛け、こちらへ向かって歩き出す。

「ちょっ、ちょっとトイレ行ってくる……」

「おう、試合が始まる前には戻ってこいよー?」

 太刀を握りしめたまま観客席を離れ、人気を感じない方向へと歩き始める。

 あえて人気の少ない方向へと向かう。

(聞こえてくる足音は1つ……多分、葛木さんだろうな)

 少し進んで十字路を曲がる。

 自然に振る舞いつつ身構える。

 足音が近付いてき――すぐそこまで迫る。

「――源さん?」

「うおぁっ!?」

 耳をくすぐる吐息に思わず飛び跳ねてしまう。

「ふふっ、驚いたお顔も素敵ですこと」

 クスリと上品に笑う葛木さんがそこにいた。

(いつの間に……? さっきまで後ろに居たはずでは……)

「……どうも葛木さん、先日ぶりですね」

「ええ、今日は源さんの御勇姿を見たく来ました」

「それは光栄ですね……ですが、刀士遺の行事に貴方が現れるなんて些か軽率なのでは?」

「あら、私は普通の女子学生。悪漢から助けて頂いたお礼がしたく、学友の子達と共に来た……それだけですよ?」

「人間に牙を向けば容赦なく斬る、それが刀士遺のやり方だと忘れないで下さい」

「そんな源さんの大切なご学友の方々に牙を向けるなど」

 こつりこつりと床を踏み、間近まで顔が迫って来る。

 吸い込まれそうな蘇芳色の瞳、普通の人間ではありえない人ならざる者の証。

(不味い)

 まただ、この瞳を見ると頭が正常に動かなくなる、朦朧として思考に霞がかかる――

「ふふ……そう身構え無いで下さい、私は源さんに懸想しておりますのよ? 愛しい人を食べようとなど微塵にも思っていないですから」

 頬に手が添えられる――

「……ご好意はありがたいですが自分には学業がありますので」

 添えられた葛木さんの手をやんわりと引き剥がす。

「まあ、私の『糸』から逃れる人間がいるなんて」

 噛みしめた奥歯が鈍い痛みを叫んでいる。

 見れば葛木さんの瞳孔が美夜や白藤のような縦状へと変わっている、荒霊の本性が現れているということか。

「葛木さん悪い事は言いません、これ以上自分に悪戯を仕掛けるようであれば相応の対処をさせて頂きます」

「あら、相応の対処とは?」

 距離を離し、瞳を見ないよう視線を外す。

「害をなすようなら……斬ります」

 右手が柄に伸びる。

 いつもの荒霊と相対した時の様な、張り詰めた空気が肌をざわつかせる。

「――智慧くん?」

 背後から声、思わず振り返れば――

「まっ、真澄さん?」

――いつもの制服姿に刀を帯びた真澄さんがいた。

「何してるのこんな所で?」

「え? ええと……」

「……なるほど、誰もいない所で精神統一ね? それも君の剣術の1つかしら」

「え」

 思わず振り返ると、先程まで目の前にいた葛木さんの姿がどこにも無かった。

「あ、ああそうなんだ。今までは山の中だったからどこでも出来たんだけど、街中だとそうそう静かな所がないからさ」

「それまでに気合が入ってるって事ね? でも、試合に遅れて欠場はさすがに勘弁してほしいわ」

「あれ、もしかしてもうそんな時間なの」

「ええ、智慧くんの姿が見えなかったから探しに来たのよ。美夜ちゃんの気配を探ってね」

 踵を返した真澄さんが、ふと足を止める。

「?」

「その……今日の撃剣試合なんだけど……絶対にその、河内くんに勝ってよ? 信じてるから……」

 言うや信じられない速度で走り去ってしまう真澄さん。

「――どうしてこう、大事な時に限って精神を搔き乱す事が色々起こるんだろうな……」

 ここまで言われたからにはやらねばならない。

 撃剣試合を勝ち抜き、蓮心に勝ち、そして葛木さんの動向も把握しなければならない。

 後を追うように走り出し、試合会場へと急いだ――

次の更新は少し次章の書き溜めをしますので、数日以内となります。

(誰も待ち望んではいなさそうですが)



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