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神禄剣鬼伝  作者: 真赭
22/31

参ノ巻【鳴神撃剣】伍

日付を跨ぎましたが更新です。


 束の間の休日を堪能し、月曜日の放課後。

 迫る撃剣試合の申込みを済ませ、先日の買い出しで買いそびれていた物品を購入するべく、一人新都へと来ていた。

 先日真澄さんから教えてもらった大型商業施設『多宝』の正面口に、若干迷いつつ何とか辿り着き、財布の中を確認する。

(……まあ、肌着とか日用品くらいだし大丈夫か)

 未だ使い慣れないスマホにメモした買うもの一覧を確認し、人の多さに圧倒されながら中へと入る。

 あいも変わらぬ人の多さ。

「ええと……4階か」

『――買うのであれば先に上の階から順繰りに回ったほうが合理的ではないのですか?』

「そうなのかな――って、いつの間に出てきたんだ美……夜……」

 聞き慣れた声に振り向き――思わず固まってしまう。

 いつもの着物とは違う、自分と同じ神那岐学園の女子の制服を身に着け、まるで現代人の様な格好。

『なにか?』

 しかし、開いた口から覗く鋭い牙や縦状の瞳孔は完全に人成らざる存在のもの。

「いやその格好って……」

『先日、裁縫人の琴鶴から渡されました。新都に出る際にはこれをと』

「ええ……」

 上は自分と同じジャケットだが下は女子用の右上襟とやけに短いスカート。

 大胆にも膝上まで丈を上げており、生白い大腿や脚が大胆にも露わになっている。

「ちょっと……下が短すぎじゃないか?」

 履いているのは……見覚えがある、たぶん真澄さんの靴ではなかろうか。

『はて、元の時と同じ丈ですが……もしや普段とは違う装いにドキリとしましたか? 智慧も年頃の男子ですからねえ』

 ニヤニヤと笑みを浮かべながらスカートの裾を摘み上げようとする。

「公然でそれは勘弁してくれって……!」

 慌てて手を止める。

『もう、そんなに見たいのであれば後で好きなだけお見せしますよ』

 近くを通り過ぎた子連れのお母さんがギョッとするや、子供の手を引いて半ば小走りに去ってゆく。

「はあ……で、外に出てきたってことは何かあるのか」

『いいえ、数十年ぶりの都ですし、折角ですから智慧とデートをしたいなあと』

 そう言うや、左腕に抱きついてきて身体を寄せてくる。

「な、なんだよ」

『まあまあ減るものじゃないですし問題ないでしょう? それに、異性に抱き着かれるというのは普通の男子高校生からしたら至福のイベントらしいですよ』

「どの情報だよそれ……」

『先月末に買ったアダルトゲームです。まさか古典的なハーレム系かと思いきや途中から血で血を洗うスラッシャー系になるとは予想外でしたが』

 おそらくだが美夜の私室に大量に積まれた肌色成分が非常に多いゲームソフトの事だろう、別段興味はなかったが……

「絶対に間違った情報だろ――一緒に来るなら買い物に付き合ってくれないか」

『もちろんお手伝いしますよ。重たい物でも何でも任せてください』

 むんと腕に力こぶを作る美夜、たしかに鬼の怪力なら買い物の荷程度造作もないだろう。

「まあ、騒ぎ立てなければ問題ないよ」

 気を取り直して多宝の上階へと登る。

『やはり一つの所に様々な店があるのは便利ですね』

「んん? それが普通じゃないのか」

『私が源に下る前の時代では都の東西で市場が分かれ、なおかつ取り扱う品物も違っていたのですよ』

「……それって何年前の話?」

『そうですね、少なくとも千年ほど前でしょうか。今みたいに電気やインターネットのような物はありませんでしたよ』

「あれ……美夜って何歳? 流石に鶫や月季よりは若いはずじゃあ――」

 パシリと肩を小突かれる。

『女性に年齢を聞くのは失礼ですよ。ちなみに月季は私と同じ年代、鶫は私より200年ほど後の元荒霊なので年下です』

「えっ! 鶫の方が年下なのか」

『はい、ああ見えて私より小娘ですよ』

 そもそも美夜と月季が1000年前から生きていること自体が驚きである……ざっくりとだが1000年前というと平安時代辺りだろうか。

「意外だ……そしたら美夜のその姿は化けてる姿なのか」

『いえ、この姿は昔から変わってないですね――それとも妙齢の婦人や年端も行かない幼い童女の姿の方がいいですか? ご所望とあらば有名人や果ては動物にまで化けれますよ』

 すれ違った女性二人組が眉間にシワ寄せて睨んでゆく。

「い、いやその姿が一番だよ。昔から見慣れてるし」

 たしかに気になるといえば気になるが、自分の中の美夜はこの姿で固まってしまっている。

『うー……もう、どうしてそう歯の浮くような事をサラリと言うのでしょうか……』

 何故か恥ずかしがる素振りを見せる美夜が顔を背ける。

「??」

『そ、それより智慧、折角都に来たのですから昨今の甘味を食べたいです』

 美夜が指差す先は小洒落た内装のケーキ屋。

 どうやら、多宝の上階は飲食店が立ち並ぶ区画もあるようでチェーン店からローカル店まで様々な飲食店が並んでいる。

「……もしかして着いてきたのってこれが理由か」

『そっ、そそそそんなことななっないですよ……‼⁉ 私は智慧のお手伝いにと思い立ち来たのですから春の期間限定苺スイーツなど全っっっ然気になっていないです……!』

 村にいた頃から山で採れる果物や、外から強引に取り寄せた菓子やスイーツに目が無かったが……たしかに新都なら古今東西の様々な食べ物が集まるだろう。

「……まあ、せっかく新都まで来たんだし何か食べていこうか」

『本当ですかっ!!⁉』

 花の咲いたような満面の笑み。

「ただし3つまでだ。手持ちが少ないし、そもそも本来の目的は違うからな」

『3つしか……!? なんと鬼畜の所業……智慧は鬼です、これでは生殺しですよ』

「仕方がないだろ貧乏なんだから」

 収入が神籬から出る手当だけで、貯蓄は雀の涙くらいしかない。

『なんと悲しいかな……仕方がありません、ここは一つ私が稼いできましょう』

「え……もちろん合法だよな?」

『安い適当な肌着を買う、私がそれを着る、化けた写真を貼ってそれをネットオークションに出品して倍の値段で売りつける……完璧でしょう?』

「それは犯罪だっての……」

『いえいえ人間じゃないですし未成年でもないですし、私は着なくなった古着を売っているだけですから。その後の事なんて知ったこっちゃないですよ』

 実に邪悪な笑みを浮かべる美夜。

「もう少し自分を大切にしてくれ、生活がキツくなりそうならバイトするからさ」

『智慧が働くなどとんでもない! 私が稼いできますので智慧はどっしりと腰をおろしておいて下さい』

 これでは完全に女性に食わしてもらっているヒモ男である。

「好きなの選んでいいから声高に変なことを言わないでくれ……」

『それではここのケーキを食べたいです』

 引きずり込まれたのは洋風なお洒落のケーキ屋。ショーウィンドウの中には色とりどりのケーキが並び、店の一部はカフェになっているのかシックな木の丸テーブルと椅子がいくつか置かれている。

「いらっしゃいませ! お決まりになりましたらお声がけくださね」

 清潔感のある制服を身につけた店員のお姉さんが実に爽やかな笑顔。

『おお……! こ、これが去年の世界コンテストで最優秀賞を取ったと言われるタルトケーキ……!』

 剣一本の半生だったので外界の事はよく分からない。

「あんまり恥ずかしいから大袈裟なリアクションは止めてくれないかな」

『智慧はこのケーキの価値を知らないのですか』

「いや全く」

『はぁ〜……これだから……』

 実にイラッとくる美夜の顔。

『ええと、そのタルトケーキと――』

 美夜がカウンター内の店員さんに注文をする。

「4点でよろしいですか?」

 もちろん一つは自分も食べる分である。

『はい』

「お持ち帰りですかそれとも店内で飲食されますか?」

『こちらで食べてゆきます』

「かしこまりました。そうしましたら窓際の端の席でお待ち下さい、お飲み物はいかがしますか?」

『紅茶を2つ』

「かしこまりました。それではお会計が合わせまして3600円になります」

(高い……一個あたりの金額が学園の唐揚げ定食分くらいじゃないか)

 泣く泣く財布から現金を取り出し代金を支払う。

『ほら、こっちですよ智慧』

 美夜に引かれてお店の奥へ。

 新都を見下ろすような窓際の2人掛け席に座る。

 太刀は横に立て掛け、念の為いつでも抜けるようにしておく。

『ぐふふ、やっと念願のミイロのタルトケーキが食べれるなんて……長年生きてきた甲斐がありました』

「そんな大袈裟な」

『智慧はここのタルトケーキの美味しさを知らないからそんな事が言えるのですよ。食べれば分かりますから』

「全く……昔から甘い物好きは変わらないな美夜は」

『昔から娯楽といえば食べるか飲むかでしたからね。貴族共で流行していた歌なんて何処が良いのやら理解できませんでしたし、なにせ何もなかった時代でしたから』

 店員さんが紅茶とケーキを乗せたトレーを持ってくると、目の前に慣れた手付きで置いていってくれる。

『おほー! これですよこの季節物の果物を使った特製のジュレ。いいですか智慧、よくと拝んでから食べないと罰が当たりますからね』

 その手の存在と正反対の存在がそんな事を言っていいのだろうか……

 とりあえずフォークで切り取り、一口含むと――甘い柑橘系の濃厚な味が口の中に広がる。

「……凄いな」

 二、三口と進め――沈黙した美夜を思わず見る。

 オーバーなリアクションで感無量と言わんばかりの顔。

 余程気が抜けたのか、額から鬼の角が現れてしまっている。

「ちょっ、角出てる出てる……!」

『おっと……あまりの悦楽に気が緩んでました……ヤバイですよこれ、毎日食べたいです』

 美味しい美味しいと呟きながらフォークでケーキを食べる姿は、どう見ても同年代の女の子にしか見えない。

「流石に毎日食べたら飽きが出るだろ。こういうのは時々が一番じゃないのか」

『智慧もたまにはいい事を言いますね』

「失礼な」

 そう言っている内に一つ目が終わり、2つ目に取り掛かろうとする美夜。

『智慧も一口どうですか? こっちのも中々イケますよ』

 フォークに刺したケーキを差し出してくる。

「いや、流石に外でそれは恥ずかしいから」

『ぬふふ、恥ずかしがっちゃって可愛いですね智慧は』

「そりゃ誰だって恥ずかしいよ」

『酷いです、昔は喜んで食べてくれたというのに……』

 よよよとわざとらしい泣きの演技。

「それは子供どころか赤ん坊の頃だろ……」

『私からしたらほとんどの人間は赤子同然ですよ。さあ、他の老若男女に私達のイチャイチャ姿を見せ付けてやりましょう』

「本音がダダ漏れだよ」

 一口食べては実に幸せそうな表情を浮かべる美夜を眺めながら紅茶を傾ける。

(こういう平和な日常ってのもいいもんだ)

 神籬に来るまで毎日が戦いの日々だった。寝ても覚めても荒霊に食われる毎日、暇があれば剣を振り、一日足りとも身体が休める日は無かった。

 それを疑問に思った事は無い、それはそれで割り切っているし、いまさらそれから逃げれる訳でも無い。

 最後の一口を食べ終えた美夜が至福の笑みを浮かべて惚けている。

『噂通りの美味……もう何時祓われても悔いはないですね』

「縁起でもない事言わないでくれよ」

――ぞくり、と全身に悪寒が前触れも無く走る。

 荒霊と対峙した時の様な、明確な殺意を向けられたヒリつく感覚。

「美夜」

『んむ……なんですか?』

 美夜が気付いていない? そうしたら今の荒霊の気配は何なのか……

(こんな人の多い所で暴れられたら被害が大きくなる。早めに対処しないと)

「ん……ごめん、ちょっと手洗いに行ってくる。俺のも食べていいから待っててくれ」

 太刀を片手に美夜に言い止められる前に店を出る。

 再びヒリヒリとざわ付く首の辺り。

「上……からか?」

 エスカレーターで多宝の中を登り、やがて着いたのは屋上にある自然の広がる屋上庭園。

 大きなガラス越しに見える新都に隣接した海が一望できる。

「気配が消えた……何だったんだ?」

 すると、屋上庭園の奥の方から女の子の声が聞こえてくる。

『――めてください! さっきから嫌って言ってますよね!』

 何やら騒ぎでも起きているのだろうか。

 考える前に身体が声のした方へと動いていた。

 出入口から少し進むと、屋上庭園の真ん中あたりに設えられた四阿のような場所へ。

 そこには複数人の男女がおり、その内の女性達――というよりかは同い年の女の子達と言ったほうがいいか――が、男性複数人に囲まれていた。

 姿勢を低くして様子を伺う。

「まあまあ、そう怒らないでさ。ちょっとキミ達とお話したいだけなんだって」

「そうそう、やましい気持ちは全然ないから!」

「その制服ってお嬢様学校の天陽女学園だよねー」

 私服姿のどこか粗野な印象を感じる30歳過ぎくらいの男達5人。

「お断りです! いいから通らして下さい!」

 囲まれるように立つ女の子達。自分と同じような制服を着ていると言うことは学生だろうか。 

(神禄にもなって古典的なナンパか……初めて見たかも)

 明らかに女性陣が怖がっているし、どうも普通のナンパには見えない。

(普通なら首を突っ込まない方がいいけれど……流石に未成年に手を出そうとしてるしなあ、止めたほうがいいか)

 立ち上がり、わざとらしく足音を立てて一団へと近づく。

「あのー……」

 恐る恐る話しかけると、男達が一斉に振り向く。

「あん? 誰よ君」

「あのー……嫌がっているみたいですし、止めてあげたほうが」

「お、なになに正義感で助けに入っちゃった感じ? キミ、その格好学生だよね」

「ええまあ」

 意識がこちらへと向き、どこか威圧するような男達。

「俺達ね別に悪いことしてる訳じゃないんだよ? ただこの子達と遊びに行きたいなーってだけ」

「そうそう、俺達こう見えてちゃんとした大人だからね?」

 ちゃんとした大人なら未成年にしつこく付き纏う事はしないと思うが……

 男達の背後、付き纏われていた女の子達が鞄片手にこちらへと駆け寄ってくると、隠れるように後ろへ。

「あっ! ちょっとキミ達――」

 後ろの女の子達に腕を伸ばした一人の手首を反射的に掴み引き止める。

「あ? 何掴んでんだよ」

「嫌がっていましたよねこの人達」

「お前が邪魔するから逃げちゃったじゃん、どう落とし前とってくれんの?」

 自分の前を囲むように男達が立ち塞がる。

「……何をしたら許してもらえますか?」

「は? そういうのは自分で考えるものでしょ、誠意を見せろよ誠意を!」

 ずいと詰め寄ってくると、威圧するように語気を荒げられる。

「あいにくと手持ちがないので金銭はありません、お金以外でいいですか?」

「包み隠さないで言うのは中々だねキミ? どこ校よ」

「……神那岐学園です」

 すると、何人かが驚いた顔を浮かべる。

「えっ、それじゃあ君なに刀士遣の人?」

「そうしたらその腰の長いのって本物の日本刀? 触らしてよ――」

 伸ばされた右手を反射的に叩き落としてしまう。

「何してくれてんだテメぇ! 自分の立場分かってんのか⁉」

 胸ぐらを掴み上げられ、男の恫喝が鼓膜を震わせる。

「殴って許してもらえるなら好きなだけどうぞ殴ってください」

「舐めた態度してんじゃねえぞクソガキ!」

 膝蹴りが腹に叩き込まれる――が、腰が入っていないせいで全く痛くない。

「ふざけんなよお前よ」

 髪を掴まれ、地面に引きずり倒される。

(沸点低すぎだろ……⁉)

 太刀を奪われないようにしつつ蹴りを食らうが、体重は乗っていないわ痛くない所を蹴るわでほとんど痛くない。

 念の為彼女達に被害が行っていないか蹴られながら見るが、全員の意識が自分に向けられている。

(……一応正当防衛は成り立つか)

 飛んできた蹴りを受け、足首を掴みながら立ち上がる。

 ひっくり返る1人。

「このガキ!」

 顔面狙いのパンチ。

 身体を傾けて避け、がら空きの腹を鞘袋越しの柄頭で小突く。

 情けない悲鳴を上げて蹲る2人目。

「舐めてんじゃねえぞ!」

 1人がドスのきいた声で叫び、鋭い中段蹴り。

 腕で受け止め、軸足を払って背中から地面に転ばせる。

 苦痛のあまり無言の悲鳴を上げる男。

 残った3人のどこか焦った表情。

「先に手を出したのはそちらですよね。なら正当防衛が成り立つ筈です」

 太刀の柄の部分に手を掛け、さらに残った3人の表情が強ばる。

 素人相手に抜刀するなど言語道断、これは威嚇だけで斬るつもりは毛頭無い。

「くっ……行くぞ!」

 あっけなく無力化した2人を引き立たせて半ば逃げるように屋上から去ってゆく5人組。

「――はぁー……」

 これで学園に通報されていたら担任の柊教官からシバキ倒されるかもしれない……

『――あの男達はいかがしますか?』

 すぐ後ろにいる女の子達に聞こえない美夜の声。

(どうも何も放置だよ、変に追わないでくれ)

『いいえ、智慧を足蹴にした事は重罪に値します。全員の生皮をひん剥いてここの屋上から逆さ吊りしてやりましょう。いえ、恐怖に歪んだ顔のままそっ首を晒しましょうか』

(それはやり過ぎだって)

 未成年相手に恫喝した時点で少々よろしくないが、まあ自分から勝手に突っかかったのでとんとんだろう。

「あの……」

 後ろから声。思わず振り返ると、先程から自分に隠れるようにいた女の子達の1人が。

「あ、勝手に割って入ってすみませんでした。それじゃあ自分は失礼しますね」

 自分が異性と話しているせいか美夜の無言の威圧感が背中にひしひしと伝わってくる。

「あ、ありがとうございました。さっきの人達何をしても去ってくれなくて……」

「ああいった手の人相手は人の多い所に逃げた方がいいですよ」

「そうなんですか? 何から何までありがとうございます」

 神那岐学園の武者じみた女性陣とは真逆な雰囲気の女の子達が丁寧に頭を下げてくる。

(女学校に通っていると言っていたが、同い年にしては少し顔が幼いし……もしかして中学生か?)

――ふと、女の子達の一団の1人。肩口まで伸びた黒髪の、希薄な印象を覚える子に目が止まる。

 僅かに赤みを帯びた蘇芳色の瞳が、自分を見上げてくる学友達の後ろからじっと見つめてくる。

(そういえばあの子だけは全く動じてなかったな……顔色一つ変えなかったし、まるで興味が無いと言わんばかりの顔だった)

「そろそろ自分は失礼します」

「あの、最後にお名前だけでも……!」

 パシリと袖を掴まれる。

「えっ、あー……渡辺智慧といいます。それではお気をつけて」

 颯歩で屋上庭園を駆け抜け、半ば飛ぶようにエスカレータを駆け下りる。

「はぁ……」

『ため息をつくとは一体何事ですか? 先程まで生娘達に囲まれてウハウハだったじゃないですか』

 まるで最初から横を歩いていたかのような自然な空気のまま、美夜が現れる。

「そういう訳じゃないよ……ただ、何かこう気が抜けるというか気怠いというか」

『動き足りないなら学園に帰ったら組手でもしてあげましょうか?』

「いや、試合前に怪我は遠慮したいな。絶対に出場しないといけない」

『……雷娘の件ですか?』

 思わず美夜の顔を見てしまう。

「聞いてたのか」

『聞くも何も私と智慧は契を交わした仲。丸聞こえどころか智慧の考えている事まで筒抜けですよ』

「あー……そうだもんな……あの日から美夜に隠し事はできないか」

『その通りです。本当にやるのですか?』

「いいえと言われたら新居探し、はいと言われたら……その時考えるかな」

 蓮心への対抗策は用意している、自分の立場と状況を使った身勝手な対抗策だ。

『男子ならもう少し腹を括りなさい、1人の人間の岐路に関わるのですよ? あやふやな考えでは……破滅しますよ』

「分かってるよ。同じ班の仲間が困っているんだ、助け合うのが仲間だ」

『そうですか? 智慧が雷娘に抱く感情が他の学友達とは少し色が違いますが』

「そうなの?」

『ええ、友人というよりかは……私や月季と同じような感覚です』

「それはどういう感覚なんだ」

 なぜか、やれやれと首を横に振られる。

『それは自分の頭で考える事ですね――なんだかケーキを食べたら満足しました。私は先に寮へ帰ってますので、智慧は1人で買い物をしてきて下さいね』

 美夜の身体が揺らめき、あっという間に姿がかき消える。

「なんだよ、自分の頭で考えろって……」

 真澄さんに対して自分が抱いている感情?

 たしかに気の置けるルームメイトだし、何やかんやで同居を容認してもらっているし――命を救ってもらってもいる。

 たしかに他の女性陣と比べたら親しい感じかもしれないが……自分はそういったのは似合わない。

「はあ……新都に来てから考える事が一杯だ」

 少し痛む脇腹を擦りながら、多宝の店を回る事にした――


次の更新は24日の日付が変わる頃か日中かもしれません。


SNSで拡散して頂いたお陰か、日に数十アクセスと多いアクセス数に涙しております。

三章は書き終わっておりますので、次章の進み具合によっては少し投稿感覚を伸ばすかもしれないです

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