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神禄剣鬼伝  作者: 真赭
20/31

参ノ巻【鳴神撃剣】参

ちょっと遅れましたが次話となります。

「ここに来たことが?」

「ええ、剣術訓練指南の付き添いで何度かね。こっちよ」

 真澄さんの後ろをついて行く。 

(気のせいかな……さっきから隊員の人達にチラチラ見られているような……?)

 すれ違う隊員の人達や職員の方々が物珍しそうにこちらを見たり、数人でヒソヒソと何かを話している。

(……気のせいかな)

 どうやら神籬の中央支部はビル一棟丸々のようで、窓から見える新都は橙色に染まり初めており、街を行き交う車や人が下に見える。

 しばらく廊下を歩き、やがて着いたのは『支部長室』と簡素な表示のプレートが掛けられた部屋の前。

 真澄さんがためらいなくドアをノックする。

「どうぞ」

 部屋の中から返ってくるのは男性の声。奥せず入ってゆく真澄さんに続けて入室。

「失礼します。神那岐学園1年、真澄奏です」

「神那岐学園1年、源智慧です」

 部屋の中は道中に見えたオフィスと同じような内装だが、他と違う所と言えば窓際の大きなデスクだけ。

「お忙しい所恐れ入ります碓井支部長。先程、新都にて発生いたしました鳥型の荒霊についてのご報告です」

 淀みなく喋る真澄さん。

「中央区で発生した鳥の堕ち成りの件ですね?」

 机の奥の椅子に座っていた支部長――碓井氏が立ち上がるとこちらへやって来る。

「はい」

「すると、横の彼が現場で倒れていた生徒ですね?」

「はい」

 碓井氏がこちらへと歩み寄ってくる。

「――君が噂の『鬼剣』殿だね? 噂はかねがね聞いているよ」

「ええと、一体それは……」

「神籬の現場組は毎年新人生の話で盛り上ってね。今年は特に珍しい生徒――源君が来たものだから、皆してソワソワしていたんだよ」

「……それは自分が宗家の人間だからと言うことでしょうか」

「それもあるし、君の伴獣が最たる理由でもある――とまあ、その話はまたいつかにして源君が遭遇した荒霊について報告を聞かせてもらおうか」

「あの……お恥ずかしながら、具体に何を報告すればいいのでしょうか」

「荒霊の姿形、現場で気付いた違和感、当人でしか分かりえない事……神籬に伝えられる事の全てだ」

 頭の中で情報をある程度整理する。

「……遭遇したのは荒霊というよりは、碓井支部長の言う通り堕ち成りでした。新都では堕ち成りは突発的に発生するものなのですか?」

「降って湧いた様には現れたりはしない。大半の荒霊や堕ち成りは新都の『龍脈』を目当てに外からやって来るから、唐突に荒霊や堕ち成りが現れるのは鬼門が不安定な時期や偶発的な『綻び』が出来た時だよ」

「なるほど……それじゃあ、さっきまで空を飛んでいた鳥が前触れもなく堕ちたりするのはあり得ないと」

「そうだね。もし、そんな事が起きたら新都は大騒ぎになる」

「分かりました、おそらく自分の思い過ごしです――あと気になる所は……そうだ、堕ち成りが出没した時なのですが近隣に刀士遺はいたのでしょうか」

「源君が堕ち成りを祓っている時かな?」

「はい」

「あの時の中央区担当の警ら隊はちょうど休憩の時だったからいない筈だね。流石に外出記録や非番の隊員までは確認していないが、少なくともあそこの近くに居た神籬関係者は源君と真澄君だけだった」

「そうでしたか……報告以外の事を聞いて申し訳ありません」

「いやいや、気になることは何でも聞いてくれ。他には何かあるかな?」

「――私の方から一つ報告と言いますか、支部長にお尋ねしてもよろしでしょうか?」

 真澄さんが横から話に混ざって来る。

「何かな?」

「今日付けで中央支部の遺失物に火廣金の太刀は届いていますでしょうか」

「火廣金の太刀? 隊員の物かな」

「いえ、こちらの源君の火廣金です。先の堕ち成りの件の際、とある事情で紛失しておりまして……」

「それは一大事じゃないか。拵えや特徴があればすぐさまこちらで調べよう」

 真澄さんのご厚意を無下にする訳にもいかないので、素直に太刀の外観や刀身の長さなどを説明する。

「――なるほど。堕ち成りを祓った直後から行方不明と……盗難のおそれもあるね」

「それらしい物が見つかりましたらご一報頂ければと」

「もちろん。盗難だと警察だが、火廣金となれば神籬の管轄だ。すぐさま全支部に情報共有しておこう」

 自分が止める間も無く碓井氏が、デスク上の電話を取りどこかに連絡し始める。

「真澄さん、無理に探してもらわなくても……」

 声を押さえつつ話しかける。

「碓井さんの言った通り一大事でしょ! 報告が終わったら探しにいかないと」

「だから自分だけで行くって……」

 話し終えた碓井氏がこちらに向き直る。

「全支部の警ら隊に通達しておいたよ。それらしき物が見つかったら早急に連絡しよう」

「いえ、無ければ無いで問題ありませんので無理に人手を使わなくても……」

「いやいや、火廣金とはいえ普通の刃物と変わりないからね。源君の太刀で刃傷沙汰が起きる前に見つけ出さないと、神籬としての立場も危うくなるんだ」

「碓井支部長、私達はこれから新都の現場跡を探してみようと思います」

「分かった。今は修繕作業中だから現場に入れるよう支援隊のメンバーに伝えておこう」

「ありがとうございます」

「貴重な新入生達のためだ、先輩や大人がキチンと動いてあげないといけないからね」

「ご好意に感謝いたします。それでは失礼します」

 真澄さんが頭を下げ、習って下げると部屋から出る。

「――さて、人手も借りれたし私達の方でも探しに行きましょうか」

「本当に行くのかい」

「もちろんよ、さあ行きましょう」

 今更だが何か大切な物を忘れているような……

「う、うん……」

 だが、忘れてしまった事よりも無くなった太刀の方が緊急性が高い。まずは優先度の高い物から潰していくほうが得策か。

 今度は廊下を少し歩き、エレベーターへと乗る。

 どうやらここは地上5階の高さのようで、真澄さんが1階のボタンを押す。

「――智慧くん、一つ聞いてもいいかしら?」

「なにかな」

「堕ち成りが出る前に智慧くん、変なこと言っていたじゃない。荒霊が来るとか」

「……そんなこと言ったっけ?」

「誤魔化しても無駄よ。人の言ったことを覚えるの得意だから」

「話さないと駄目かな?」

「ええ、流石に荒霊の発生を言い当てれるなんて話は聞いたことないもの」

「うーん……なんて言えばいいのかな。真澄さんは俺の呪いというか体質は知っているよね? たしか奴鹿湖の時に土御門さんが言っていた」

「ええ」

「その体質のせいで昔から荒霊に毎晩のように襲われていた。だから、否が応でも身体というか意識が無意識の内に荒霊の気配を察知できるようになってしまってね、それで自分を狙う荒霊ならある程度の予想というか予知が出来るんだ」

「それは術的な物? それとも感覚的な物?」

「後者かな。真澄さんは荒霊と対峙している時とか稽古で狙われた所がヒリつくと言うか、嫌な感覚に襲われたりする事はないかい?」

「かなり集中している時なら時たまあるかしら……武芸者や武術を修練している人は『殺気』や『気配』だなんて言うけど、未だに眉唾なものよね」

「そうそう、人間でいえば殺気。荒霊で言えば『餓え』の感覚が分かるんだ。それで、新都に現れた荒霊を特定できた」

「……智慧くんの話を聞いて思ったのだけれど。あの時現れた荒霊は智慧くんを狙っていなかった……そう言うことはあるの?」

「うーん……基本的には一直線でやって来るから、あの堕ち成りみたいに自分を探すように動くのは無かったかな……環境とか地脈ももしかしたら影響しているのかも?」

「ともかく智慧くんの勘による物だったわけね」

「うん。でも、街中で突然堕ち成りの気配を感じた時はビックリしたよ。さっきも言った通り新都ではありえないんだよね?」

「ええ、新都の地下には巨大な龍脈が通っているから外的要因の干渉を受けるとすぐ『乱れる』の。それで、他の地域より荒霊や堕ち成りが多いのだけれど、大半は何かしらの予兆や大きな原因に誘発されて発生するわ。だから、さっきの鳥の荒霊は本当に何が原因かが分からないのよ……」

 話している内に中央支部の建物から外へと出る。

 外はもう夜色と橙色の混じった空になっており、数十分もしない内に夜になってくる。

「さあ、河内家の道場にひとまず向かいましょうか。中央支部から10分くらいの所だから」

「結構近いんだね」

「近いというか沢山あるからね。ちなみに、目的の人がいるのは中央区にある大本の所よ」

 夜の新都を歩き出す。

「夜になる前に切り上げる予定だったけれど、この調子じゃあ戻れるのは夜中になりそうね」

「申し訳ない」

「私達は荒霊を祓うのが仕事よ智慧くん、別に買い出しは外出なんていつでも行けるし気にしてないわ」

「買い出し――あ、そうだ買った荷物とかは一体?」

「タクシー会社に確認して、家の道場の人に引き取ってもらったわ。多分、今頃学園の寮に届いてると思う」

「ちゃっかりしてるね……」

「気が利くって言ってくれると嬉しいかも――さあ、あそこがそうよ」

 真澄さんが指差す先には――近代的な新都の町並みに現れる、横長の大きな古めかしい外観の建物。

「かなり大きくない……?」

「それほどに影響力があるってこと」

 村の実家よりかなり大きく、暗灰の瓦が敷き詰められた寄棟屋根に木造の壁と意匠が凝っている。

「なるほど、遠い親戚なんだろうけどこうも違うとは何とも言えなくなるなぁ」

「あら、宗家なら実家も屋敷とはではなくて?」

「まあ、屋敷なのに間違いはないけど使ってない部屋は沢山あるし、無駄に広いだけで貴重品とかは何もなかったかな」

「なんだか意外ね」

「まあ、山奥の辺鄙な村だったからね」

 次第に近づいてくる河内家道場。

「そうだ……身バレするとちょっと厄介になりそうだし、変装しておかないと」

 そう言うと、真澄さんが髪を留めていた朱色の紐を解き、制服の胸ポケットから眼鏡を取り出す。

「あれ、それって座学の時に使う奴」

「そうよ。河内家の一部の人には私の顔が割れちゃってるからね」

 髪を下ろした真澄さんの普段とは違う印象。

「刀は持ってるけど、こういう物静かな雰囲気なら誰も気付かないと思わない?」

「まあ、普通にしているよりかは目立たないと思うけど……」

 正面の門と思しき所にはなんと制服警備員が立っており、腰には警棒が。

 制服姿の自分達を一瞬だけ見る警備員さん。

「私が取り合うから智慧くんは横にいて頂戴ね。あと、私の質問とか言葉には、はいで答えておいて」

「うん、真澄さんに全部お任せするよ」

 いざ訪問へ。

 真澄さんが先陣切って警備員さんに話しかけ、神那岐学園の生徒と身分を名乗って始流剣術の体験という体で通してもらう。

「――では、中へ入ったらすぐ右手にある建物の正面口から入って下さい。この時間だと中に入ったら佐々木と言う指導役の者がおりますので、見学の旨を伝えていただければ」

「ありがとうございます」

 人のいい警備員さんに別れを告げ、敷地内へ。

「後は河内君の居場所を突き止めないと」

「いや、単に可能性があるだけで持っていったとは限らないし……」

「それもそうね」

 だが、自分の古ぼけた太刀を持っていくとは一体どういった理由なのか……? 単なる物盗りなら捕まえて然るべき所に突き出す必要があるが。

 ひとまず居場所を聞くために警備員さんから教えてもらった建物に入る。

 木の戸を開き、すぐさま大きな土間が出迎え、すぐ先には木張りの床が。

 中では短めの木刀を使い、素振りをする人や防具を着けて稽古をする複数人、数人で型の練習などと剣士心が刺激される光景が。

「流石は始流の総本山ね」

 すると、すぐ横の壁際にいた一人の男性がこちらに気付くとやって来る。

「おや、この時間に神那岐学園の学生さんとは。どういったご要件ですか?」

 止め紺稽古袴に、左腰には短めの木刀。歳は四十過ぎ位だろうか、足運びと体の運び方でかなりの熟練者だと見受けられる。

「始流剣術を見学に。この時間からでもよろしいでしょうか?」

「ええ、こちらは問題ありませんよ。この時間は社会人の方が多いですが、そこは大丈夫ですか?」

「はい、ですが私ではなくこちらが見学の希望を。自分は付き添いです」

 こちらを見る男性。

「神那岐学園の生徒さんという事は背中の鞘袋は火廣金の刀ですね?」

「は、はい」

「失礼ですが、何か武術や剣術などはやっておられですか?」

「実家の小さな道場で軽く数年ほど……」

「なら、経験者という事ですね。まあ、神那岐学園に通う時点で刀士遣を目指しているのですから、当然といえば当然ですかね」

 実に物腰柔らかで真面目な男性。

「では、見学希望と言う事ですが始流の稽古風景の見学から初め、次に防具を着けて実際に打ち合ってもらう、という事で大丈夫ですか?」

「はい、よろしくお願いします」

「お連れの方はいかがしますか? ご一緒に見学などは」

「いえ、私は付き添いですので壁際で待っておりますから」

「なら、椅子を用意しますのでそちらへ。あと刀はお連れの方にお預かりして頂くようお願いします」

 男性が門下生らしき一人を呼ぶと、用意の指示を出し、分と立たずに壁際にパイプ椅子が用意される。

「それじゃあね」

「う、うん」

 ひらひらと手を振り、壁際へと去ってゆく真澄さん。

(あとはボロを出さないようにか……)

「ああ、申し遅れました。私、始流剣術の師範代を務めております佐々木定治と申します」

「渡辺智慧です、よろしくお願いします」

 適当な名字で名乗ってしまったが、まあ問題はないだろう多分。

 佐々木師範代に始流の起こりや始流の歴史などを説明されながら、稽古に励む門下生の方々を眺める。

「――であり、この『始流』の開祖はかの義経公に剣術を教えたと言われる平霊『鞍馬天狗』様と伝えられます。さすがに渡辺さんは源義経はご存知ですよね?」

「はい、大昔の武将ですよね」

「一般的な見解はそうですね。その武将である義経公が使ったとされる剣術、それが当道場で教えている『始流』なのです」

「ええと、その鞍馬天狗が教えた剣術がたしか現代に残る剣術の大本でしたか」

「その通りです。その鞍馬天狗が8人の僧に教えた剣術、その一つを学んだ義経公の剣術が始流剣術となっております。少々誇大な言い方をすれば『全ての剣術の始まり』ですね」

「いやいや、名乗れるほどの隆盛ですよ。ここまで大きな道場は初めて見ました」

 見る限り門下生の方々の練度も高いし、技らしき動きのキレも鋭い。

(たしかに大御所と言われるだけの事はある)

 広い道場内には軽く見積もっても30人以上はいる。

「嬉しい限りですね。さて、そろそろお待ちかねの稽古を体験しましょうか。ああ、ちなみに始流は地稽古のみですので」

「他流派の方と打ち合うのは初めてですので少し緊張します」

「ははは、そうも強張っては刀士遺の現場に出た時に大変な目に遭ってしまいますよ」

 佐々木師範代に連れられ、道場の一角へ。

 そこでは防具に身を包んだ門下生の人達が木剣を振るい、地稽古をしていた。

「始流では鍛錬では専用の木刀を使用します。普通の刀より反りが深くて短いのが分かりますか?」

「はい、小太刀に近い長さですよね」

「ここも義経公から来ておりまして、この刀身が短く反りの深い太刀を車太刀と呼んでおります。始流は『敏捷性を生かし、短刀を用いて敵の懐に入る』を重きとしており、他の流派と比べると敵とかなり接近した状態で刀を振るいます」

「対一の剣術というよりは乱戦状態の合戦剣術ということでしょうか?」

「そうですね、言うのもアレですが始流は人斬りの剣術ですので、いかに素早く相手を斬り殺すかが重要とされています」

「まあ剣術ですしね」

「少し話が脱線してしまいましたね。それでは防具を付けてから軽い素振りと打ち込みを行ってもらいます。経験者の渡辺さんなら問題ありませんよね?」

「はい、よろしくお願いします」

 佐々木師範代が打ち合っていた門下生数名に話しかけると、すぐさま防具棚と思わしき木棚から門下生の方々が籠手や、簡素な生地胴が持ってこられる。

「うーん、渡辺さんは経験者だけど今日が初めてだし……佐藤君、相手をしてあげてくれますか?」

 佐々木師範代が近くにいた30代くらいの男性門下生さんを呼び止める。

「自分ですか?」

「はい、今日の参加者だと佐藤君が一番の腕ですので」

「佐々木師範代のご指名であれば……お相手はそちらの神那岐学園の生徒さんですか?」

「はい、始流剣術の見学にという事で本日こちらへ。渡辺さんといいます」

「分かりました。よろしくお願いしますね、渡辺さん」

 真面目に深々と礼をしてくる佐藤氏に釣られて頭を下げる。

 門下生の人の手を借りて胴と諸籠手を嵌める。

(こういう防具は初めて着たな……)

 前は生身だったし、学園での鍛錬も木刀寸止めで防具なんてものは使っていない。

 他の門下生の方々がぞろぞろと移動し、先程まで打ち合いしていた空間が開ける。

「渡辺さん、使う木刀はどうしますか? 車太刀以外にもありますが」

「どういう物なのか体験してみたいので普通の木刀でお願いします」

「随分と勤勉ですね。木刀は壁際にありますのでお好きなのをどうぞ」

 佐々木師範代に言われ、お言葉通り壁に立てかけられた木刀の処へ。

「……どうせなら同じ長さので試してみようかな」

 そもそも一般人目線からしたら木刀で打ち合うのはかなり危険なのではないだろうか?

 ふと目に留まった、柄の部分を除けば三尺――つまり太刀と同じ刀身の木刀。

 軽く片手と両手の状態で素振りをし、具合と重さを確かめる。

(木刀だから真剣と比べるとやっぱり軽いな)

 だが、長さ的にはこの木刀が一番御しやすい長さ。

 元の所へと戻ると、佐々木師範代が興味津々と言わんばかりの顔。

「つかぬことをお聞きしますが、渡辺さんの流派はどのような得物を主に使われるのですか?」

「ええと……」

 一般的に武芸十八般と言われる物による技や体術は全て叩き込まれた……この場合だとなんと言ってよいのやら。

「色々です」

「色々ですか」

「はい、槍とか小太刀とか打刀とか色々です」

「なるほどなるほど……期待してよさそうですね。それでは始めるとしましょうか」

 佐藤門下生さんが師範代の言葉に応じるように車太刀を構える。

 左体開け落とし下段、左半身気味に脚を出し、ジッとこちらを見据えてくる。

「合図後、待ったを出すまで。目潰し金的噛みつきは無しです」

 自分の体得している『無銘』はこれといった構えは無いので、適当に八相に構える。

「それでは――始め!」

 鋭い合図が降りるやいなや、佐藤門下生が颯歩とよく似た歩法で二足飛びに間合いを詰めてくる。

(予想より速い)

 様子見の力の入っていない振り下ろしをお返しに放つ。

 しかし、自分の剣の間合いより内側へと飛び込まれ、素早く木刀が二度胴を打ち据える。

 返すより速く佐藤門下生がすり足で立ち位置を変えながら、脇や大腿を木刀でなぞってゆく。

 木刀に押されるように斬られ、危うくたたらを踏む。

 あっという間に背後へと回っている佐藤門下生。

(常に動き回る剣術か、たしかに合戦や荒霊とやり合う時は効果的だ。常に動き回って敵の狙いを常に外し、剣に体重を載せつつ押し斬る……体も崩しやすいし逃げへの反転も容易だ)

「いかがですか渡辺さん。始流は常動の剣術、相手に反撃の手を与えずに斬る、これが極意であり基礎中の基礎です」

「たしかに他の事にも応用できそうですね……!」

 なんとか木刀を振るうが、身軽な動きでこちらの刃を躱す。

「折角ですし、渡辺さんも自慢の剣を見せて下さい――佐藤くん、問題ないかな」

「ええ、渡辺くん遠慮しないでじゃんじゃん打ってきて構わないよ……!」

 鋭い突きを何とか跳んで避け、一瞬だけ距離が開く。

「いえ、流石に怪我とかが……」

「鍛錬に怪我は付き物さ。胸を借りるつもりで、遠慮なく行くのが剣士じゃあないかい」

 佐藤さんが距離を詰めずに構え直し、動きを止める。

「……分かりました。出来るだけ加減はしますが、痛いですからね」

 木刀を中段霞の構え。重心を落とし――大きく踏み込む。

 木床を踏み抜いてしまったような激しい踏込み音。

 颯歩ではなく体重を乗せて床を噛み踏み、佐藤門下生の胴目掛けて技を撃つ。

 火の型『残燭』

 肉薄と同時に床を踏みしめ――震脚。

 勢いを載せつつ木刀を振り抜き、物打ちが身につけた革胴に差し掛かり――鈍い音を立てて弾き折れる。

 勢い余って佐藤門下生の横を通り過ぎ、背後まで超過してしまう。

「あっ」

 つい、乗せられて無心にやってしまった……

 慌てて振り返り、佐藤門下生の様子を見ると――何と打って変わって明るい表情だった。

「す……凄いじゃないか渡辺くん!」

次の更新は22日の夜ごろとなります。

今までより多く閲覧者が増えたお陰で軽快に文が進んでおります、本当にありがとうございます。

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