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神禄剣鬼伝  作者: 真赭
19/31

参ノ巻【鳴神撃剣】弐

二部続きとなります。

稚拙な作品ですが、時間潰しに暇潰しにと読んでいただければ幸いです。


「はい?」

 メーター分の料金を電子決済で手早く支払い。 車から飛び出すと同時に――足元が暗くなる。

 頭上――空を見上げ、ちょうど自分の真上に浮かぶ大きな黒い影。

「鳥型の荒霊か……!」

 横の大きさは片翼だけでも5メートルはあるか。身体も翼に比率して大きく、あの鋭く巨大な鉤爪に掴まれたりでもしたら容易く引き裂かれてしまうだろう。

 美夜は学園で留守番中、この場にいるのは自分しかいない。

 周囲を見回すと、他の住民も頭上の異変に気付いたのか空を見上げている人がちらほらといる。

「街中であんな巨体が暴れたら大惨事だ」

 記憶している荒霊に頭上の怪鳥と外見が合致する物は居なかった、恐らく名付きではなく綻びが原因で堕ちてしまった野鳥の類だろう。

 大きな翼が空を打ち――頭上から降り注ぐ荒霊の鳴き声。

 腹底が震えるほどの大音声。街の喧騒が掻き消され、異変をやっと自覚した道行く人達が散り散りに逃げ始める。

「智慧くん!」

 後ろから声。思わず振り返れば鞘袋片手に走ってやってくる真澄さんの姿。

「真澄さん!?」

「荒霊よね上の! 一体どういうこと!?」

 巨体のせいか旋回できておらず、大きく羽根をバタつかせ、かすめた翼がビルのガラスを風圧だけで破砕する。

「分からないよ! それより民間人を避難させないと荒霊に襲われる危険性がある、俺が気を引くから真澄さんは避難誘導してくれ」

 鞘袋の紐を解き、見慣れた柄頭が姿を現わす。

「気を引くって……相手は空を飛んでるのよ!?」

「そこは問題ないから!」

 辺りを見渡し、荒霊がいる大通りに面したオフィスビルが目に留まる。

「頼んだよ!」

 太刀を保持しつつ、オフィスビルの正面玄関から中へと飛び込む。

 どうやら先程の鳴き声で異変に気付いたのか、中にいる従業員や利用客と思しき人達が奥へと避難し始めている。

 ビル内を見渡し、階段を見つける。

 颯歩で飛ぶように階段を駆け上がり、ビルの屋上部を目指して登る。

 屋上の手前、ドアに手を掛けるが――鍵がかかっている。

「そりゃそうだ」

 ドアから離れ、距離を測りつつ歩幅を計算する。

 実戦は数回、間違えれば手首を痛める危険な技。

「南無三!」

 呼吸を鋭く吐き、左半身に構えつつ全身を絞り――刃を撃つ。

 金の型『螺鈿』

 荒霊の頭蓋や強固な殻を突き砕く刺突の技。それをドアの錠前の部分に突き込む。

 切っ先が鍵穴にねじ込み、刃が錠の中を穿ち砕く。

 大きな音と共に切っ先が抜ける感触。すぐさま刃を戻し、錠前部分の吹き飛んだドアを押し開ける。

 足早にビルの端まで駆け寄り、下を覗き込む。

 数メートル下、先程まで飛んでいた荒霊は近くの電柱の先端に降り立っており頭を小刻みに動かしては、無人になった通りに餌がいないか探している。

(堕ちる前の習性はやはりそのままか)

 落下防止の鉄柵があり、その向こうは何もない虚空。

「当たって砕けろだ……!」

 失敗すれば地面に激突して即死。地面に落ちた柘榴の様な肉塊になった自分の身体を荒霊が啄むだろう。

 助走を付けて全力疾走。

 すぐさま柵が迫り、一足で跳び――柵を踏み台にビルから跳躍。

 一瞬。遠い昔、村の裏山の崖から鍛錬と称して突き落された思い出が走馬灯の様に甦る。

「だああああ!」

 金の型弐式『隼』

 落下しながら右手を柄尻に添え、左手は柄を握りしめて逆手に持ち替える。

 数メートル下の電柱に止まる荒霊の頭蓋目がけて急降下。

 こちらに気付いた荒霊の身体が動き、飛び立とうと翼を広げる。

 飛ぶより速く、太刀の切っ先が荒霊の体躯に突き刺さり――全身に大きな衝撃が伝わる。

 間近で発せられる荒霊の咆哮。

 突き刺さったのは頭蓋や剄ではなく、上背の部分。これでは致命的な一太刀とは言えない。

 落下の衝撃と自分の一太刀にバランスを崩した荒霊が、掴んでいた電柱踏み外し落下する。

「糞ったれ……!」

 太刀を握る手に力を入れ、さらに刃を沈み込ませながら身体を出来る限り小さくする。

 風が顔や身体を打ち、荒霊特有のすえた臭いが容赦なく鼻を突き刺す。

 数秒の内に迫る地面。

 思わず目を瞑ってしまい――大きな衝撃が身体を襲い、下から嫌な湿った鈍い音が響き渡った。

「がっ……!」

 砕けた道路の破片が辺りに飛び散り、巻き込まれた車の後部がぺしゃんこになっている。

 見れば、下敷きになった荒霊の翼が僅かに動いている。

(勘弁してくれ……!)

 衝撃で深く突き刺さった太刀を全身を引き抜き――勢いあまって荒霊の身体から転げ落ちてしまう。

 落下の衝撃で平衡感覚を失っていたせいか、背中からモロに入ってしまい息がまともに出来ない。

 視界の中、致命傷を負ったはずの荒霊が重苦しそうに身体を動かし始める。

 必死に身体に鞭打ち、何とか立ち上がる。

 太刀がまともに持てない、これでは荒霊の首を落とせない……

 堕ち成り特有の嫌な臭いの血を撒き散らしながら荒霊が立ち上がると、折れた翼を広げる。

 顔の半分がひしゃげた荒霊が咆え、こちらの身体を引き裂かんばかりに飛び掛かって来る。

 避ける間も無く構えた太刀ごと鉤爪に地面へと押し倒され、背中を再び打ち据える。

「ぐっ……!」

 このままだともう一本の爪で引き裂かれるか、頭を食い千切られてしまう。

 しかし、逃げようにも身体は動かせない。

(こんな所で死ぬのかよ!)

 まだ死ぬわけにはいかない、こんな所で死ぬわけにはいかないのだ。

――視界の端、荒霊の頭上に何かが一瞬だけ見える。

 肉を切る鈍い音と共に荒霊の口から生える――銀色の刃。

 すぐさま刃が引き抜かれ、荒霊の背後から横薙ぎに刃が通り過ぎ――ずるりと刎ねられた頭がずれ落ちる。

 堰を切ったように切り口から溢れ出る荒霊の血。

 力の抜けた足からなんとか抜け出し、血塗れになりながら転がり出る。

(呼吸が……)

 それに荒霊を斬ったのは一体誰だ、応援の刀士遺が来たのか、それとも真澄さんが斬ってくれたのか。

 地面に大の字に倒れていると、物音。

 何とか身体を起こして音のした方向を見れば、1人の男子が立っていた。

 自分と同じ神那岐学園の男子制服に、左手には反りの高い刀が握られている。

(まさかこの人が……?)

 俳優と言っても通用しそうな、どこか鋭さを感じさせる凛々しい顔つき。

「生きてたか」

 薄い唇が低めながら澄んだ声を発する。

 人の声を聞いた途端、緊張の糸がプツリと切れる。

(そうだ、真澄さんはどこに……)

 視界が暗くなり、考える間もなく意識が遠のいていった――


 身体が重く感じる。四肢は酷く痛いし、背中をじんじんと鈍い痛みが走り回っている。

 閉じていた瞼を開け――またもや見知らぬ天井が飛び込んでくる。

「……またかぁ」

 声が漏れたと同時に横から物音。

 思わず見れば――真澄さんがいた。

「やっとお目覚めね」

「ここは……?」

 痛む体を起こして、今いる空間を見渡す。

 神那岐学園の医務室のような清潔な空間でベッドやカーテン、置かれた戸棚までもが同じ物。

「新都にある神籬の支部の医務室よ。智慧くん道のど真ん中で倒れてたのよ?」

「ああやっぱり……」

 真澄さんが呆れたような顔。

「今度は何したの? 避難が終わった後に私が駆けつけた時は、陥没した道路の上で横たわってたのよ」

「ええと――」

 自分のしでかした事を正直に説明する。

「ビルから飛び降りた⁉ 一歩間違えれば即死じゃない!」

「その通りです……」 

「今日は美夜ちゃんがいないのよ? いざという時の助けがいないのに、そんな無茶をして……」

「そうでもしないと被害が広がっていたんだ。どうしようもなかったんだよ」

「だからって屋上から飛び降りて荒霊の背中に飛び乗る? 現役刀士遣でもそんな無茶はしないわ」

「仰る通りです……はい……」

 だが、どんなに危険であろうと荒霊を祓わなければならない――例え自分の命を危険に晒してもだ。

「智慧くんの事だからキチンと荒霊を祓っていたから最終的な問題はないけど、本当に無茶は止めてよ?」

「いや、荒霊を祓ったのは俺じゃないよ」

「えっ、それじゃあ誰が?」

「俺が荒霊を落した後に誰かがやって来て荒霊を一太刀で祓ったんだ。視界がぼやけててよく見えなかったから誰かは分からない」

「あの堕ち成り、そこそこ大きかったわよね……?」

「ああ、後ろから一振りで仕留めてた――あっ」

 ふと普段は絶対にある物が無い事に気付く。

「どうかした?」

「俺の太刀ってどこにあるんだい? 見当たらないんだけれども……」

 すると、真澄さんのばつの悪そうな顔。

「それがね、智慧くんの太刀が行方不明なの」

「えっ」

「私が現場に到着した時には鞘ごと無くなっていたの。もしかしたら智慧くんが気を失った後、私が来る前に誰かが火事場泥棒したのかも」

 真澄さんの言葉に、腹底に嫌な感覚が広がる。

「あったのはこの鞘袋と太刀緒だけ」

 そう言い、真澄さんが下に手を伸ばすと見覚えのある布袋と紐を取り出す。

「そんな……一体誰が」

 太刀緒の感触に何故か寂しさを感じてしまう。

「分からないわ。普通、祓いの現場は規制を敷いている時は民間人の出入りはできないけど、今回は即応時で誰でも近付ける状況だった……特定がかなり難しいわ」

「どうして俺の太刀が?」

「それも分からないの。一応、支援隊の現場検証担当の人達に探してもらえるようお願いしてるわ」

「……俺が気を失ってからどれくらいの時間が経ったんだい」

「1時間くらいね」

「新都の交通網ならどこへでも行けるか……どうしてこんな事に」

 あの太刀は月季と鶫から貰った大切な一振り。それを盗まれるなんてあってはならない事。

「可能性としては火廣金の価値を狙って行った盗難か、ネームバリューによるもののどちからね

「後者のネームバリューってのは?」

「名前の通りその物の知名度よ『源宗家の剣士が使う刀』なんて同業やその手の界隈の人間からしたらかなり珍しいし、物取りに狙われてもおかしくないわ」

「でも、俺が源の人間だなんて普通の人は知らないよね?」

「そうね。そうすると盗んだのは同じ神籬に属する人間しかいないわ」

「同じ仲間なのにそんなことを?」

「どの組織でも起こりうることよ。やっかみや逆恨みで細工したり隠したりすることなんてよくあるわ」

「出来れば聞きたくない話だ」

「でも、実際に昔からあるらしいわよ。元刀士遣の人からそういう話を聞いたの」

「なるほど……身内の犯行の可能性もあるのか」

「潰せる物は先に潰しておく方が探す数は減ってくる。智慧くんの覚えている範囲でいいから、何か思い出せない?」

「うーん……最後に見たのは荒霊を祓った人かな」

「学園の制服を着てた人ね?」

「うん、でも初めて見る顔だったよ。少なくとも同じクラスじゃない」

「なら他のクラスか学年で実力ある人ね。1年生内なら数人だけど、先輩方もとなると範囲が広くなってくるわ」

「なるほど……ちなみに1年生では何人ほど?」

「剣術の腕なら飯篠くん、伊東くん、大胡くんに双子の東郷さんとか。刀士遣としてでの腕なら嘉月くんと河内――くんね」

 最後、一瞬だけ躊躇ったのは自分の思い過ごしか……?

「どうして分けて言ったんだい」

「刀士遣と普通の剣士は別物でしょ? 剣の腕が立っても、荒霊への知識や相応の技術がなければ意味が無いのが刀士遣。剣士は――言ってしまえば人の形をした存在に対しての技術を身に着けた者。人を斬るのと獣を斬るのは話が違うでしょ?」

「まあ確かに……」

「前者の人達は大御所の孫息子とか三人兄弟の末子とか。後者の嘉月くんはもちろん知っているでしょう?」

「ああ――というか棗ってそんなに有名なのかい?」

「ええ、実は嘉月くんの事は前々から知っていたの。刀士遣になる前から単身で荒霊を祓える中学生って」

「えっ、神那岐学園に入る前から祓っていたのか」

「そうよ、刀士遣関係者内ではそこそこ有名だったの。まあ、お姉さんが有名な現役刀士遣だったのもあるけどね」

「嘉月由比さんだよね。ネット記事とか新聞で写真を見たことがあるよ」

 神籬の顔役とも言われる程の知名度と、その名に恥じぬ程の美貌と実力を備えた現役刀士遣。

 神那岐学園は現役刀士遣が教官役としてやって来たりするが、未だに本物をお目にかかったことが無い。

「そうそう、刀士遣の花とも言われる素晴らしい人よ。単身で荒霊を祓う実力もあるし、一番はあの女優顔負けの顔とプロポーションね」

「同性だけど真澄さんもファンなのかい?」

「ファンというか尊敬する人ね――そういう智慧くんは嘉月さんのファンなの?」

「いいや、たしかに美人なのは間違いないけど」

「あら、大半の男の人はファンなのに珍しい」

「そういうのはあまり興味がないからね。それで話を戻すけど、あの時現場にいたのは棗じゃないのは確かだ。棗ほど小柄じゃなかった」

「それに嘉月くんの火廣金は特殊な形だものね。小具足の形状をした火廣金なんて初めて見たわ」

「そうなの?」

「ほとんどの火廣金は刀か槍、もしくは薙刀で鍛えられるからね。防具の火廣金なんて現役の刀士遣でもいないと思うわ」

 たしかに荒霊相手に徒手空拳で挑むとは中々の豪の者である。

「そうなると、さっき真澄さんが挙げた嘉月のともう一人の――河内さんだっけか、その人はどうかな?」

「そうね……智慧くんは始流って流派を知ってる?」

「組打ちの時に祝から聞いたような……たしか数ある源の本家の一つだっけか」

「そうそう、世間一般的の観点から見たら智慧くんの遠い親戚筋ね。それじゃあそこの有名人も知っている?」

「ええと、河内蓮心さんだっけか。その人も棗と祝から聞いたよ」

「その人が智慧くんと同じくらい強い人」

 気のせいか思い過ごしか、真澄さんの口調と言うか声音がどこか投げやりというか『話したくない』という雰囲気を漂わせているのは自分の勘違いか。

「……もしかして真澄さん、その人と何かあった?」

「えっ⁉」

「いやあ、なんだかいただけない感じの空気が漂ってたから……」

「鋭いのね本当……はぁ、いつかは知られた事だろうし変わりないか」

 真澄さんがため息をつきながら肩を落とす。

「時代錯誤な話で笑うかもしれないけど、河内家と真澄家って昔からのお付き合いがあるの」

「家同士の交流ってこと?」

「そう、その交流が少し厄介でね……色々とあそこの家とは確執があるの」

「つまり、正直なところあまり関わりたくないと?」

「あまりというか金輪際ね――ま、そう出来ないのが現実なんだけど……はぁ、本当嫌になる」

 初めて見せる真澄さんの素の部分。

「……なら、心当たりのありそうな河内さんの所には一人で行ってくるよ。住所さえ教えてくれれば問題ないから」

「着替えも何もないのに?」

「服はなんとかするさ。ちなみに俺の制服はどうなったの?」

「血塗れだったから医療班の人が処分するって仰ってたわ」

 また制服を駄目にしてしまったのか……そろそろ琴鶴さんに刺し殺されるかもしれない。

 すると、外の廊下方向からドアを叩く音。

「どなたかしら――どうぞ」

 真澄さんが呼びかけ、スライド式のドアが開かれる――

「えっ」

 なんと、外の廊下にいたのは白無垢姿の女性――琴鶴さん。

「お初お目にかかります、神籬支援隊にて隊員方の制服と神那岐学園の制服の製作を任されております仕立て人――琴鶴と申します」

 丁寧な所作で頭を下げてくる琴鶴さん。

「……その仕立て人の方がどうしてこちらへ?」

「私めが織りました制服に問題があったという事で、こちらへ」

 表を上げ、ジッと琴鶴さんがこちらを見つめてくる。

「うっ……申しわけありません」

「源様、半年内で制服を三度も変える生徒は十数年ぶりでございます」

「すみません……」

「本来であれば制服を織るたびに費用として学費に加算させて頂くのが普通でございます」

「……ちなみに隊服って一着お幾らなんでしょうか」

「大量の火廣金と『火のし』の人件費、高レベルの防刃繊維と軍採用の特殊な防弾繊維も採用しておりますので、一着で数十万円ほどでございます」

「えっ、一着でですか」

「一着でです――ですが、源様の装具類に関しましては坂上学園長様の指示より無償にてご用意させて頂いております」

 真澄さんの驚いた顔。

「智慧くん、あなた一体何をしたらそんな特待生みたいな扱いになるのよ」

「さ、さあ……」

「全ては坂上学園長様がお決めになる事ですゆえ――では、ご説明も終わったとこですし源様の制服をお渡しさせて頂きます」

「あれ、今回はいつもと違いますね?」

 またひん剥かれるのかと内心ビクビクしていた。

「はい、他の刀士遣の方々の所にも用がありますので――大変残念です」

 惜しそうな顔の琴平さんが折り畳まれた制服とワイシャツを差し出してくる。

「それでは源様、くれぐれもお怪我の無いようお気を付けくださいませ」

 ドアが閉められ、しばしの沈黙。

 思わずベッドから降りてドアを開け――廊下には誰もいなかった。

「とんでもない人ね……」

「個性的だけど仕事の腕は確かだよ」

 着替えようと制服に手を掛け――真澄さんの方を向く。

「何かしら?」

「ええとですね……今から自分、着替えようと思いまして……」

「?」

 首を傾げる真澄さん。同居してはや二ヶ月弱だが、流石に同年代の異性の前で生着替えというのは恥ずかしい所がある。

『おい奏、お前は自分の着替を見られていい気分か? それともボウズの裸を眺めたいのか』

 白藤が出てきながら自分の心情を代弁してくれる。

「えっ!? ああっ、ごめんなさい智慧くん! ちょっと物取ってくるからどうぞごゆっくり!」

 慌てて部屋の外へと出ていく真澄さん。

『すまねえな小僧。奏は女手皆無の男弟子達に囲まれて育っちまったもんでな、だから女として少々抜けている部分があるんだ』

 ケラケラと笑う白藤がベッドの上に登ってくる。

「男勝りな性格もそれから?」

『その通りだ。筋の通ってねえ事は何が何でも反論するし、不条理な事は大嫌い。侮辱なんかされた日には、謝罪するまで竹刀でボコボコよ』

「それはまた」

 ワイシャツに袖通し、ボタン止めて下のスラックスを履く。

『本来なら、あの年頃なら男の一人や二人は出来てもおかしくねえんだが、アイツが門下生や狙ってくる弟子達にとんでもない難題をふっ掛けてなあ。裳着を済ましたってのに、未だに独り身なのよ』

「真澄さんの性格上、難題がなんとなく分かるよ」

 さぞかし無理難題な物なのだろう、容易に想像ができる。

『あいつ、去年の始めに「自分より弱い男とは付き合わない」って堂々と宣言してな。以降、迫りくる門下生の男共や他道場の剣士共を戦国時代の武将よろしく薙ぎ倒しているんだわ』

「実に真澄さんらしい発言だ」

 制服の上着を羽織り、空いた左腰に空虚感を覚えてしまう。

『そんな訳で奏の奴は少々女としての自覚が薄いんだよ。すまねえんだが、お前さんの方からも指摘してやってくれねえか?』

「えっ、流石に身内でも何でもない学校の同級生にそんな事言われたら怒るんじゃあ……」

『大丈夫だ。奏の奴、何故かお前だけには甘いから』

「どうしてまた?」

『……それはお前さんが考えた方がいいんじゃねえかな』

「?」

 白藤になぜか小さく笑われる。

『――さて、奏の奴が戻ってきそうだし。シバかれる前に消えるとするかね』

 白藤の身体が掻き消え、気配が去ってゆく。

 外から足音。

「智慧くん、もう入って大丈夫かしら?」

「ああ、問題ないよ」

 部屋へと戻ってきた真澄さんの右手には、普段から帯刀している物とは違う柄巻の刀が。

「それは?」

「支部の武器保管庫から拝借してきたわ。刀士遣見習いなんだし使っても大丈夫よ」

 ほら、と押し付けられ仕方がなく左腰に帯びる。

「うーん……なんだか心許ない」

 長さと拵えからして打刀。濃緑色の常組結玉の柄に真丸形鍔と至って普通な外装である。

「文句言わないの。それとも、素手で荒霊を祓う気?」

 鞘から引き抜き、とりあえず刃の長さと重さを確認しておく。

「力の弱い奴ならなんとか……」

 村の時に使っていた鍛錬用の刀より小さく軽い物……いや、鍛錬用が太刀だったのか。

「そういう問題じゃないでしょ……ほら、河内家の道場に行くわよ」

「え、関わりたくないんじゃあ」

「同じ部屋のルームメイトが困ってたら助けるのが普通でしょ? そろそろあの家とは決着をつけないとって思ってたし、ちょうどいいタイミングよ」

 無理矢理と部屋から押し出され、学園の校舎内を彷彿とさせる廊下に出る。

 刀士遣の隊服を身に着けた人達がひっきりなしに行き交っており、制服姿の自分がどこか浮いて見える。

「ほら、まずは今回の件の報告からよ。生徒でも神籬に報告する義務はあるんだから」

「報告って……どなたに?」

「普通はその地区の支部にいる責任者だけど、新都は区画ごとに神籬の支部があるからこの『中央支部』の方ね」

 歩き出す真澄さん。


さて二部の二話目となります。

ここで少し先のネタバレを少々いたしますが、荒霊もじゃんじゃん出しますが、もちろん荒霊対人間だけでは終わらせません。

よくある『怪物VS人間の作品で途中から人間VS人間の展開になって読者層が萎える』という事例があると思います。

ですが、本作品で人間と自ら称する人間は基本的に人間の基準から大きく逸脱しておりますので安心して人間VS荒霊の切った張ったをお楽しみいただければと思います。


次の更新は21日の夜を予定しております。TwitterでのRTやいいねによる皆様方の拡散により発破を掛けられ、非常に嬉しいです。


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