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神禄剣鬼伝  作者: 真赭
18/31

参ノ巻【鳴神撃剣】壱

奴鹿湖の一件からはや一か月。


慣れない『普通の人』としての生活に戸惑いながらも、穏やかな時間に安堵の息をつく源智慧。

年に一度開かれる学園の催し物【撃剣試合】に向け、一心に鍛錬する周りの学友達をのんびりと傍観していたが――ある日起きた出来事を口火に試合へと臨む事になる。


突如現れる謎の荒霊、妖魔蔓延る新都の水面下で活動する謎の組織、新都で出会う謎の少女『葛木姫野』、告げられる衝撃の告白。

小さな種火は徐々に周囲へと燃え移り、小さな火に巨大な猛火へと変貌する――


これは、神禄の時代に残る一人の剣士と一人の鬼の流伝話。


 奴鹿湖の合宿から一ヶ月が過ぎた水無月の初週。

 先月の中旬に行われた普通学校科目の定期考査が無事に終わり、新しい環境に慣れて来た頃の平日最後の日――


 正眼に構えた木剣の切っ先越しに見据える一人の女子。

 自分と同じ制服を身に着け、自分と同じ木剣を八相に構え、ジッとこちらの動きを見つめてくる。

 到底自分と同い年とは思えない程、堂に入った体の置き方。

(なるほど……真正面からだと脇構えより刀身の長さと動きが読み辛い、対一の斬り合いなら効果的だ)

 一見すれば胴と頭ががら空きだが、長さの分からない返しの太刀が待っているという不安要素で攻めあぐねる。

「――智慧くん、このまま向かい合ってたら日が暮れちゃうわ。そっちから来てもいいのよ?」

「全くその通り、だけれども間合いに入るには少し怖いかな」

「よく言うわ、瞬きしてくれないせいでこちらも動けないのだけれど」

 木張りの床が僅かに軋む。

 無拍子に加えて相手の隙きを突いて動く――体術『白拍子』

 一気に間合いを詰められた真澄さんの驚いた顔。

 しかし、動じずに構えていた木剣を鋭く振るってくる。

 容赦なく顔面狙いに迫る切っ先。

 木の型『猪首』

 こちらの柄尻で迫る切っ先を弾き逸し、木剣が大きくずれて真澄さんの体勢が大きく崩れる。

 さらに踏み込み肉薄。木剣の柄と自分の手首を使って真澄さんの関節を極め、足を蹴り払って床に組み伏せる――

「そこまで!」

 視界の外から叫び声。

 掛けていた力を抜き、恨めしそうに見上げてくる真澄さんの青灰色の瞳。

「背中大丈夫かい?」

「……ご心配なく!」

 少し怒り気味に返され、審判役の教官指示の元礼をし、道場の壁際へ。

「次は芦屋と佐藤の2名、前へ!」

 教官が言い、待機組から2人の男子が出てくると真ん中で木剣を構え合う。

「――いやあ、やっぱり2人が組打ちすると映えるねえ」

 観戦していると横から姿勢低くやって来たのは棗。

「そうかな、目立った動きの無い打ち合いだったけど」

 実際の斬り合いなんて斬った者勝ち、転ばした者勝ちである。加えて合戦と対一とでは動き方が違ってくるし、どちらも共通して言えるのは流麗な技なんて実用的ではないということ。

「そうかい? 源くんのあの剣先を逸らす技、中々だと思うけど」

「見えたのか?」

「うん、振り下ろされる剣先を柄で撫でて軌道を変えるなんてどういう動体視力しているんだい」

「あれはタイミングに合わせてるだけだよ。鍛えればどんな武器でも使える」

「ほほう! ちなみに名前とかあったり?」

「ああ、『猪首』っていうんだ。基本型だから難易度はそこまで高くないよ、噛み砕いて例えるなら迫る切っ先を何らかで打ち払って逸らすだけさ」

「さらっと言うけど難易度高くない?」

「そうかな?」

 間違えれば自分の刀が折れる霞堤に比べたらかなり容易な技である。

――大きな物音。

 思わず見れば、相手方を床に投げ飛ばした祝の姿。

「それまで!」

 組打ちを終えた祝が短い木剣片手にやって来る。

「お前ら俺様の華麗な一本見てたか?」

「いや全然」

「源くんと話してたから視界の外だったねえ」

 呆れ顔の祝。

「お前ら、真面目に訓練受けてねえと教官殿にどやされるぜ?」

「芦屋くんからその言葉が出てくるなんて驚きだよ」

「ひでえなあ――まあ、一年生の竜虎コンビの後じゃあ地味なのは認めるけどよ」

「なんだよそのコンビ名」

「知らねえのか? お前と真澄さん、他の同期が皆して『竜虎コンビ』って言ってるんだぜ」

 勝手なものである、総合的に見れば自分なんかより優れた刀士遺はごまんといるし、剣の腕は真澄さんの方が勝っている。

「ああ、いつだか誰かが言っていたね」

「だからよ、来週の水曜日に開かれる『撃剣試合』でどっちが勝つか賭けも始まってるんよ」

「また勝手な」|

「倍率は僅かに智慧が上回ってるな。ちなみに大穴は5組の河内かわち蓮心だな」

「河内……もしかして始流の河内家かい」

「その通り、智慧とは少々因縁のある奴だな」

 2人の会話。

「河内家? どちら様なんだ」

「知らねえのか? 刀士遺業界じゃあ有名所の一族、武家の棟梁ともいわれる大家だぜ」

「源氏……もしかして俺と親戚筋?」

 血縁関係に関しては美夜や他の皆が教えてくれなかったので、親戚がいるかどうかすら分からないのが現状である。

「そこらへんは詳しい事は知らねえけど、世間一般的な知識だったら説明できるぞ」

「どういった所なんだ?」

「大昔は武士の第一人者とも謳われた名家、有力な刀士遺を排出している一族、が簡単な説明。刀士遺業界だと『始流』って呼ばれてる有名な実戦剣術の道場をいくつも新都に開いていてな、剣術道場の多い新都ではかなりの有名なんだよ――ちなみに伊東、塚原、河内、真澄の四つが新都では知らぬ者はいないとされる剣術大家だぜ」

「はぁ~……」

 棗も詳しい事は知らなかったのか自分と似たような反応。

「ほれ、去年の頭あたりによ新都のオフィス街で荒霊が出没した事件があっただろ?」

「ああ、新聞で見たかな。たしか火車の大群が新都内を暴走したんだか」

「そんな事件あったねえ、姉さんが機動隊と一緒に動き回ったって聞いたよ」

「その事件で活躍したのが河内家の道場出身の刀士遺達なんだよ。現場に出るなり素早い身のこなしで火車のリーダーを斬り伏せ、手こずっていた荒霊達をあっという間に調伏」

「そりゃ凄いじゃないか」

 それよりも真澄さんの家が本当に凄い所なのだと実感する。

「そう、そこの始流の道場を営む一族の一人息子がその河内蓮心なんだよ。ようするに大御所一家の期待の星ってわけだ」

「でも、そこまで有名な人だったら入学当初から目立つし話題になるよね?」

「普通だったらな。でも、その一族よりさらに目立つ奴が目の前にいるじゃねえか」

 祝が指を差してくる。

「俺?」

「ああ、刀士遺開祖である源宗家の人間で、おまけに前例の無い『鬼』を伴獣として連れている。加えて入学試験で老齢の狒々を陰陽道も援護も無しに孤剣で斬り伏せたとなりゃあ目立たない訳がねえよ」

 ぐにぐにと腹を突いてくる祝。

「そんな台風の目みたいな奴がいたら誰だってそっちに目が行くだろ?」

「たしかにそうだね。僕も噂の源の宗家の人間だと聞いて、すぐ目移りしたし」

「そんなに目立っちゃったのか……」

「ああ、おまけにその髪色となりゃあ余計にな――結局落ちないのか?」

 祝が自分の頭――前髪の緋色の部分を指差す。

「ああ、髪染めとか脱色剤とかも色々試したけど駄目だった。これじゃあ印象悪そうに見えちゃうから困るんだよな……」

 狒々の血を被ってからはや一か月超。言い伝えの通り、本当に狒々の鮮やかな赤色の血は退色せず未だ赤赤とした自分の髪の毛を染めていた。

 お陰で他の人から視線が集まるし、初対面の人からは真っ先にこの緋髪を見られる。

「別にいいんじゃねえの? 学園や神籬は髪色に指定はねえし、月島さんなんてほぼ銀髪だしよ。他にも髪染めしてるやつはごまんといるぜ?」

「でも赤色は流石に……」

「いいじゃねえか、その方が舐められなくなるぜ」

「そういう問題……?」

 話している内に最後の組打ちが終わり、教官が訓練終了の合図を告げる。

 ゾロゾロと屋内の修練場から出ていくクラスメイト達。

「くーっ! こうも毎日動いてると腹が空いてたまらねえな」

「だね、燃費の悪いこちらにとっては中々大変だよ」

「そんなら学食で済ましてから帰っかね」

「いいね、源くんも来るかい?」

「いや、少し用事があるから遠慮しとくよ」

「あらそうかい、それじゃあまた明日な」

「ああ、また」

 2人に別れを告げ、教室へと急ぐ。

 荷物をまとめ、他の面々に挨拶を返しながら後にする。

(今日の買う物は……)

 昨日の内に取っていたメモを財布から取り出し確認しておく。

 敷地内を小走りに歩き、やがて着いたのは学園の敷地外に繋がる外門。

 神籬関係の施設とあってか車両の出入りする箇所には詰め所が立っており、刀士遣の制服を身に着けた男性が2人立っている。

 挨拶しつつ門の外へ、新都へと向かうバスの停車する停留所に到着。

 先方はまだ来ていないようで、自然に囲まれたこぢんまりとしたバス停には自分だけ。

「そうだ、外出時は火廣金を隠さないと」

 あらかじめ持ってきていた鞘袋を鞄から取り出し、太刀緖で鍔を留めると袋の中に入れて上から紐で封をする。

 伴獣も訓練や緊急時でなければ呼び出すのはご法度なので、今回は美夜は留守番。

 バスが来るまで5分と無い、あちらは大丈夫だろうか?

「――はぁ、一体何に浮かれてるんだか……単なる買い出しだぞ」

 なんの変哲も無いただの外出である、浮かれ立つ理由がどこにあると言うか。

 たしかに異性と街を歩くと言うイベントは生まれてこの方初めてだし、なんせ相手方は――

「お待たせ智慧くん」

――思案していると、視界の外から声。

 思わず振り向けば、声の主である真澄さんの姿が。

「少し前に来たばかりだから大丈夫だよ」

 自分と同じ制服で、背中越しに見えるはみ出た鞘袋入りの刀。

 どことなく普段より顔が朱がかってるのは急いで走ってきたのだろうか?

「今日のやる事は消耗品と各自の不足品類の購入よ。共用の消耗品リストは持って来てるわよね?」

「うん」

 生徒寮には寮母さんが営む食堂もあるのだが、各部屋にキッチンがついているので一部の生徒なんかは自炊したりしているらしい。

 かくいう自分も自炊派で、よほどの事が無い限りは自分で作っている。

 同居人である真澄さんも自炊派寄りなので、この一か月間の間は交代で朝夕を作っていた。

 そして、どうして自分と真澄さんが買い出しに行く羽目になったかと言うと、トウモロコシを家畜顔負けの速度で消費する白藤と健啖家である美夜の2名が原因。

 消費量が実質4人分なので寮部屋の小さな冷蔵庫の食材はあっという間に無くなるため、この度新都まで買いに行くことになってしまった。

「本当にごめんなさいね……白藤に減量するようキツく言っておくから」

 かくいう真澄さんも結構食べる方なので4.5人分……いや、自分もなんやかんやで食べているので5人だろう。

「いや、大半は美夜の方が原因だから白藤は悪くないよ。美夜の食事は実質大人二人分の消費量だからさ……」

「鬼だからってこともあるのかしら?」

 鯨飲馬食とはまさにあの事を言うのだろう。寮住まいになってから少し食欲を抑えてくれるかと思っていたが、慈悲も無く容赦なく食べつくす様はまさに鬼である。

「多分ね……というかお金足りるか心配になってきたよ」

「大丈夫、いざとなったら降ろしてくるから」

「いや、割合的にこっちが悪いんだし自分が出すよ」

 美夜が村の感覚で生活していたら半年もしない内に自分の貯蓄は消えるだろう。

「それじゃ話が違うじゃない。同じ部屋なんだから費用はお互いに半分割り勘、超過分は自己申告だって」

「そうは言っても……」

 話している内に、バス停にやってくる新都行きの都営バス。

 後から並んできた乗客(同学年や先輩方)と共に車内へと乗り込み――車内の一角に身を寄せる。

「とにかく費用は気にしないで頂戴」

 僅かに声を落とした真澄さんが横から話しかけてくる。

「本当に大丈夫なのかい?」

 時代錯誤だが女の子にお金を出してもらうというのは、どこか小恥ずかしい。

「大丈夫なの。そもそも、智慧くんは全く出費とか浪費していないのだから強く出てもいいくらいよ」

「いやあ、今まで剣以外にこれと言ってやったことが無かったから……」

 趣味も無ければ衣服や身なりに気を遣う気もい、服なんてシャツとズボンがあればそれでいいし、高級ブランドの服や靴などもまったく興味がない。

「まるで修行僧じゃない」

「近い存在ではあったね」

 バスが隣接した神籬の前を通過し、森の合間に通る舗装された道路を走る。

「もう……あ、そうだ話は変わるのだけれど、智慧くんは今週末の撃剣試合って出るの?」

「あれ、試合って志願制だっけ」

「そうよ。毎年恒例行事で学園の中で一番腕が立つか競い合う――まあ、言ってしまえば名乗りを上げるための撃剣興行ね。去年もほぼ全員が参加したって教官方が仰ってたわ」

「うーん……志願制なら自分は辞退するかな」

 エッと驚きの顔を浮かべる真澄さん。

「意外かい?」

「ええ、智慧くんは他の流派の人と打ち合って知見を広げようとは思わないの?」

「うん、大人しく観戦してるかな」

 祝には悪いが試合に出る気は毛頭無い。

「そう……まだ、応募はしているみたいだし気が変わったら参加してよね」

「かくいう真澄さんは出るのかい」

「もちろん」

「なら真澄さんを応援してるよ」

「気が変わってくれる事を願うばかりね」

――やがて、窓越しに見える景色が自然の物から人工物に変わってゆく。

 数分と経たないうちにビル群に囲まれた街中を走る。

 行き交う無数の車や歩道を歩く人々。

 見上げれば灰色のビルを彩るかのように 色鮮やかな看板や街頭テレビなどが。

「――あ、もう一つ思い出した。智慧くん、撃剣試合の次の日から新しい寮母さんが就任するって知ってる?」

「新しい人が来るのかい」

「ええ、女性の人らしいわ。まあ、寮長が一人なのもおかしい話だしね」

「たしかにね」

 バスが終点の新都南区にある名前そのままな『新都南駅』に停まり、運賃を電子決済で支払って降りる。

「いつ来ても人が多いね」

「そう? 都心に比べたら、まだまだだと思うけど……そういえば学園に来るまで外に出たことがなかったんだっけ」

「そう、周囲の山と村だけが世界でね。新聞やネット越しで外の世界は見ていたけど、自分の目で見るとだいぶ印象が違う」

 これでもかと言うほど人でごった返し、今まで総人口30人以下の僻地で育った身としては未だ圧倒される。

「そういうのは生活しているうちに慣れてるものよ。さあ、行きましょうか」

「だね」

 目的地は南区にある大型の複合型商業施設である『多宝』へと歩き出す。

 6月の湿気を含んだ風に吹かれながら新都の道を歩く。

「うーん……やっぱり住み慣れた所だと落ち着けるわ」

「真澄さんは新都住みなんだっけか」 

「そうよ、中央区にあるの――」

 何かを思い出したのか、表情が少し意味ありげな物に変わる。

「そうそう……智慧くんて他の流派の人と模擬戦はしたことある?」

「訓練とかではなく?」

「要は地稽古ね」

「そう言ったのは無いかな、鍛錬は真剣か刃引きした刀だった。木剣は一度も無いよ」

「なるほどなるほど……もしよ、他の流派の剣士と打ち合えるなんて誘われたらどうする?」

「機会があればって感じかな」

「ふむふむ……分かったわ、参考にさせてもらうから」

「……よからぬ事を考えている?」

「まさか」

 真澄さんの露骨な言い淀み。

(たしかに技を盗み見るにはいい機会だけれども……)

 技は見て覚え、自ら動き、身体に刻み込ませる――そう教えられた。

「さあ、そんなことより買い物よ買い物。智慧くん、荷物は半分持ってよね?」

「半分じゃなくて全部持つよ」

 到着したのは海沿いに居を構える巨大なショッピングモール。

 横と縦に非常に大きく、村の裏にあった山に負けない程の規模。

「はー……大きいね」

「そうよ日ノ本国内にある商業施設の中では上位に入る程の規模だもの」

「へえ、そりゃ凄いじゃないか」

「店も色々入っているから便利なのよね。輸入物の紅茶を取り扱っている店から刀研ぎの店まであるし」

「色々とあり過ぎじゃないのかな……?」

「本当にね、でも実質新都住人にとっては必要不可欠な所だし問題ないでしょ」

 地上の正面口から施設の中へとお邪魔する。

 施設の真ん中辺りは開放的な吹き抜けになっており、最上階まで数十メートルはあるだろうか。

 中央の吹き抜け部分には色鮮やかな帯の様な物が縦横無尽に伸びており、ちょっとした芸術品の様な印象を覚える。

「さあ、上の階から目的の物を順繰りに買っていきましょうか」

「いいのかい? 他に私用の物とかを見に回っても問題ないけど……」

「それはオフの日。今日は寮で使う物を買いに来たんだから」

「こっちは気にしないんだけどなあ……まあ、真澄さんがそう言うのなら」

「さ、まず最初は各自の収納BOXからよ。上の方に家具屋があるから、そこから行きましょう」

「了解」

――こうして久し振りの平和な時間を過ごすこととなった。


 1時間ほど掛けて多宝の店々を回り――地上階の入り口前に来ていた。

「だいぶ買ったね」

「そうね、おかげで大荷物だわ」

 自分の両手に買い物袋と右肩から掛けた紙袋には組み立て前の収納ケースが入ったダンボール。

「さて、ひとまず用事は済んだけれども……この荷物だし大人しく帰る?」

 真澄さんの提案。

「うーん、自分は特に用はないから真澄さんに合わせるよ」

「そうね……そうしたらちょっと寄りたい所があるから付き合ってくれる?」

「了解です」

 外へと出ると、タクシーを拾って真澄さんが聞き慣れない住所を運転手さんに告げる。

「今からどこへ?」

「私の家」

「え」

「ちょっと物を取りにね。別に智慧くんを道場に連れて行こうだなんては思ってないわ、本当に荷物を取りに行くだけよ」

「それならいいけれど……」

 タクシーが交通量の多い新都の道路を進んでゆく。

 神禄の現代的な物がほとんどなかった山から離れてはや2か月程。最初に比べたら街の喧騒には慣れてきたが、やはりまだ人と人工物の多さに圧倒されるというか物怖じてしまうのが抜けきらない。

(月季と鶫はどうしているかな? 美夜が一週間に一度、スマホで屋敷のパソコンにメールを送っているらしいけど……)

 南区から北上――つまり中央区画側へとタクシーが走る。

 窓越しに前方に見えてくる、緑に覆われた大き目な敷地。

「真澄さん、前のあそこの緑は一体?」

「あそこは『中央区第一公園』ていう場所、そこそこ広くて中は林に池とか色々あるわ」

「ほうほう」

「智慧くんが期待するほどの規模ではないわよ? ランニングするには丁度いい、それ位の物だから」

「なるほど……ちなみに自然があるって事は荒霊とかも出たり?」

「うーん、龍脈が通っているとか、綻び易いとかって話は聞かないわ……何か気がかりでも?」

「まあね、もし街中で荒霊が出たらどこで祓おうかと思って。流石に街中で刀振り回すわけにも行かないだろ?」

「ああ、それは気にしなくて大丈夫よ。新都住人は皆、荒霊が出るの慣れてるから」

「えぇ……」

「新都って月に数回、不規則的だけど『綻び』が出来るのよ。それで住人の大半は慣れちゃってるから街中で刀士遣が大規模な祓いをしてようが、陰陽師が大勢で祝詞唱えていようが全く気にならないわけ」

「危機感薄くなってるのって危なくないかい?」

「まあね、でも新都は区画ごとに神籬の支部があるし。新都住人の殆どは荒霊が出てきても野生動物が山から降りてきた、位の感覚だから」

「ええ……」

「まあ、智慧くんが危惧するほどデリケートな住民はいないし、むしろ祓っている姿をカメラとかスマホとかで撮影し始める豪胆者までいるから」

「いくらなんでも危機管理能力が無さ過ぎるのでは……」

 もしかしたら新都の人々は自分が予想しているより神経が図太い人が多いのだろうか。

――突如、肌を針でつつくような嫌な感触が喉元を襲う。

「……?」

 思わず手をやり、何も無い事を確認する。

「どうしたの?」

「……来るかも」

「へ? 何が来るの?」

 この奇妙な感覚は昔から幾度となく、自分の身体に襲ってきた。

 そして、この感覚の後には必ず『アレ』がやって来る。

「ごめん、俺はここで降りるよ真澄さん。荷物と財布を預けとくから――すみませんここで止めてもらえますか?」

 タクシーの運転手さんの怪訝な顔。

「ちょっと智慧くん、突然どうしたのよ」

「多分だけど……荒霊が来る」

お待たせしました第三話となります。

今回は終わりまで書き終わっておりますので、コンスタントに出せると思います。

前書きはとりあえず書いてみたという感じです。次からは前略で投稿していきます。


次回更新は21日か22日の夜にも上げる予定です。遅い更新と稚拙な文のせいで読んでいる人が全くおりませんが、とりあえず上げてはいきたいと思います。


誤字脱字、矛盾点、他作品との酷似等々ありましたらご連絡お願いいたします。

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