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神禄剣鬼伝  作者: 真赭
10/31

弐ノ巻【水禍】壱

序章第一話です。

今回は学園モノ恒例のオリ合宿が舞台となります。

 復帰して落ち着く間もなく始まった神那岐学園の初日からはや4日、いよいよ明日に新人の合宿が迫る――前日の夜。

『智慧、キチンと荷物はまとめましたか? いざという時に無くて泣き目を見るのは智慧ですからね』

 部屋で一般教科の復習をしていると後ろから聞き慣れた声。次いで背中と後頭部に重みが。

「大丈夫だって。昔の山籠もりみたいに着の身着のままで放り出されないみたいだし――ていうかのしかからないでくれって」

 首に腕が回されて暑苦しい、というか着物と合わさって非常に重い。

『いいじゃないですか、ここ最近の智慧ったら構ってくれてないです』

「そりゃあ祓魔士の訓練と授業で忙しいからだよ」

 ペンを置き、美夜を押しのけるとわざとらしく机の横に置かれたベッドに倒れ込む。

『んもう……始めるには少し早い時間ですよ? まあ智慧が我慢できないのでしたら喜んでお相手しますが――』

 露骨に『しな』を作って来いと言わんばかりに両手を開く美夜。

「こっちは未成年だ」

 かれこれ2時間ほど机に向かっていたか、小休憩を挟んでも文句はないだろう。

 椅子から立ち上がり凝った背中や腰を伸ばす。

『むう……もういいです、パソコンで動画見てますから』

 現代文化に染まりきった鬼が置いていたノートパソコンを手に取ると、ベッドに寝転がり慣れた手つきで使い始める。

(何も知らない祓魔士が見たら卒倒しそうな光景だ)

 自室を後にし、廊下を抜けてリビングへ。

「――あら源くん休憩?」

「2時間は善戦した方だよ、いてて……」

 共用冷蔵庫に入れていたお茶りのボトルを手に取り、リビングに置かれたソファに腰を落とす。

「真澄さん、それは?」

 ソファにリラックスして寝そべり、文庫本に視線を落としていた真澄さんが顔を上げる。

「休みの日に家から持ってきた小説」

「真澄さん剣術以外に趣味あったんだ……」

「失礼ね、そういう源くんは趣味あるの?」

 器用に座り直しながら真澄さんが聞いてくる。

「うーん……無いや」

「人の事言えないじゃないの」

「……ああ、一個だけ昔からやってた事があったかな」

「剣術は無しよ?」

「それじゃあ無い」

 呆れ顔の真澄さん。

――結局、自分の寮部屋は再度割り振られる事は無かった。

 理由は単純、確保できる寮の空き部屋が無く、男子部屋は全て満杯だったからだ。

 事情を説明すると真澄さんは嫌がる顔もせず愚痴も溢さず、普段と変わらぬ表情のままだった。

 普通なら嫌がる筈だが……やはり幼少期から男弟子に囲まれて付いた、男勝りな性格だからだろうか。

 そして、沢山の生徒が生活する寮とは言え一つの建物の中なので、自分と真澄さんが同じ部屋に住んでいることが同じ階の住人に知られ、波紋のように瞬く間に話が伝播していった。

 お陰で最初は男子組からボコボコにされかけたが、相手が真澄さんと知ってから怒りは収まり。以降は静かな敵意と少しばかりの憐憫を男子組から向けられるようになってしまった。

 祝や棗、他のクラスの面々が遊びに時折来るが、何故か真澄さんが部屋にいるのを知るや回れ右して帰っていってしまうのだ。

 その逆の場合もこれまた大変で。

 面倒見と社交的な性格の良い真澄さんなので数日足らずでほとんどの女子と仲良くなっており、定期的に女子達が数人遊びに来る度、自分は寮の共用スペースに避難しなければならなくなるのだ。

 しかも、女子達が来ると真澄さんが美夜を捕まえて女子会に巻き込んでいるので、身内以外には興味を持たない性格の美夜のストレスが日に日に増して来ているのもある。

 なので先程のように、露骨にじゃれてきたりベットに潜り込んできたりとこちらの日常生活にも影響が出ている。

(まあ……こちらは別段気にはならないからいいんだけれども)

 当の真澄さんがどう思っているかである。剣士とはいえ曲がりなりにも彼女は自分と同じ年頃の女子である。

 男弟子と鍛錬してきたから大丈夫とは言っているが、本心はどうなのだろうか……?

「――そうそう、明日の合宿で変な話を聞いたわ」

 パタリと本を閉じ、こちらを見向く真澄さん。

「変な話?」

「うん、何でも合宿先が急遽変更になるとかならないとか」

「急すぎじゃないかな?」

「全くよ。合宿先の奴鹿湖は特に強い妖怪が出た事は無いし、あそこは土地神様が常にいるから比較的安全なんだけれど」

「そう言えば新都に住んでいたんだっけか真澄さんは。その奴鹿湖はそこそこ有名なのかい?」

「まあ新都住民と近隣県からしたら観光地の一つね。周りは山と森で、水質の綺麗な水と子供でも遊べる浅瀬に砂浜まであるの」

「なるほど……その土地神様は結構有名なのかい」

「老齢の大蛇ね、大祓の前の事は知らないけど。私が小さい時から普通に湖の底に住まわれてたわ。水辺で寝てたり、日光浴しに砂浜に横たわってたり、現れた堕ち成りを一呑みにしたり……自由気ままな話しか聞いたことがないわ」

「そこまで人間と密接な土地神様だと荒れ狂うのはありえないか」

 余程人間に寄り添っている妖怪なのだろう。

「曲がりなりにも土地の主だしね。でも神籬が中止するほどってなんだろ?」

「余程の妖怪が出たか、合宿先の建物が物理的に壊れて使えないとか……あとは土地神様に何かあったとか?」

「最後が冗談に聞こえないから止めてよね、もう」

「まあ、急遽変更されない事を願うしかないか――おっと男子風呂の時間だから少し外すよ」

「ええ」

 別れを告げ、変えの衣類を取りに部屋へと入る。

「あっこら、ベッドの上でお菓子を食うなっての」

 肘をついて寝転がり、ノートパソコンの横には口の開いたポテトチップスが。

『大丈夫ですよキチンと溢さずに食べてますから』 

「それでも駄目だ」

 パソコンと菓子袋を取り上げ、机に置く。

『もう、まるで鶫みたいですよ』

「その本人に教育されたからそりゃ似るさ――帰ってきて元に戻ってたらパソコン没収だからな」

 部屋に備え付けの半透明の引き出し付きケースから下着と肌着を取り、タオルに包んで部屋を出る。

 土間でサンダルに履き替え、長時間の勉強で固まった腰を擦りながら部屋から出る。

「――お、ジャストタイミングじゃねえか」

 ばったりと出会ったのは簡素な格好の祝。

「そっちも風呂か」

「ああ、シャワーだと物足りねえからな」

「それについては同意できる」

 他の男子も風呂に向かうべく廊下を歩いている。

「それで智慧よう、真澄さんとはどこまで進んだんだ? もう済ませちまったか」

「そんな事できるわけ無いだろ、普通に生活しているよ」

「カーッ! まだ手ぇ出してねえのかよ、それでもナニ付いてんのかぁ?」

「大体お互いに未成年だっての。バレたら停学だろ」

「でも神籬じゃあそれについては言及ないぜ。停学しても神籬に就職すれば問題ねえ」

「そういう問題じゃないだろ……そもそも真澄さんに対してそういった感情は無いよ」

「おいおい、まじで男かお前? 付いてるよな……」

 こちらの急所を握ろうとしてくる祝の手を払い落とす。

「せめて可愛いとか綺麗だくらいの感情はあるよな? なかったらお前を今日から修行僧って呼ぶぜ」

「流石にそれくらいはあるよ――そんなに言うなら真澄さんにアタックしてみよろ祝」

「いやいやいや! 俺は仲睦まじい仲に無理矢理と割り入るほど下種野郎じゃねえぜ、むしろ俺は応援している側だ」

「応援てなんだよ」

「そりゃあ真澄さんとお前さんがくっつく事よ。剣の話も通じるし、ちょっと雰囲気似てるしお似合いだぜおたくら」

 つくづく祝は色恋沙汰の話になると饒舌になる……いや、この歳だとこれ位が普通なのだろうか?

「そういう祝はどうなんだ?」

「俺か? 俺は可愛子ちゃんに片っ端からお誘いしてるけど、刀の峰でぶっ叩かれるか蹴り飛ばされるかで20連敗目だ」

「その意気を祓魔士に活かさないのか……」

「それはそれよ。いやはや、祓魔士に来る女子は皆してお固い奴ばかりでなあ。美人は多いがつけ入る隙がねえのよ」

 階段を下りながらろくでもない会話をする。

「そりゃあ祓魔士になる為に来たんだからな。イロに抜かすなら剣の練習する性格ばかりだろ」

「そうなんだよ。でも、たまには息抜き重要だろ? そこでほぐし水役の俺よ」

「また随分と微妙な役割だな……」

 浴場は寮の一階にあるので、少し廊下を歩く事になる。

 時折すれ違う女子が自分や祝の顔を一瞥するや、小声で何やらヒソヒソと話ながら去ってゆく。

「……なあ祝」

「なんだ、いい感じの部屋のセッティングか? 人払いは任せとけ」

「いやそうじゃなくて……気のせいかもしれないんだけど、何か他の皆から奇異な目で見られてるような気がするんだ」

「そりゃあな」

 祝の容赦ない肯定の言葉。

「ビックネームな一族の末裔で尚かつ伴獣は前例が妖怪しか記録のない鬼、加えて寮では超絶有名処の女子と同居してるんだ。目立たない方がおかしいぜ――お前は漫画か小説の主人公か?」

「そんな訳ないだろ」

 だが祝に言われてみるとかなり特殊……なのだろうか? 前者2つは今の今まで意識した事がなかったら実感が沸かない。

「だけど何をやってもお前さんは目立つぜ。それこそお前よりもっと目立つ奴が出てきたらの話だが」

「……いるのか?」

「いなくはねえがお前さんには霞むかねえ」

 思わずため息が出てしまう。腹を括って受け入れるしかないのか。

――話している内に共用浴場に到着する。

「しかしあれだよなあ、神籬って政府非公式の組織だけど金はべらぼうにあるよな。ここの寮とか一流大学レベルに整備されてるしよ、男女別にでけえ浴場作るなんて普通の学校はしないぜ? 時間割で一つを使い回すとかだ」

「たしかに……神那岐学園――神籬って後援会社いたっけか」

「公にはしてなかったな。色々と関係性を公開するとうるさい連中がいるから非公開にしているとか何とか」

「へー」

「まあ五剣の面子を見れば大体は分かるけどな」

 脱衣所で服を脱ぎ、腰に巻いていざ中へ。

「分かるのか」

「ああ、特に卜部氏と矢坂氏は顕著だ。卜部一族は陰陽寮を始め国内の複数企業を運営しているマジもんの上流階級。矢坂氏は『矢坂重工』って言えば分かるか」

「ああ、陸上自衛隊の車両とか銃火器造っている所だろ?」

「正確には防衛火器と車両及び船舶な――まあ、そのど偉い一族の一人がいるんだしお前さんでも何となく金の出処は分かるだろ?」

 どうして祝はこんなにも詳しいのだろうか?

「俺がこんなに詳しいのが不思議に思ってるだろ?」

「ああ」

 身体を綺麗に洗い、次いで汗と土で汚れた髪の毛を洗髪する。

「そりゃあこの業界は噂話が面白いからだよ。誰も知らない事を知る事ができるってかなりワクワクするだろ?」

「分かりやすい理由だ」

「そうそう、探求の原動力は単純なもので良いんだよ。そうだ、俺の愛読書である週刊誌貸してやろうか? 低俗眉唾上等の一冊だぜ」

「神籬の祓魔士がそんなもの読んで大丈夫なのか……?」

「おうよ、キナ臭い話とか都市伝説とか大好物だからな」

 ケラケラと笑う祝が手ぬぐいを肩にかけて湯船に先行する。

 遅れて洗体を終え、綺麗になった身体で湯船に浸かる。

「おぉ〜……やっぱり一日の締めは風呂だな」

「中年臭い」

「風呂上がりにビールかキンキンに冷えた炭酸でも飲みてえな」

「成人してないだろ――まさか祝、ダブリじゃないよな?」

「んな訳ねえって、お前とタメだよ」

――こうして平和な夜が静かに過ぎていくのだった。


翌日・朝


 学園敷地内、第一学年棟正門前に祓魔士候補生総勢187名が制服に身を包み、規則正しく整列していた――

 自分達の制服の意匠とは少し違う祓魔士の制服を身に着けた壮年の男性祓魔士が、拡声器片手に元声を張り上げる。

「これより新入生短期訓練合宿を始める。場所は――」

 昨夜の真澄さんの会話が蘇る。

「――新都より北西に約13キロ地点にある『奴鹿湖』となる。移動は大型バス6両、到着次第事前に組んだ班員同士で合流し、班長が課題を柊教官まで受け取りに来るように。それでは担当の指示に従って行動を開始!」

 ゾロゾロと正門前の新入生が動き始める。

 所定のバスへ向かい、荷物を車体下に収納してから太刀片手に車内へ。

 自分の該当席に座り、車内の騒音に晒されながら出発を待つ。

「――あら、隣が源くんなのね」

「真澄さん」

 鞘入りの刀片手に立った真澄さんが。

「まあ、名字の順番的にそうなるわね。偶然じゃないか」

 真澄さんは窓側なので席を立って奥席へ。

 祝や棗、土御門さんと月島さんは離れた所に。

「それでは出発する。予定時刻は正午前だからそれまでは大人しくしているように」

 ここら辺は学生の気分なのかクラスメイト達が間延びた返事を返すと、バスが発進する。

「学園からだと湖にはどれくらいんで着くんだろう?」

「大体小一時間くらいだと思うわ」

「そんなもの?」

「まあ、半日も離れた所には行けないでしょうからね」

 すると横に掛けた真澄さんの後髪辺りがもぞもぞと動く。

『よっと』

 出てきたのは白藤。真澄さんの腕を伝って膝に降りると、大胆に横たわる。

「ちょっと白藤、なに勝手に出てきてるの」

『窮屈だったから出てきたんだよ、別にいいだろ?』

「今、車の中なんだからせめて外に出てからにしてよね」

 首根っこを掴み、バスの窓をわずかに開けると――容赦なく外に放り出される。

「えっ……」

「平気よ、昔からこんな感じだじね」

『――本当にな、昔から可愛くねえ小娘だとは思ってたが最近それに磨きが掛かってきてるぜ』

 今度は自分の膝上に現れ、問答無用で横たわってくる。

『ちょいと膝を借りるぜボウズ』

「お好きにどうぞ」

 この数日間で随分と慣れたものである――妖怪に関しては自分の体質の影響もあるかもしれないが。

「酷いこと言ってくれるじゃない、また窓から捨てられたい?」

『おお怖え……なあ、坊主の方からも奏に何とか言ってくれよ、もうちょいお淑やかにしろってよ。だからいつまで経っても男の1人や2人作れないんだぜ』

 ギッと白藤を睨みつける真澄さん。

「余計なお世話よ」

『知ってるかボウズ、奏の奴って他流派の道場や他の門下生から陰で【天國の女夜叉】って呼ばれてるんだぜ。理由は単純、気が荒くて剣の腕が立つからだ』

「ちょっと、人の恥ずかしい話しないでよ」

『本当だろー? 他の門下生達から手加減するよう説得してくれって相談くるんだぞ、俺』

「なによそれ、初めて聞いた」

『そりゃあ言っても無駄だって突っぱねたからな。お前の性格じゃあ手加減なんて知らねえだろ』

「当たり前じゃない。手加減して鍛錬するのと本気で鍛錬するのとじゃあ身に染み込む経験の質が違う、手抜きは認めないわ」

 スパルタというか生真面目というか……実に真澄さんらしい。

『な? だからモテな――』

 膝上の白藤を鷲掴みにし2回目の投棄。

「もう……! この話は終わり!」

「了解しました……」

 これ以上は刃傷沙汰になるかもしれないので大人しくしておく。

 舗装された道路をバスが走り――やがて前方に見えてくる、山間から見える遠目からでも分かる程の綺麗な湖。

 湖を沿うように走る道路をバスが進み、10分ほど進んだ所で山の方向に続く道に入る。

「こっちだと……何処だったかしら」

「前に来たことが?」

「新都の住人なら行楽かハイキングって言ったらここの湖くらいしかないもの――言っても、小学校の時だから数年前の話だけどね」

「たしかにそれほど深い山って訳でも無さそうだしね」

 そして、山道をしばらく進み――到着する大きな駐車場とその後ろに見える、瓦屋根に木壁の古風な外観の建物。

 その横には横に長く平たいコンクリの大きな建物が伸びており、広がる自然の中に突然の人工物が現れてなんとも違和感を覚えてしまう。

「ああ、ここって神籬の施設だったのね……」

「ここも覚えがあるのかい」

「ええ、小さい頃に何度か家族の用事でここへ一緒にね。今思い返すと納得が行くわ」

 バスが停車し、柊教官の指示が飛び降車する。

 荷物をまとめ、出発前に言われていた通り班で集合する。

「はは、なんだか普通校の合宿みたいだな」

「そうだね、中学も似たような事した記憶があるよ」

 祝と棗が呑気に話している。

「シートが固かったせいでお尻が痛い」

「渚さん、女性がみだりにそういう事を口にしては駄目ですよ? もう少し慎み深くないと」

「でも本当に痛い……奏、揉んで」

「なんで私に振ってくるの」

 この短期間でかなり打ち解け合っている女性陣が話に花咲かせている。

「っと……それじゃあ教官から課題を確認してくるわ」

 真澄さんが荷物を置き、腰に刀を帯びながら教官の方へとゆく。

「うーんしかし見渡す限り自然しかねえな」

「いいじゃないか、俺は街中より山とかの方が好きだけどな」

「うへえ、現代っ子とは思えないねえ。猥雑とした街の喧騒も乙なもんだぜ?」

「詩的な表現だな」

「だからこういう静かな所でも刺激を求めちゃうわけよ、俺は」

「実に芦屋くんらしい言葉だね」

 棗の呆れ顔。

 すると、祝がこちらに寄って来ると腕に首を回して顔を近付けてくる。

「なんだよ」

「道中、イイもん見つけたからよ。自由時間になったら行かねえか?」

 道の途中……何かあっただろうか? 民家と小さな個人商店、あとはコンビニくらいしかなかったような。

「……分かった、例の小屋だね?」

 話に加わって来る棗。

「おうよ、神禄の時代にお目にかかれるとはな。てっきり平成と令和の時代に完全撤廃されたかと思ってたが……ド田舎だから回収を免れたのか?」

「なんだよそれ」

「まあ、神禄生まれなら知らないのが普通だししゃーねえな……実際に体験した時に教えてやるよ」

 ニヤニヤと何かよからぬ事を企んでいる祝。

 多分ろくでも無い内容の話をしていると、戻って来る真澄さん。

「お待たせ皆。これが男子組の部屋の鍵ね――それと合宿での課題の内容は後で話すわ」

「歩きながらじゃあ駄目なのか?」

「ええ、少し落ち着けるところで話すわ」

 見えていたコンクリの建物へと向かう。

 どうやらこちらの建物は宿泊施設のようで、瓦屋根は屋内修練場の様。

「おお、こりゃすげえな、少なくとも平成時代の建物だぜ」

 スマホで写真を撮り始める祝。

「神籬の施設の撮影って機密保護に触れない……?」

「あっ……それもそうだな、流石にやべえか」

 中へと入り、色褪せた壁や微かに汚れた天井が迎えてくれる。

「それじゃあ部屋に荷物を置いたらすぐに入り口まで来て。訓練まで10分ほどあるし、その時間で話すから」

「分かった」

 女子組と別れ、荷物片手に廊下を進む。

 割り振られた番号の部屋に着き、少し立てつけの悪いドアを開いて中へ。

 清掃された部屋の中、寝具が置かれた二段ベッドが二つにテーブルと小さな冷蔵庫が一つ。

「俺は内側を貰うぜ。寝てる間に虫に入り込まれたらたまったもんじゃねえや」

 祝が通路側のベッドに荷物を放り投げる。

「それじゃあ行こうか。それにしても課題はどんなのなんだろうね? 面白そうな物だったらいいんだけど」

「お前さんの面白いは一般人からしたら滅茶苦茶キツイから勘弁してくれや」

 冗談を言い合う2人が部屋から出ていく。

「っと……美夜」

『――お呼びですか?』

 現れる見慣れた顔。

「ええと、合宿の間なんだけど……呼ぶまで絶対に出てこないでくれるか? 出てくるのは構わないけど、いつもみたいに着いてこないでほしい」

『うぇっ!? 反抗期!? 反抗期ですかっ!? それとも男児年頃ゆえの悩みですか!?』

 鬼の目にも涙、弱々しく半身に縋りついてくる。

「違うよ。これは俺が祓魔士として鍛えるための合宿なんだ、いつまでも美夜に頼っていられないからそれでだ」

『うう……それでは智慧の寝床に潜り込んだり、湯浴み姿を5K録画したりするのは駄目なのですか?』

「そんな事してたのか……とにかく、前みたいに始終付き添わなくて大丈夫なんだ。呼んだ時だけ来てくれるだけでいいから」

『まるで都合のいい女じゃないですか――ですが、これも智慧の鍛錬の為です……分かりました、智慧から呼ばれるまでは絶対に出てきません。鬼の名に誓いましょう』

「ごめんな」

『大丈夫です! 智慧の為なら何でもしますし、何でもいう事聞きますから! それでは智慧の呼びかけが来るまでお別れです』

 美夜の姿が煙の様に揺れ消える。

(そうだよな……いつまで経っても美夜に頼りっぱなしは駄目だ。独りで戦う事に慣れないと)

「おーい智慧よう、さっさと行くべ」

「悪い悪い」

 太刀を佩き直し、部屋を急いで出ると元来た廊下を進んで、先程の入口へ。

「これで全員集合ね。こっちに来て」

 真澄さんが宿泊施設から離れるように歩き出す。

 宿泊施設に隣接には訓練用の設備や場所があり。学園にあるグラウンドに似た拓けた場所や、大小様々な障害物が置かれた所などと色々。

 少し歩き、水飲み場のある所へとやって来る。

「……ここなら誰にも聞かれてなさそうね」

「奏さん? まるで誰かに見られたくないような、そんな顔をしていますが」

 土御門さんが真澄さんに尋ねる。

「そうね……たしかに他の班には聞かれたくないわ。皆、これを見て」

 真澄さんが制服の内ポケットから一枚の紙を取り出してその場で開く。

 自分を含めた他の面々が紙に書かれた内容を読み――表情を変える。

「こいつあ……」

「……随分と難題をふっかけられた」

 紙には単純ながら到底信じられない文が書かれていた。

『奴鹿湖に出没する蛟の妖怪を祓え』

「奏さん、これは本当に柊教官から渡された課題なのですか?」

「ええ、キチンと本人から手渡しで渡された」

「うーん……蛟かあ。個体差によるけど殆どは第四級上位、もしくは第三級下位相当。新人の僕達なんかで挑みかかっても5分と経たずに食い殺されるね」

 のんびりとした棗が恐ろしい事をさらりと言い放つ。

「いくらなんでも無茶ぶりだぜ。マジで神籬は新人にクソ面倒な仕事を押し付けるのかよ?」

「間違いとかではなくて?」

「ええ、間違いではないわ渚ちゃん。これを見て」

 真澄さんがさらにもう一枚紙を取り出す。

「これは……? 神籬の記章の印で封がされていますが」

「もう一枚渡されたの。柊教官が班全員で読めと仰ってたわ」

 真澄さんが封を開き、紙を広げる。

「――おいおい学園長殿直々の伝達かよ」

「うーん、本当みたいだねえ」

 内容は合宿中に蛟を祓う事、もし失敗した場合は祓魔士の本隊を出動させる事。

 祓魔士として経験を詰むのはおおいに理解できる行為だが、所属して間もない新入生に力のある妖怪を祓わせるのは無謀としか言いようがない。

(何かの意図があって俺達に渡したのか……人手不足とか間違いじゃないのは確かだろうな)

 妖怪の『蛟』は水辺に生息する老齢の大蛇や、力を付けた蛇などが成る妖怪の一種。総じて人に毒や水害などで災いを成すため、警戒するに値する狂暴な妖怪である。

 村の時は蛟に近い大蛇を祓っただけで、本物の蛟は祓った事がない。

(大蛇は大きい図体だけでそれ以外の厄介な事はしてこなかったけど……蛟となると少し話が違うんだろうな)

 果たして自分の技が通用するのか? もしかしたら一太刀も浴びせられないまま食い殺されるかもしれない。

「どうするよ班長殿? こいつあ俺達には荷が重いと思うぜ」

「分かってるわ芦屋くん。午前の訓練が終わったら私から柊教官に掛け合ってみる、進展があったら必ず皆に伝えるから」

 真剣な面持ちの真澄さん。

「――皆さん、そろそろ訓練が始まる時間です、急がないと」

 土御門さんの言葉を区切りに、課題の話は終わりを告げた。

次回更新は1月末か2月頭あたりに出したいと思います。

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