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7.恋物語の二人


 「うん、多分あっちだ。」


 シェンは西の方向を指差した。エリナーとシェンは現在、ちょうど王都の中心にいる。


 「ねえ、エリーあっちの方に何があるか知っている?」


 エリナーは首を横に振った。王都に来たのはエリナーも初めてである。その事を伝えると、シェンも「僕もなんだ。」と教えてくれた。そして、困ったなあと続けた。


 「ねえ、どうしてあっちにいるって分かったの?」


 思わず聞くと、シェンはハンカチを取り出して見せてくれる。


 「王子が落としたこのハンカチの匂いを辿ったんだよ。年が近いから何度か王子には会ったことがあるし、匂いを覚えていたんだ。」


 「シェンって鼻がいいのね??」


 「そうなんだよ。」


 いや、そう言う問題ではない。しかし、エリナーの小さな頭の中には多くの疑問が渦巻いている為、エリナーはこの時、「そっかあ」としか言えなかった。


 「じゃあ、行こうか。」


 そういって、シェンはまた古代語を唱える。


 「翼を与えたまえ」


 シェンの体に風がまとわりついた。しかし、今度は先ほどの様に私の体は風に浮かされなかった。どうしてだろうと思っていると、シェンがこちらに手を差し出して来る。


 「僕は他人に空を飛ぶ魔法を付与することは出来ないんだよ。だから、僕の手に捕まって?」


 エリナーはシェンの言葉に従って手を差し出した。するとシェンはエリナーの体を抱き寄せたのだ。いつも、兄たちがエリナーを抱っこしてくれるがそれとは違う、顔が熱くなるような感覚をエリナーは覚えた。シェンの方は何も気にしていない様子で、空に羽ばたこうとしている。


 「しっかり捕まっていてね!」


 頷くだけの返事をエリナーがすると、シェンは王子がいると示した方向へ体を傾けた。すると、先ほどまでただ空中に浮いていただけの体が、風を切って前に進みだしたのだ。空高く、痛いくらいの風を受けて髪ぼさぼさだけど、エリナーは強く思ったのだ。


 「私、絶対に魔導士になりたい!こうやって、自分で空を飛べるようになりたいの!」


 突然叫びだしたエリナーに、シェンは驚いた様子だった。


 「よく分からないけど、君ならきっとすごい魔導士になれるよ!」


 「うん!ありがとう!」


 エリナーが空の旅に夢中になっていると、あっという間に目的地に着いたようで降りるけど危ないからちゃんと僕のことを掴んでいてねとシェンに言われた。

 降りた所は大きくて立派な廃墟がある場所だった。


 「本当に、ここに王子様とお姫様がいるの?」


 「うん、この辺りは王子の匂いが濃いから、絶対に二人はいるはずだよ。」


 本当に鼻が良いのだなあと感心していると、シェンはしーのポーズをとってこちらに向けて来る。


 「声が聞こえる。」


 そう言って、シェンは耳を澄ましている。しかし、エリナーに全く声は聞こえてこない。

 不思議に思っていると、シェンは廃墟の裏側に着いてくる様にエリナーを促した。すると、だんだんエリナーにも人の声が聞こえて来たのだ。シェンは耳まで良いらしい。まるで犬みたいだとエリナーは思った。


 「レオ様、こんなに楽しいのは生まれて初めてです。」


 かつて、廃墟の庭だったであろうそこには花々が咲き乱れていて、そこにはとんでもなく綺麗な女の子が頭に花冠をのっけて微笑んでいる。


 「そうか、君に喜んでもらえて、俺もうれしい。」


 綺麗な女の子が微笑んだ先にいるのは、これまたとんでもなく綺麗な男の子である。こちらも花冠を頭にのせているけど、髪も短いし、男の子の格好をしているので、多分男の子である。

 

 「あの子たちが王子様とお姫様?」


 「そう、レオ王子とグレース皇女。」


 「二人とも、すごく綺麗で可愛いね。」


 「もし王子に会う機会があっても、絶対に王子にそれを言ったら駄目だよ。」


 どうしてか聞こうとしたがつい先ほど、シェンに可愛いと言われても嬉しくないと言われたのを思い出したエリナーは素直に了解した。


 「この後は、どうするの?」


 「ちょっと待ってね。」


 そう言うと、シェンは少し離れた場所へ行って何かをしていた。

 エリナーは王子様とお姫様の方に視線を向ける。花畑で微笑みあっている二人は、恋の物語に登場する王子様とお姫様そのもので見ているだけでうっとりしてしまった。将来、あの二人が結婚してこの国を治めるのかと思うとこんなに素敵なことはないだろう。


 「エリナー、王子たちは見つけたし、僕たちはもう行こう。」


 「え、もう行くの?」


 「うん、僕の仕事はあの二人を見つけることだけで、連れ戻せとは言われてないからね。邪魔したらあの二人に悪いし。」


 シェンの事情はよく分からないが、あの二人の邪魔をしたら悪いというのには同感だ。あの砂糖菓子の様に甘いひとときを自分が邪魔するなんて、あまりにもばつが悪い。


 「分かった。お母さまのところへも早く帰らなければいけないし、さっさと行こう。」


 



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