5.迷子
「エリナー、あまりきょろきょろしないの。貴女は小さいからあっという間に人攫いに遭ってしまうわ。」
オリビアがエリナーに注意をする。
「わかったよお母様!」
エリナーはそう返事をしたものの、周囲を見渡す事をやめられない。馬車で王都の門を通ってから、バイロン領では見たことがない様な建物が沢山あった。今は母が「お茶にしましょう」と言うので、今は上流階級の人々が集まる地区に来ているのだが、ここに来るまでにエリナーは母に早く馬車から降りて歩こうとせがんだ。エリナーがあまりにしつこいのでオリビアは降参して「マリー地区に入ったら馬車から降りましょう。」と言ってくれた。母が言うには上流階級の人々がお買い物をしたりお茶をしたりする場所をマリー地区と言うらしい。
少しだけ歩いたところで母が立ち止まったのは、可愛らしい外装のお店だった。
「ここでお茶にしましょ。今流行りのサロンなんですって。一度来てみたかったのよ。」
母は笑顔でエリナーに語り掛ける。とてもわくわくしているようにエリナーにはみえた。エリナーと生まれ変わって初めて来れたカフェなのでとてもお店に入るのが楽しみだ。
「わあ、とっても綺麗!」
「そうねえ。」
エリナーの言葉にオリビアも同意した。店内に足を踏み入れると、そこは花園をそのままカフェにした様なそんな空間だった。部屋の中央には噴水があって、季節の花々が沢山浮かんでいる。柱には薔薇が絡まっており、それぞれのテーブルには中央に花が飾られている。
エリナーとオリビアは店員に案内されて、紫陽花が飾ってあるテーブルに座った。オリビアはおすすめの紅茶とケーキを注文し終えると、エリナーに語りかける。
「このサロン、初めて来たのだけれど本当に素敵ねえ。」
「うん!ケーキも楽しみ!」
「エリナー、お茶が終わったらお買い物をしましょうね。お勉強の時に使う可愛い文房具を買いましょう。」
エリナーは元気にうなずいた。
2人は紅茶とケーキを充分に楽しみ、サロンを出ようとした。すると外が騒がしいことにエリナーは気がついた。
「ねえねえ、お母様?何か外が騒がしくない?」
「そうねえ。どうしたのかしら?」
そう言いながら2人は外に出た。すると、この地区には似合わない軍服を着た男たちが何やら騒いでいる。
「あら?あれは多分、、、王族の騎士団だと思うのだけど。かなり大変な騒ぎなのかも、、、」
「王族の騎士団?どうしてわかるの?」
「彼らは獅子の牙が描かれている紋章を身につけているでしょう?王家の紋章は獅子、だから王家の騎士団は獅子の牙って事なのよ。」
「ふーん?それにしても、どうしてその騎士団が沢山いるのかな?」
エリナーとオリビアが不思議がっていると突然、近くにいた身なりの良い男の子が声を発した。
「レオ王子と皇国の姫君を探しているんだよ。」
2人はその男の子の言葉に驚いた。
「えー!それってすごく大変じゃん!」
「だから王家の騎士団たちが騒いでるのねえ。でも坊や?どうしてそんな事を知っているの?」
オリビアが尋ねると男の子は急に狼狽はじめた。
「あ?え?僕、今の声に出してました?!」
どうやら、うっかり発言だったらしい。
「ええ、すごくはっきり話していましたよ?」
オリビアが男の子に追い討ちをかける。
「通りすがりの人が噂をしていたんですよ!今日は近隣諸国の王子や姫君たちが集まってのお見合い、、、じゃなくてお茶会がありますから、それと関連付けて民が噂をしているのではと思います!」
すごく早口で何やら焦っている。
「あらそうなの、分かったわ。それより坊や、お父様かお母様は近くにいるの?もしかして、この騒ぎではぐれてしまったとか?」
「え?いえいえ!近くに従者がいますので、それでは!」
と言って男の子はあっという間に人混みの中に消えてしまった。
「ねえお母様、あの子変なの。」
「そうねえ、あら?そこに落ちているの、もしかしてさっきの男の子の、、、」
オリビアの目線の先にはペンダントが落ちていた。エリナーはペンダントを拾い、オリビアにみせる。
「さっきの男の子が落としのかなあ。」
「多分、、、このペンダント、高価な物だわ。憲兵に預けま、、、」
エリナーは母の言葉をさえぎり、ペンダントをひったくる。
「まだその辺にいるかもしれないから、ちょっと届けてくる!」
「え?待ってエリー?」
オリビアの制止もきかず、エリナーもあっという間に人混みの中に消えてしまった。
「もう、ちゃんと手を繋いでおけばよかったわ!」